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4.個人情報は大切に

・・・なんてことだろう


 リストには僕の個人情報がつらつらと詳細に記入されていた。

 家族構成や勤務先企業はもちろんのこと、その企業内での評価、毎月の給与額、銀行口座の出入金記録、病気の既往歴、卒業した小学校から大学に至るまでの成績、学校内のでの記録、内申点や教師の評価、友人からの聞き込み、あげくにオンラインで購入したものや、視聴した動画の履歴まで・・恥ずかしいことこの上ない。親にも知られていないような情報がすべてさらされている。


「な、ひ、ひどい!!か、完全に僕の個人情報が流出しているじゃないですか!!」


「バカね。個人情報なんか調べようと思えば、すぐに調べられるに決まっているじゃない。タマちゃんの個人情報なんか、私以外の人間にとっては大した情報じゃないわよ。そこに書いていない情報も掴んでいるわ。初体験が30歳ね。ちょっと遅いかもしれないけど、気にすることないわ」


 な、なんでそんなことまで情報が流出しているんだ!僕にプライバシーは存在しないのか!!ひどすぎる!!!


「安心しなさい。情報を流出させるときは、まだ童貞で魔法使いを目指しているとか、お粗末なものが箒に変形して空も飛べるようになったとか、もっと面白い形で流してあげるから」


「や、やめてください・・・。鬼ですか、あなたは」


 大豆さんは困っている僕を見て、満足そうな表情を浮かべている。どうやら僕を貶めることに喜びを見出したらしい。とんでもなく迷惑な話だ。

 そのまま彼女は、僕をなぜ選んだのかを話し始めた。


「私の元の所有者だった女性はね。いつか自分が急に死んでしまうことがあるかもしれないと思っていたのね。事前に世界最高峰の優秀なAIで、残された私のパートナーに誰がふさわしいのかを分析したのよ」


「・・・」


「条件は3つね。ひとつめはクローンのメンテナンスができそうなこと。私たちは体内に人工筋肉や機械を埋め込んでいるから、メンテナンスができる人間が必要不可欠なのよ。ふたつめが善良であること。私たちは戦闘用に強化されているから悪人が私たちの所有者になると犯罪につながるからね。これは重要でしょ。みっつめが騙されやすそうなこと。」


「騙されやすそうなこと・・?」


「そうよ。私の話に騙されてくれないと、パートナーになれないじゃない。よく言えば人をあっさり信じてくれそうなこと、ともいえるのかな?悪く言えば、タマちゃんみたいにお人好しってことね。騙されてくれなくても、かわいい女の子の不幸な境遇に同情して、最後は首を縦に振ってくれるような人。よかったわね。私とパートナーになる条件が整っていて。両親と神様とAIと私に感謝したほうがいいわ」


そう言うと、彼女は握手をするかのように笑顔で僕に手を差し伸べてきた。

もちろん、僕は後ろ手に縛られているので握手はできない。彼女の手は僕の頬に触れると、ぎゅうっと僕の頬を挟み込み押しつぶす。


「返事はどうしたの?いい話でしょ」


 彼女は首を伸ばせばキスできてしまいそうなほど、顔を寄せてきた。その息遣いが僕の頬にかかっているのを感じる。微笑んでいるけれど、その瞳は真剣だ。


「わ、わかりましたよ・・・。どうせ、やらないなんて選択肢はないんでしょう。大豆さんの人権を取り戻すの・・・。あの、僕、運動神経もよくないし、役に立つのか全然わかりませんよ・・・」


「大丈夫よ。私に任せておきなさい。タマちゃんもそれなりに、いい感じにしてあげるから」


 それなりにって・・なんか、適当だなあ。


「ちなみに大会はちょうど1か月後よ。明日じゃなくてよかったわね」


「い、1か月しかないんですか!?ぼ、僕何もできないんですよ。ま、間に合うんですか!?」


「心配してばかりね。きんたまの小さい男は嫌われるわよ」


 きんたまじゃなくて、肝っ玉です。本当にこの人適当だな・・・。こんな人とそんな危なそうな大会に出場して大丈夫なんだろうか・・・。


「よかったわ。チーム結成ね。さ、タマちゃん、一緒に夕ご飯でお祝いましょう。確か数少ない特技が料理だったでしょう」


 触れそうなほど近くにあった唇が、安心を伴う吐息を発し、真剣で切迫した光を放っていた瞳は細く山形に変わり笑顔を形作る。

 ほっとした笑顔のまま、彼女は僕を拘束していたテープをほどいている。


「え、さっき作って食べてたんじゃないんですか!?」


「大丈夫。私が作ったのは失敗したから。やっぱりカレーに砂糖はいれないほうがいいわね。はちみつの代わりにって思ったんだけど」


「え、どれくらいいれたんですが」


「1袋」


「・・・・」


恐ろしい。雑にもほどがある。砂糖一袋入れる料理なんて聞いたことがない。業者じゃないんだから・・・。ちょっと考えればわかりそうなのに・・・。


「ま、クローンにも失敗はあるわ。ふふ。タマちゃんがいるからこれからはご飯を楽しみにしているわ」


ん?


「ところで、私の部屋はどこを使えばいいのかしら?」


んん??


なんだか、この人変なこと言いだしたぞ。ワタシノヘヤ?ワタシノヘヤとはどういう意味だ?


「まさか・・・。まさかと思いますが、大豆さん、僕の家に泊まるつもりじゃないですよね」


「え、こんな夜中にかよわい女の子を、外に放り出そうなんてまさかしないわよね。まあ、とりあえず大会までの1か月は同居するのよ。こんな美少女と生活できるなんて、タマちゃんはとんでもなくラッキーよ。一生分の幸せを使い切ってしまったわね」


「は、はあ!!??」


 いきなりの同居宣言に、僕は目を見開いて彼女を見た。心臓が一気に高鳴ってくる。

 謎の大会に参加させられるだけでなく、同居すると言い出した彼女の図々しさには驚愕しかない。クローンとはいえ20歳くらいの女の子が、僕みたいな男と同居することにためらいはないのだろうか。

 うろたえる僕を、彼女はにんまりと笑いながらうれしそうに見つめていた。


「さ、つまらないことで固まってないで、早く夕ご飯を作りなさい!一緒に食べましょう!」







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