38.決勝戦3
ガシャーーーン!!!!!
大豆さんは再び反対端まで飛ばされて、ケージに激突した。おそらく弐型X號も万全ではないのだろう。普段のパワーのままならガードした腕はへし折れていたに違いない。
「が、ガハッ!!・・・ゲボッ!!・・・・はあ、ひ、は、は、・・」
ケージに寄りかかるように立った大豆さんは、それでもまだファイティングポーズを取り続けている。全身がボロボロになりながらも、まだ勝利を諦めていない。
「形勢は完全に逆転!弐型X號が嬲るように0型A号を攻めています!!しかし、それでも、それでもまだ0型A号は闘争心を失っていない!!」
「粘るじゃないか・・・そうこなくては」
弐型X號の表情に笑みが戻る。大豆さんを殺すことに楽しみを見出している悪魔の微笑みだ。
なんとか・・・、なんとか・・・大豆さんを救わなくては、薬剤をいくら投入しても、大豆さんの身体はフラフラのままだ。視界が常にグラついていて、霞がかかったようになっている。
グシャアア!!!!!!!!!!!
三度ガードの上から大豆さんの身体を弾き飛ばす弐型X號。大豆さんの身体が、宙を舞い今度はそのまま地面に落下した。
「グハッ!!・・・・ふ!!、ひ、が、・・・・あ・・・・あ・・」
大豆さんはそれでもまだ、震えながら立ち上がる。ひざがグラグラと揺れ、まっすぐに立つことすら覚束ない状態だ。ガードし続けた腕はユニフォームの上からでも明らかにわかるほど腫れあがり、すでに折れているのではないかと思わせる。
立ち上がり弐型X號を見据えているはずの、視界には何も映っていない。おそらく大豆さんの意識はほとんど飛んでいる。混沌とした意識を支えているのは、人の権利を得たいという強い意志だけだ。
「だ、大豆さん、立っちゃ・・・立っちゃダメだ!!」
「いいぞ、いいぞ、最高だ・・・」
弐型X號の笑みが大きくなる。じわじわといたぶりながら殺すことを、心から楽しんでいる。狂気の微笑みをたたえ、両腕を拡げ、歓喜のポーズをとりながら、大豆さんにとどめを刺しに歩いていく。
シンクロした視界の中で、弐型X號が肩を回しているのが一瞬見える。映像はすぐに途切れ、真っ黒な視界に変わる。大豆さんの強い意思を持っても、意識を繋ぎとめることすら難しいのだろう。
弐型X號の腕が空気を切り裂く音が響く。
大豆さん!!!!!
ゴシャアアアアア!!!!!!!!!
目の前の景色が天井に変わる。
僕の身体は意識を失いかけた大豆さんの脚元に倒れこんだ。大豆さんの顔がぼやけて見える。
大豆さんの前に飛び出した僕は弐型X號のパンチを胸に直接浴びた。
激痛が全身を駆け抜け、肺の機能をすべて失ったように息が止まる。
けれど、Dr.アズキの作ったプロテクターは、彼女の言った通り壊れることなく僕の身体を守り切った。すぐに視線を上げると弐型X號のパンチが再び襲い掛かってくる。
いま、大豆さんを守れるのは僕だけだ。
「うわあああああああ!!!!」
僕はプロテクターを使って、再び大豆さんをガードするために立ち上がる。
「なんだ、貴様は!!割り込むな!!」
弐型X號が怒りの声をあげ、拳を振り上げる。僕はその拳の前に立ちはだかる。
ドコオッ!!!!!!!ボコオッ!!!!!グシャッ!!!!!!
弐型X號のパンチが次々と大豆さんをガードする僕に襲い掛かる。コントローラーを攻撃するのは違反だが、これは僕が自ら間に入っているので、問題ないのだろう。レフェリーの声も何も入ってこない。
プロテクターで胸は守ってはいるものの、何発かは顔面をガードした腕に当たっている。そのたびに腕がもげるような衝撃が全身を伝わり、ありえない方向を向いた腕には痛みすら走らなくなる。
ガードされていない部分に打撃が当たるたびに、僕の身体が確実に壊されているのを感じる。
大豆さん・・・ごめん。
きっとこのままだと、ふたりとも死んでしまう。
生きる。人として生きる。それが僕たちの目的だ。
だから、・・・。
大豆さんを危険な目にあわせてしまうけど・・・。
もう、これしかないよ。
最後の力を振り絞り、トリガーのボタンを押そうとする。Dr.アズキの授けてくれた最後の頼みの綱だ。危険をともなうけれど、これしかもう道はない。
Dr.アズキの言葉が蘇る。
できるなら、使わないで終わらせたかった・・・。
「コレを使うのは、本当にふたりが死んでしまうような時だけよ。治験も何も済んでないからね。スットコドッコイなら死んでもまあアレだけど、レイアちゃんが死ぬ可能性もあるから注意してね」
・・・・!?
トリガーにかかった指が動かない。限界を越してしまった身体は何一つ言うことを聞いてくれない。
僕の身体は大豆さんの脚元にぐったりと倒れ、指一本動かすことができない。動かせるのは涙を流す瞳だけだ。
見上げると憔悴しきった大豆さんの顔がぼんやりと映っている。
大豆さん・・・・・・。
薄れていく意識のなかで、大豆さんの瞳から涙がこぼれ落ちる。ゆっくりと崩れていく大豆さんの身体が、仰向けに倒れた僕の上に重なっていく。
「ト・・・・トリ・・・・ガーを・・・」
僕の手に大豆さんの手が重なる。偶然なのか、無意識なのか、重なったその手に一瞬だけ力が入った気がした・・・。
「タマちゃ・・・・・・ん・・・・」
僕の名前がどこかで聞こえた。
ほほに熱い手が置かれている。
うっすらと瞳を開けると、大豆さんの泣いた顔が、ぼんやりと浮かぶ。
大きな涙がひと粒ひと粒、僕の額に溢れてくる。何かを叫んでくれているが、よく聞こえない。
大豆さんの腕の中で死ねるなんて、幸せなのかもしれない。
熱い手に力が入る。
「タマちゃんに、何してくれんのよ!!!!!!!」
ぼやけた視界の中で、大豆さんの身体が宙を舞った。さっきまで膝を震わせていたはずの大豆さんは、目に捉えることさえできないような速度で躍動している。
グシャア!!!!!!!!
防ぎようもない飛び膝蹴りが、弐型X號の顔面に打ちつけられる。鮮血がケージに飛び散る。
そのまま大豆さんは、弐型X號の頭を足で挟み込むようにしてしがみつく。次の瞬間、勢いをつけた大豆さんの頭部が弐型X號の顔面にめり込む。鼻が変形し、顔面が陥没する。
1度ではない。2度、3度と繰り返し、顔面に頭部が打ち込まれる。噴き上がる鮮血はもはや大豆さんの額から出ているのか弐型X號から出ているのかわからない。
「ごあ!ギ!?・・・や、やめ・・・!!」
弐型X號が呻き声をあげ、ガックリとその膝が崩れ落ちる。大豆さんは長い髪を振り乱し、何度も顔面に頭部を打ち込み続けている。明らかに普段の大豆さんの戦い方ではない。
大豆さんの目に映る弐型X號の顔は、すでに原型をとどめていない。高さがあるはずの顔面の中心が一番へこんでいる。
「は!・・・・や、・・・あ・・・・」
何度目かの頭突きが空振りする。
大豆さんの腕から離れたその巨体は、そのまま仰向けに倒れ込んだ。完全に意識を失い、生死すらわからない。
コントローラーの男が今更ながら駆け寄り、続いて救急スタッフが何人か走ってくる。
大豆さんは荒い息をしながら、天を仰ぎ見る。
会場に勝利のコールが響くと、会場が揺れるほどの歓声が津波のように押し寄せる。大豆さんはそれを聞くと同時に、全ての力を失ったかのように床に崩れ落ちた。
・・・大豆さん!
大豆さん・・・
大豆さんを支えに行きたいのに、大豆さんと勝利を分かち合いたいのに、僕の身体はピクリとも動かない。
意識が遠くに引っ張られるように消えていく。




