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28.準決勝②

「貴様~~!!!!!」


 弐型Q號は無表情だった顔をゆがませ、怒りをあらわにしている。目を大きく見開き、眉間にシワを寄せ、歯を食いしばる様は邪悪な鬼のようだ。  

 

 弐型Q號のコントローラーが気絶していても、試合は続行されている。何のアナウンスもなく、担架すらやってこない。運営側から見てもコントローラーなどおまけのような存在なのだろう。試合が終了するのは、ファイターが戦えなくなった時だけということだ。

 弐型Q號の場合はそもそもコントローラーが大して機能していなかったので、試合の大勢にも影響はないはずだ。ただし自分自身で自らのコントローラーを気絶させてしまったことは、精神的な影響があるだろう。


 怒りに囚われた弐型Q號が、ふたたび猛烈な速度でタックルをかけてくる。感情が昂っているせいだろう、勢いはあるが動きは単調だ。大豆さんは軽いフットワークで、タックルをかわしていく。


「許さんぞ!殺してやる!」


「ふふ、コントローラーを潰されて、怒っちゃったのかしら?あんな男どうでもいいじゃない。趣味が悪いわよ」


 タックルを逃げながら、タイミングをあわせて加速をつけたローキックで、足への攻撃を積み重ねる。相手が逆上するほど、大豆さんの攻撃は正確性を増し、じわじわと弐型Q號を追い詰めていく。次第に動きが悪くなっていく弐型Q號の足は、しっかりと腫れ上がっているのが見てとれる。


「はぁ、はぁ、はぁ」


 試合時間もすでに10分程度が経過すると、いつも早い時間に試合を決めてきた弐型Q號の肩は激しく上下し、荒い気づかいが僕のところまで聞こえてくるようになった。ここまでは完全に大豆さんのペースで試合が動いている。


「ここにきて弐型Q號の動きに、勢いがなくなってきました。かなりの疲労が蓄積しているようです!これは0型A号の勝利の方程式なのか!初戦に続き、大金星をあげるのか!?」


 大豆さんは弐型Q號の周りをぐるぐるとステップしながら、次の攻撃のチャンスを伺う。疲労しているとはいえ、捕まってしまえばあっという間に逆転される。弱った象を追い詰める狼のように、慎重にいかなければいけない。

 頭ではわかっていたが、気持ちがはやっていたのだろう。ケージの中を回転する大豆さんが、ちょうど僕の目の前に来る。


・・・・まずい!!


 荒い息で疲労した様子を見せていた弐型Q號はその瞬間を見逃さなかった。最後の力を振り絞り、再び大豆さんに強大な肉弾が跳ねるようにタックルをかけてくる。


「ワンパターンね・・・あ!?」


 大豆さんはすぐ後ろに僕がいることに気づいてしまった。気づかない方が良かったのかもしれない。大豆さんがタックルを避ければ、そのまま弐型Q號が僕に激突する。


だめだ!大豆さん、僕なんかを気にしちゃだめだ!


 弐型Q號の意図に気づいた僕が泣きそうな顔になったそのときだ。サイドステップで避けようとしていた大豆さんの身体は、一瞬でその動きを変え、弐型Q號を迎え撃つように肩口にハイキックを飛ばす。弐型Q號の軌道を変える、苦肉の策だ。


「・・くっ!!・・・」


「大豆さん!!」


 急場しのぎの大豆さんのハイキックでは弐型Q號の突進は止められない。あっという間に大豆さんの腰に、弐型Q號の長く太い腕が絡まった。必死で身体を捩りながら、弐型Q號の脳天にエルボーを叩きおろし、大豆さんは逃れようとするが、その太い腕は大豆さんの腰から離れようとしない。


「つかまえたぞ・・!」


 エルボーに続きこめかみにパンチを振り下ろす大豆さんの身体が、ふわりと浮き上がる。

 弐型Q號は肩口に大豆さんを抱え上げるようにして持ち上げる。完全に大豆さんの足が地上から離れてしまった。


「は、離せ!!」


「よくもさんざんやってくれたな、生意気なチビっ子にはおしおきをしてやらないとね・・」


ぱあーーーーーん!!!!!


「ぎゃああああああ!!!!!!!」


 弐型Q號の右腕が左肩に載せられた大豆さんの尻を叩く音が会場に響き渡る。尻とはいえ弐型Q號のパワーでの打撃は猛烈な痛さだ。大豆さんの目が大きく見開き、歯を食いしばる姿が痛々しく視界に映る。


「こんなもんじゃ、許さないよ」


ぱあーーーーーん!!!、ぱあーーーーーんん!!!!、ぱあーーーーーん!!!!!


「あ!!!うあ!!!!ひい!!!!!」


 大豆さんの悲鳴が打撃音とともに、鼓膜を揺らしている。弐型Q號は勝利をすでに確信して、自分を追い詰め、コントローラーを潰した大豆さんをいたぶっているのだ、


「や、やめろ!!!、大豆さんを離せ!!!!」


「ふうん、離してほしいのか。じゃあ、離してやるか」


 そういうと弐型Q號は肩に乗せた大豆さんの長い髪を引っ張り、そのまま床に引きはがすように落下させる。小さな悲鳴をあげながら、ケージの床に叩きつけられた大豆さん。その身体は衝撃でバウンドした後、這いつくばり、それでも立ち上がろうとしている。


「ふふ、いい格好だね」


 大豆さんの右足を弐型Q號がつかみ、もう片方の手が左足に伸びていく。大豆さんは必死で抗い、やみくもにキックを放つ。そのキックが弐型Q號の痛めた右足に当たった瞬間、弐型Q號はバランスを崩しそうになるが、すぐに持ち直す。弐型Q號も満身創痍なのだ。

 そして、ついに大豆さんは左足も捕まえられてしまう。


「これで、終了だよ!ふん!!!!」


 弐型Q號は大豆さんの両足を持った腕を思い切り振り上げる。まるでシーツを敷く時のように、大豆さんの身体は軽々と空中高くに投げ出される。

 その両腕は加速をつけて、大豆さんの頭蓋を破壊するようなとんでもない勢いをつけて振り下ろされた。


「げふっ!!!!!あ、あぐう・・」


 僕は思わず走り出していた。大豆さんの頭が振り下ろされる場所に僕が一瞬早く滑り込む。ちょうど僕の胃のあたりに大豆さんの頭がすさまじい強さで激突した。

 胃が破けたような錯覚を覚えた。意識が飛びそうだが、胃の内容物がいっきに喉元に駆け上がり意識の崩壊を防いでいる。


「ごはああああ!!!!!!!」


 僕はマーライオンもびっくりするような勢いで嘔吐した。僕の胃液やら消化しかけの朝ごはんといった吐瀉物が僕の周りにびしゃびしゃと飛び散っていく。

 そしてその吐瀉物はちょうど頭上にいた弐型Q號の顔面にもっとも激しく飛散した。


「ぐ・・・!?こ、こいつ、く、臭!?」


「タマちゃん、今よ!!」


 ゲロまみれになりながらも僕はトリガーをまだ握っていた。電気信号をマックスにして、AMep剤もフルで大豆さんの身体に流し込む。こんな状態でも大豆さんが考えていることがわかるのは、ずっと一緒に訓練して、生活して、言葉にして大切なことを伝えてきたからなんだろう。大豆さんがしたいことが手に取るようにわかる。


 嘔吐物を顔面にかけられた弐型Q號の手が大豆さんから離れた瞬間、大豆さんは身体を翻し、人工関節を限界までうならせながら、最大速度のローキックを正確に、弐型Q號の右足に叩きこむ。


「ぎゃあああああ!!!!!」


 弐型Q號は咆哮とともに、顔を覆っていた腕でとっさに足をガードしてしまう。

 大豆さんは狙いすましたように身体を逆回転させながら、ガードのなくなった顔面、その顎先の一点を見事にミドルキックで撃ち抜く。戦闘型クローンとはいえ人間と同様で激しく脳を揺らされれば立ち上がれない。意識を失いかけながら倒れていく弐型Q號に、大豆さんの容赦ないとどめの一撃が襲い掛かる。


「ぐあああああああ!!!!!!」


 最後の一撃はもう一度右足へのまったく同じ場所へ、1回転して加速をつけた強烈な回し蹴りを加える。完全に右足はあらぬ方向へと曲がり、弐型Q號は立ち上がることすらできなくなった。


 想像もし得ない試合だ。誰もが状況を理解するのにしばしの時間を必要とした。会場は沈黙に包まれ、審判のコールが響き渡るとともに、揺れるような歓声に覆われた。


「しょ、勝者は0型A号、れ、レイア!!!」



 

読んでいただきありがとうございます。物語は半分以上過ぎています。

少しでも面白いと感じていただけた際は、ぜひブックマーク、評価をお願いいたします。

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毎日1、2回の更新で最終回まで行く予定です。

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