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14. セクハラは禁止です

 ガールズファイトクラブの試合を見てから、僕はさらに練習に集中した。実際の試合は、僕の想像を遥かに上回り暴力的で、とてもリアルだった。人が死ぬことが当たり前となって行われている場所だ。

 大豆さんが万が一死んでしまったら、そんな可能性を1ミリでも減らしておきたかった。


 中芋さんと行っているシミュレーションでは、ほとんどミスをすることがなくなった。適切なタイミングで、電気信号を送り、投薬することで、シミュレーション上の試合はほぼ確実に勝利するようになった。


「うん、タイミングとかチョイスとか、もうほぼ完璧だな。欠けているのは実践経験だ。こればっかりはいくらシミュレーションがうまくできても、経験がないと実際の試合では勝てない」


 今日は中芋さんの伝手で、実際の試合と同じケージが用意されている練習場に来ている。殺されてしまった大豆さんのもとの所有者が建設した施設だそうだ。大豆さんも昔ここで練習をしたことがあると言っていた。10m四方のケージを使ってスパーリングを行うこともできる。いつもの僕の部屋でしている練習とは全く違うはずだ。


 中芋さんのアドバイスは事実だと思う。ヴァーチャルのシミュレーションは過去の対戦をベースに作られているので、大豆さんの動きもある程度パターン化されている。繰り返すことで想像がつき、タイミングを取りやすい。

 実際の試合は、どれだけ大豆さんの行動を予測できるかがチームプレイの鍵になる。無線も使えるが、チームとして試合を有利に進めるには、彼女と僕の意思が統一されていることが肝になる。


「で、今日から新しいチームメンバーを連れてきた。ちょっとお金はかかるが、最高のコーチだぜ」


 中芋さんの横に座っていた長身の男が立ち上がる。


「はじめまして、米作ケイゾウです。僕の経験を皆さんのために役立てていきます。一緒に大会で優勝できるよう頑張りましょう!」


 無駄に爽やかな人だ。背が高く、逆三角形の肉体がフィットしたTシャツの上からでもよくわかる。顔は彫りが深く、一昔前の二枚目俳優のような容貌だ。さらりとした茶色のショートカットの髪は、いかにもスポーツマンという印象を与えている。


「米作はファイトクラブの男性版で、ファイターとして過去に優勝したことがある。その時に人権を得ているから、もうすっかり人間として生活をしている。大会の運営は嘘をついていないってことだな」


 すごい!過去の大会優勝者がコーチで来てくれるなんて。誰よりもコーチとしては適任に違いない。などと一瞬勘違いしていまい、僕は彼を尊敬のまなざしで見つめてしまった。しかしながら、当の彼は僕になんかまったく興味を示さず挨拶もそこそこに早速、大豆さんに話しかけている。


「レイアさんだね。こんな素敵な人とトレーニングできるなんて、幸せだよ」


 米作が右手を出して、大豆さんに握手を求める。


「うん、Cカップだね。あとで確認してみよう」


 握手をしながら大豆さんは、一瞬、何の話かわからなかったようだ。米作の視線は、ユニフォームで形をあらわにしている胸の部分にジっと固定されている。その目は真剣そのものだ。


「え!?な、何!?どこを見ているの!?」


「ごめんごめん、素晴らしい曲線だったから、ついね。うん、芸術点がついてもいい位だね。感触は後で確認してみるよ」


「は!?確認してみるって何を言ってるの?そんなことさせるわけないじゃない!」


「そうだねえ。僕、触りたいものは我慢できないんだよね・・・。レイアさんがしっかりガードしないと触られちゃうかもね。はっはっは!」


 さわやかな笑顔で、とんでもないことを大豆さんに言っている。一般企業ならセクハラで即退職に追い込まれそうだ。

 

 大豆さんは顔を真っ赤にして眉間に深いしわを刻みながら、米作さんを睨みつけている。激しく怒っているのが、誰の目にも明らかにわかる。大変なことになってしまった。


「じゃあ、さっさく一度プレイしてみようか?僕と中芋さんがチームになって、レイアさんと・・・・えーと、誰だっけ、君?山田君だっけ?」


「・・・小麦タマ男です・・・」


 どうやら米作さんは大豆さんにしか興味がないようで、僕の存在など完全に意識の外側のようだ。僕が伝えた名前にもこれっぽちも興味なさそうで、返事すらせず、すぐに試合の説明を始め出した。欲望がわかりやすい男のようだ。


「よし、じゃあ時間もないし試合形式でどんどん練習を重ねていこう。まずは10分間スパーリングだ。本番だと思ってかかってきていいよ」


 はじめての試合形式の練習が始まった。


 開始と同時に素早い動きで米作のそばまで接近した大豆さんは、上下のフェイントをかけながら、すぐに右のローキックを連続して繰り出す。

 米作はそれらを軽く左足でブロックした。続けざまに大豆さんは左のジャブを2回、3回と重ねていく。


「うん、ローキックはすごくいいね。素早いし、正確だ。多分一般のファイターなら、あれでやられちゃうのも多いだろうね。でも、パンチはまだまだいただけないな」


 大豆さんの攻撃を避けながら、米作はかなりの余裕があるようだ。表情に笑顔が浮かんでいる。大豆さんは更に2発のジャブを放ち、それもよけられるとすぐに追撃の右ストレートをかぶせていく。


「パンチはいまいちなんだよな。ここがもっと大きくならないとダメなのかな」


 大豆さんの右腕が引っ込むのにあわせ、米作の身体が滑り込むように接近する。攻撃をするのかと思いきや、彼の右手は大豆さんの柔らかそうな曲線を描く乳房に重ねられた。


「うん、やっぱりCカップだ」


 米作の右手が2回ほど感触を確かめるように、乳房の上で動く。大豆さんの目が見開き、一瞬で顔が真っ赤になった。


「さ、触るな!!!」


 大豆さんが叫びながら振り下ろした拳はあっさりと空を切り、ステップバックした米作は再び距離をとる。


「触りたいものは我慢できないって、言ったじゃないか。さあ、攻撃の手を緩めないで、レイアさん、頑張って!」


 余裕の表情を保ちながら、米作は軽やかにケージの中を動き回る。フットワークも一流だ。

 大豆さんは米作を追いかけながら、上下にキックを放つ。怒りで、冷静さを失っているのだろう、いつもの正確無比な切れ味のキックがずいぶん雑になっている。


「これくらいで冷静さを失っちゃっダメだよ。ほら、今度はこっちが隙だらけだ」


 米作は鋭い動きで、再び大豆さんの体に身を寄せると、後ろに回り込み、お尻を左手でタッチする。いやタッチしただけではなく、指がめり込むほどしっかりと握っていた。

 大豆さんはすぐに後ろ蹴りを放ち、米作を離れさせる。米作は満足そうな表情で、再び軽くステップを踏み出した。


「ふざけるな!!!」


 大豆さんは、再び追いかけながらの連続キックを放つが、全く捕まえられる様子は無い。




「じゃあ、今日のトレーニングはここまでにしようか」


 夕方まで続いた練習の後だが、米作はまったく疲労を感じさせていない。悔しいほどの爽やかさを保っている。


「はあ、はあ、はあ」


 米作を怒りに任せ追いかけたことで、大豆さんの疲労は極限まで高まっていた。もはや立つこともままならず、ケージの中央で四つん這いになり、肩で息をしている。

 その日に行った何回かのスパーリング。その全てで大豆さんは米作に、身体中を好きなように触られまくった。胸やお尻は重点的に繰り返し触られ、最後はリアクションもほとんどなくなった。犯罪すれすれというよりは完全に犯罪のレベルだ。ペアを組んでいる僕も怒りが抑えられないほどの所業だった。

 

パーン!


 小気味いい音が響き渡る。

 爽やかな笑顔を貼り付けた米作が、大豆さんのお尻を叩いた。


「お疲れ様!また、明日よろしくね!」


 大豆さんは怒りと屈辱に打ち震えながらも、体を動かすこともままならず、恨めしそうその後ろ姿を見つめていた。





























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