本家の生活
本家に引っ越してから、規則正しくも忙しくない生活はやることが無くてちょっと困る。朝起きて身繕いをしてベッドを整え掃除をしようとすると使用人の方々に止められてしまう「若奥様がそのようなことをなされませんように」そう恭しくも丁寧に取り上げられてしまう。
まだ朝早いため庭園の散歩に出ると庭を奇麗に整えている庭師の方々が、サササッと身を隠してしまう。使用人は館の住人にその存在を気取られてはいけない。それはまぁそう、使用人経験が豊富な私からすると、館の住人が朝っぱらからウロウロするのは仕事に差し障りが有るのでできれば勘弁してほしいのは分かる。でもちょっと庭の植物の話とかしたかったの。まぁ邪魔するのも悪いので目的地のアロエリーナを植えたエリアへ向かう。庭の日当たりのいい場所にアロエリーナが植えてあった。
「おはようアロエリーナ」
わさわさ揺れてお返事してくれる。よしよし今日も可愛いね、日当たり独占出来て最高ですか、そうですか。お水と栄養は足りてる? よかったね。
アロエリーナは新参者のくせにデカい面をしてお庭のど真ん中を占領している。なんてこったまるで私みたいだ。孝道様の子供が出来たことを義両親に報告に行くと、そのまま拉致られた。妊婦が一人で行動するなと叱られた。ちゃんと送迎の車を用意していただいて来たんですがとか、言える雰囲気じゃなかった。今の私は次期党首の嫡子を孕んだ大事な体なんだそうな、以前の囲われている愛人とは存在自体が変わってしまったらしい。
男のエルフが人間の女に産ませた子供はちょっと耳の尖った人間のスペックだけど、女のエルフの産んだ人間の子供はエルフに準拠した魔力と寿命を持った人間並みの体格を持つ子が生まれるらしい。そのせいで大崩壊直後は女エルフの奴隷が大流行して、切れたエルフ達がアヴァロンを立ち上げたのだそうな。今のエルフや産まされたハーフエルフ達は以前のアイスランドとグリーンランドを合法的に占拠し、アヴヴァロンを建国するとエルフ奪還作戦を世界中で展開しテロ国家として名を馳せたそうだ。50年前に最後のエルフが救助されると、アヴァロンの呪いを地球にかけてエルフを強制的に保護するシステムを作り上げ、それ以降鎖国を貫いている。
普通女のエルフがアヴァロン以外の土地で妊娠するような行為をしようとすれば即召喚である、男エルフの場合はまぁ放置らしい、理不尽な話だ。そんなご時世に脱法エルフ事この私、絶賛妊娠中です。エルフの中でもちょっと意味わからないレベルの魔力量を持ち、普通一個加護が有ればいい方なのに4個かそれ以上の加護を持った女エルフの私の子供、しかもこの子は青ざめた男の現身でもある。エゲツナイレベルでの個人戦闘力を持っている事を約束された私の赤ちゃん。本当に要るのかね? 疑問になるくらいぺったんこのお腹をペシペシ叩いてみるも実感が全くない。
そりゃまぁ貴族家からしたら絶対逃がさんよな。本当に尊い血だって胸を張って言えるもんね。皇族からも「娘が出来たら嫁に頂戴ね」って予約が来ているし、他からも予約が殺到しているんだそうな。気の早い話だ、義父からも最低でも息子と娘を一人ずつ産んでほしいと懇願されている。本音の所は産めるだけバンバン産んでほしいといったところだろう。そんなこと言われても流石に授かりもんだし、こればっかりはタイミングの問題だ。
そういえば孝道様の子を産むと決断してからはや一ヶ月、本当に出来ちまったわけだけど、私の体もずいぶん女っぽくなったもんだ。以前は胸さえ隠せば男の子で通ったスタイルも、ちょっと隠すのは無理なレベルでケツがデカくなった。その対比でウエストも縊れてきて全体的に丸くなった。孝道様曰く、最高だそうです、知らんがな。
そういえば人格は孝道様に完全統合してもらった。のりちゃんと統合されたおかげで何かに抱き着いていないと不安で眠れなくなってしまったのと、一人でいるとだんだん不安になってくるようになってしまったが、まぁそれも女としては普通の事の範疇だろう。私も実の母と同様、一人では生きていけない女だって事なだけだ。
初老の男との統合は孝道様が相当渋ったが、結局やってもらった。そりゃ渋るよな、だって孝道様が私の精神を弄りまくってたのに抵抗しまくってたのが初老の男だったし、私の前世の記憶の大半を持っていたのも初老の男だったし、っていうか前世の人格が初老の男そのものだったんだよな。私が紀子と自覚しているのは今世の15年間に形成された人格で、初老の男は実は最初からこの体に居たらしいけど、青ざめた男を隔離するのと、私の自然発達を邪魔するつもりが無かったのとで、私の事に干渉するのを極力控えていたようだ。統合されたことによって彼の意思が私と混ざって私が希薄になると思ったけど、それでもやっぱり意思決定には極力関わるつもりが無いらしい。曰くその方が道理にかなうからだそうだ。我ながら良い性格をしている。
おかげでシュンの事も完全に思い出した。孝道様が私からシュンの記憶を取り除こうと躍起になっていたけれど、私の中に占めるシュンの割合の大きさから人格に支障が出てしまうので、完璧に消すことは出来なかった。そのせいで誤作動を起こしたようになって、涙腺が崩壊したりどうしようもなく不安になってしまったりで、誤作動の方が精神に負担になっていたんじゃないかなぁ?
そう、やっぱりシュンなんだ。孝道様の女となって孝道様の子を孕んだとしても、私にとってシュンという存在は大きすぎるんだ。そしてシュンにとっても私という存在は大きすぎる。
決別してやらなくてはならない、私のためにも、シュンのためにも。前世の因果を切ってやらなくてはならない。そうしなければシュンも私も、前へ進めない。
よし、やろう。最後の切り札はもう手に入れた。これで決着を着けに行こう。
そうして私は、本家のお屋敷から抜け出した。




