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小銭稼ぎはもうできない

「何分急な事でしたので、ダンジョン協会に紀子様お嬢様の輿入れの話を事前に打ち合わせして置く事が出来ませんでした、ですのでこの場は私が使節を務めさせていただきます」


 颯爽と歩く涼子さんの背中についていく、駐車場から少し歩いて何時ものプレハブが見えてきた。たった一週間なのにもう長い事来ていない気さえする。先週やろうっておばちゃんと話してた養蜂箱が新品のビニールシートにかぶせられて積み上げられている。気が早いなぁ養蜂家との渡りが付いたんだろうか? アロエリーナの栽培をして、果実を出荷するために、市場に免許を取りに行こうって話してたっけ、畑づくりのためのミニ耕運機が新車で買ってある。上手くいったら歩合で給料上げてくれるって言ってたよなぁ。


 ああ、8-bダンジョンでそこそこ稼いで将来安泰だぜ、なんて思っていた無邪気な私に言ってやりたい、そんな事で一喜一憂しなくても、一週間後には玉の輿に乗っているって。

 もしもの私を幻視する、作業服を着て猫車に肥料を満載して押している。凄いいい笑顔でおばちゃんと額から汗を流していた。玉の輿を教えて上げたら、きっと今の私みたいな顔をするんだろうな。


 今の私は化粧をしてスーツを着てヒールのあるパンプスを履いて、この服のお値段だけで一週間前の私なら数か月は余裕で生活できたんだろうな。


 呆然と私を見送るスマッシュライトの方たちに頭を下げて事務所のプレハブの戸を潜る。書類とにらめっこをしていたおばちゃんが私たちを認めると、ぎょっとした顔で立ち上がった。


「本日は紀子お嬢様の寿退職の手続きのために兵部家の名代としてまいりました、徳田涼子と申します」


 友好的でも頭を下げるでもなく、涼子さんが宣言であり決定事項を告げる。おばちゃんが私をチラっと見て、ため息をつくと、私たちを応接セットへと促して、お茶を入れまじめた。何時もは私の仕事だったんだけど今は私がもてなされる部外者なんだ。


「お話を伺います」


 そう切り出したおばちゃんに涼子さんが事務的な手続きを進めていく。退職には引き継ぎのため二週間前の申請が必要なのだが、今日この場を持ってこの職場から私が退職するために必要な手続きはどのようなものが有るのかをゴリゴリねじ込んでいくのを、おばちゃんがのらりくらりと躱している。


「ですから、本日付で退職となるための手続きに必要なものをお聞きしているのです」

「そうは申されましても、協会職員は準公務員に準じておりますので、公務員法に乗っ取って手続きをするのが当然の流れです。本日から二週間後に退職手続きが受理されることには変わりは有りません」


 おばちゃんがまともに敬語を放すのってなんか面白いなって思って見ていたら、おばちゃんが私を見返して言った。


「紀子は辞めたいのか?」


 二人が私の事を見ていた、一人はさも当然というように、一人は疑うように。


「私は……」


 言葉が出なかったが、体は動いた。ハンドバックから協会準二級免許と協会員証の入ったパスケースを取り出して、おばちゃんに差し出した。


「そうか」


 そこからは話がトントン拍子に進んで、私の退職が今日で決まった。


「お世話になりました」


 頭を下げておばちゃんの顔を見ないように目を伏せていたら、私の手をおばちゃんのガサガサした手が掴んで、掌に私のパスケースを握らせていた。


「辞めたって資格が無くなるわけじゃない、持っておきな」

「ありがとうございます」

「暇になったらまた手伝いに来い」

「はい」

「蓮の蜂蜜とサボテンの実と人手がいくつあっても足りやしない、いつでも帰ってこい」

「ばい゛」


 パスケースをしまったハンドバッグを左手に、右手を涼子さんに引かれながら、私は8-bダンジョンを後にした。

本当はダンジョンでアロエリーナ農家をやったり養蜂をやったり、沼の魚を取ったり料理したり治療用の蛭をとったりした話だったはずなんですが、どうしてこうなった?


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