第一話
今日は、普段は8つの地域に別れて生きている我が種族が集う年に一度の祭り
仕える主人によって性別が決まる種族の祭り
主人が男ならば女に、女ならば男に性別が決まる種族
それが我が種族
私、マノのように性別が決まっていない者がこの祭りの儀式に参加する
8つに別れている各地域から、性別が決まっていない者が一人ずつ選ばれ、石で出来た祭壇に一輪の花を置いていく
この儀式は昔話で語られている聖女がもう一度現われることを願い、行われているものである。
次は私の番だ。
しずしずと祭壇に向かい歩く
花を置いた
さあ、後は元の場所に戻るだけ
・・・と思っていたが
「何なんだ」
柔らかな光が空一面にひろがった
思わず目をつぶる
そろそろ大丈夫かと、ゆっくりと目を開けた
不可思議な格好をした者が祭壇の上で眠っていた
「素敵」
惹きつけられる
私の臓腑が一瞬動きを止めたのではないかと疑ってしまう
嗚呼、この人の側にいたい
ただただそう思った・・・
ーーーーーーーーーー
ここはどこ!?
目を覚ましたら訳の分からないところにいた
「お目覚めになりましたか!聖女様!」
現代日本では、なかなか見られないような格好をしている
というか・・・
「聖女・・・さ・・・ま?」
「はい、聖女様」
私を囲んでいる人たちがにっこりと笑いながらこたえる
綺麗な笑顔だがどこか怖さを感じる。なんだか話が通じなそう
どっどうしよう・・・
「皆様、落ち着いてください。聖女様が困惑していらっしゃいます」
私をかばうように人影が射した
彼?彼女?はくるりと私の方に振りかえり、ベッドで座っている私と同じ視線になるように床に膝をつけた
「はじめまして聖女様、私はマノと申します。これから貴方様にお仕えする者です。」
「は、はじめまして・・・ホタルです。じゃなくて!?聖女様って?仕えるってどういうこと?それにここってどこですか?」
「ここは我が種族がうまれた里。聖女様とは、かつてこの世界を救ってくださった方。私はその聖女さまを再びこの世界によんだことで、貴方様に仕えることに決まりました」
「種族?かつてこの世界を救った?ごめんなさい。理解が追いつかなくて・・・」
だめだ。余計理解ができない。
そんな私にわかっているとでも言いたげに微笑み、乱れた私の髪を軽く手でとかしながら話を続ける
「我が種族は、産まれたときには男でも女でもありません。仕える主人によって性別が変わります。主人が男なら女に、女なら男にというように・・・使える主人が見つかるまではどちらでもないのです」
「・・・どちらでもない」
「はい。そして、かつてこの世界を救ってくださった聖女様に仕えていた者の子孫が、我が種族」
「その聖女様って?」
「・・・遠い遠い昔話のようだと私も思っていたのですが」
昔々、雨が降らず、水場も土地も枯れ、植物も暑さで枯れてしまったこの世界
普段はそれぞれのなわばりで穏やかに生活しているモンスターたちも暴れ始めた
そんな時に、突如、現われたのが聖女様
聖女様は雨を降らし、この世界とこの世界に生きる生き物の心を潤した
そして、聖女様は帰っていきました
聖女様に仕えていた我らが祖先は、聖女様が現われ帰って行ったこの土地で、聖女様と再び会うために生きていくことを決めたのでした
「・・・というお話です。我が種族はその後8つの地域に別れることになりました。ここにいる者はすべて同じ種族であり、私以外の者は各地域の長老格のものです。そして、再び現われた聖女様、それがホタル様。貴方様です」
「は、はぁ・・・でも、どうして私が聖女様に」
「我々は聖女様が再び世界に現われてくださるように願って、年に一度祭りを行っております。その儀式でホタル様が現われました」
「私は聖女なんて、そんな力はありません」
「貴方様は儀式で現われた。ですから貴方様こそ聖女様なのです」
・・・どうしよう、のみこめない
「きっとまだ上手くのみこめないでしょう」
「・・・はい」
「私もです。私もこれから男になるということが」
少し俯きがちにこたえるマノさん
「・・・“聖”女に仕えるのが男でいいのか?」
そこに今まで黙って話をきいていた人たちが声を上げた
「は、どういうことだ?」
「いや、“聖”女だぞ」
「たしかに」
「それに俺が祖母からきいていた話では聖女に仕えていた祖先は女だときいた」
「ん?私の地域では男だと」
どうなってるの?
マノさんの顔をみるがマノさんも困った顔をしている
「聖“女”様にお仕えする私は男になるのでは?」
「そうだと僕たちも思っていたのだけど、これじゃあねぇ」
マノさんと私に一番年の近そうな男の人が苦笑しながら言った
他の人たちは白熱している
「しかし、我が種族は仕える主人と反する性別になるもの」
「聖女様にお仕えするんだぞ、男だろう」
「誰か知らないのか?」
「男だときいていたもの手をあげろ!」
マノさん以外の人たちが、その声をきいて手をあげたのは・・・
「半分かよ」
「つまり、女だときいていたのも半分」
「どうする」
「ゴホン」
そこにトントンと扉を叩いて壮年の男性が現われた
「チガヤ様」
白熱していた女性の一人が駆け寄り側で跪く
「王の側近のチガヤ様です」
マノさんが私に耳打ちした
「お初にお目にかかります、聖女様。私はチガヤ。王の側近を勤めております」
チガヤさんは胸に手をあてながら私に頭をさげた
私も慌てて頭をさげる
「ホタルです・・・っじゃなくて、私は聖女では」
「貴方様は祭りでおこなわれる聖女を呼び出す儀式で現われたのでしょう?」
「左様でございます」
私の代わりにマノさんがこたえる
「でしたら聖女様ですね」
「いや、私は聖女みたいな特別な力は持っていな「そういえば、君は?」」
私の言葉にかぶせてチガヤさんはマノさんにきく
「私は聖女様にお仕えするマノと申します」
「マノか、よろしく」
「よろしくお願いいたします」
「マノはこれから男になるのだね」
「そのはずだったのですが・・・」
マノさんは、チガヤさんに事の次第を話した
「ふむ・・・聖女様の伝説は口承な上に、君たちは8つに別れている。長い月日で差違が産まれたのだろう」
「私はどうするべきなのでしょう」
「それぞれ口承された話は大切にすべきものだ。それにこれは君自身の性別についての話。マノ、君はどうしたい?」
マノさんは無言になった。そんなマノさんに視線があつまる
「・・・私は」
俯きがちだったマノさんと視線が合った
「お察しでしょうが、私は迷っております。私が生きている、ここ、我が種族がうまれた里では、かつて聖女様に仕えたのは男だと語り継がれています。ですが、他の地域で語られている女のほうがいいのではないかと思う気持ちもあります」
「それはどうして?」
チガヤさんは優しくマノさんに尋ねる
「“聖”女様にお仕えするからです。聖女様は尊い存在です」
「だから同性がいいのではないかという気持ちがあるのだね。聖女様はどう思われますか?」
「わっ私?私はそんな神聖視されても困るというか・・・私も、マノさんの性別だからマノさんが決めるべきなんじゃないのかな・・・と」
「聖女様はどちらでもよいと?」
「まぁ、はい」
「聖女様はこう仰っているが、どうするマノ?・・・ときいても難しいだろう。だったら、次の祭りで決めるというのはどうかな?」
「次の祭りですか?」
チガヤさんは、彼に近寄っていった女性が用意した椅子にゆっくりと腰掛けた
「聖女様もマノの性別はマノが決めるべきだとのお考えだ。だが、マノは決められない。だったら、聖女様に仕えている間で、どちらの性別が良いか決めれば良い。今、決めなければならないという訳ではないのだろう?」
マノさんは各地域の長老格の人たちをうかがう
「確かに、今という訳ではないからね」
私たちに一番年が近そうな男性が同意すると他の人たちも彼に続いた
「では、マノの性別は次の祭りでということで決まりだな」
「はい。・・・そういえば、チガヤ様はどうしてこちらに?」
「嗚呼、王が聖女様をお呼びせよとね。さぁ、聖女様そしてマノ!ともに城にまいりましょう!」