4話 隣に
夜遅く、何となく夜風に当たりたくなって、何となく駅前まで来てみたら麻美に遭遇した。
「なにしてんの?」
「そっちこそ」
「私はバイト帰り」
そういえば麻美のバイト先は駅前のファミレスだったなと思い出す。
「俺は散歩」
「じゃ、今暇ね」
それだけ言うと問答無用でコンビニに拉致された。買ったのは肉まん二つ。
無言で差し出された一つを受け取り頬張る。
「働いたらお腹空いちゃって」
「ご苦労様です」
うやうやしく頭を下げた。
「で。仁、どうかした?」
何か言ったわけではない。表情に出した覚えもない。けれど麻美は気が付いたのだろう。
「うちの親離婚するってさ。喧嘩多いなーと思ってたけどそこまで進んでるとは思わなかった。
で、どっちについてくるかって聞かれて迷ってる」
「・・・」
麻美は何も言わずに聞いていた。それが優しさからくるものだと知っている。
「いきなりそんなこと言われても困るよな。こっちは離婚するって聞いたの今日なんだけど」
今日学校から帰ったら聞かされた話だ。薄々感じ取ってはいたがいざ直面すると何も言えなかった。
「どっちかと仲悪いとかなら選びやすいんだろうけどさ、別にどっちとも当たり前に喋るし。二人から付いてきてほしいって言われてどうしろってんだ」
夫婦仲は最悪だったらしいが、親子仲は悪くない。
母親の買い物に付き合うこともあるし、父親と出かけることもある。仁にとっては良い親だったのだ。そのどちらか片方を選べと急に言われても答えなんて出ない。
「ならさ。うちに来る?」
突然麻美がとんでもないことを言い始めた。理解できずに止まる。
「二人を選べないっていうんなら、間を取ってうちに来るってのはどう」
「どうって。いきなり何いってんの」
「うちに来て、定期的に二人に会いに行けばどっちかを選ばないで済む。生活費はまあバイトでもしてもらって」
「いや、流石に瀬戸のとこの家族が困るだろ」
問題点はそこではないが突っ込んでおく。
「大丈夫。うち二人しかいないから。私とお父さん。
一軒家だから部屋も余ってるし、お父さん少し騒がしい方が好きだし、話せばわかってくれる」
冗談で言っているわけではないとその眼が語っていた。だからこそ頭を抱えざるを得ない。
「いきなり父親に友達住まわせていい?ってどういう状況。しかも男」
「あー、なら結婚する?家族同居はよくある話」
さらにとんでもないことを言い始めた。
「結婚は18歳以上だ。俺たちまだ16歳」
「じゃあ婚約者」
現実見せても止まることはなく走っていく麻美。何を言っても止まる気がしない。
だからもう笑うしかなかった。
「いやもうめちゃくちゃ」
目じりに涙を貯めながら一通り笑う。
「けど、それも楽しいかもな」
麻美の家に行って暮らす。それは確かに楽しいかもしれない。
けれどその選択肢を選べるほど仁達は大人ではないのだ。せめて自分で稼げるようになってからでないと選んではいけない道。
「よし」
そういいながら自分に気合を入れる。どうなるかはわからないがやることは決まった。
「両親ともう一回話してみるよ。で、また悩んでみる」
うじうじしていても仕方がない。なら向き合ってみるべきだろう。
「残念。一緒に暮らしたかったのに」
ちょっと残念そうに、けれどどこか嬉しそうに言う。
「また泣き言言ってもいい?」
「いつでも」
恐らくまた麻美に話を聞いてもらう日がくるだろう。その時もまた落ち込んでいるかもしれない。
だけれど何とかなる気がした。だからもう大丈夫だ。
「さて、肉まんでももう一個買ってくるか」
気が抜けたらお腹が空いてきた。
「今度は仁のおごりね」
それに便乗して麻美もついてくる。今度食べる肉まんは美味しく食べられそうな気がした。