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出たな伝家の宝刀

自分のせいであちらこちらに結構な影響が出ていることなど知らない現実世界に戻った私――みちるはたっぷり10時間寝て中学校に行って帰って晩御飯を食べて風呂に入って自室に戻ったところでもう一度〈花咲く紋章の乙女〉の世界に行こうと考えていた。アニカはリリアさんを陥れるのを諦めただろうか。なかなか衝撃的なおしおきをしたと自分でも思うのでぜひともメンタル折れていてほしいところだ。もしまだ諦めていなかったらもう1発カンチョーかましてやる。一度介入したからにはきっちり付き合うつもりだ。


私はふんっと鼻を鳴らして目出し帽をかぶり深呼吸をした。そっと左手を前に掲げて異世界に行きたい、と念じるとぼうっと魔法陣が姿を現す。


魔法陣をくぐるとゆらりと浮遊感があった。


そして目を開けた瞬間、視界を人の後ろ姿が覆った。


(――え?)


すぐ目の前に人間が降ってきていた。顔はわからないが、きれいな朱色の髪だ。


(――ぶつかる!)


思わず後退して避けようとするとがくんと足首が内側に曲がり、踏み面からずり落ちたかかとが下の段にぶつかった。バランスを崩した体が後ろに傾く。


(階段!?…やばっ!!)


このままだと落ちる!危機を感じた私はとっさに転移の力を発動した。


「きゃああぁぁぁっ…」


聞き覚えのある猫のような悲鳴がうねるような浮遊感と共に小さくなっていった。



********



ぱっと目を開けると、元の世界に帰ってきていた。いつも通りの自分の部屋だ。インテリアに興味のないお母さんが適当に買ってきた家具が寄せ集まっているので統一感のない雑然とした部屋。転移の力を使う際転移した先の異世界でどこに出るかは選べないが、こっちの世界に戻ってくるときは元にいた場所に戻る。


異世界に行ったのが一瞬すぎたせいか浮遊感がまだ体に残っていて頭が少しくらくらしていた。床に座って呼吸を整える。待って、思い出して。何が起こっていた?


私は目を閉じて転移先で見た光景を思い出す。階段。浮いていた体。貴族学院の制服。浮いていた人物は朱色のツインテールで貴族学院の制服だった。間違いなくアニカだろう。最後に聞こえた声がアニカの声っぽかったし。あの少し甲高くて作ったような声。


……となるとあの状況は、アニカが階段から落ちていたということだ。私は見た光景を必死で再び脳内に映し出す。アニカの体の隙間から見える階段の手すり、赤いじゅうたん、そして―――奥に、顔まではわからないけど薄い金の髪の女生徒!顔の半分を手で覆っていてはっきりしないけど絶対リリアさんだ!一瞬だったのによくやった私の記憶力!


私はすべてを察し手で顔を覆った。


(で―――た―――よっ!!!!〇〇様に階段から落とされました(嘘)!!)


今年読んだ転生悪役令嬢ものの40%に出てきたよコレ。悪役令嬢の伝家の宝刀。貴族の令嬢が人にけがをさせる手段がこれしかないのだろうか。あっ噴水とか池に突き飛ばすもよく見るわ。階段から落とされたら打ち所が悪かったら死ぬかもしれないし、重いドレスで池に落とされても溺れて死ぬかもしれないんだからそう軽々しく取っていい手段ではないでしょうよ。


とはいえまずいな。そういうことだとしたらこれ王道パターン的にアニカがリリアさんに突き落とされたって言って事件になるやつでは?でもそれって普通断罪一歩手前イベントだし、そもそも〈花咲く紋章の乙女〉にそんなイベントないはずなのに。これって私が介入したせい!?私が現れたせいでアニカが焦って早まって予定外のイベントが起きた…?焦りで私の体から汗が吹き出し体温が上がっていく。


もしそのせいで、リリアさんが冤罪で罰されたら―――


(無理!!!そんなのつらい!!!!)


責任と恐怖を感じた私は床に額をつけてうずくまった。階段から落ちたアニカが負傷した場合、本来のシナリオより重い罪を課される可能性すらある。リリアさんを助けたくて介入したのに自分のせいで事態が悪化したらやりきれない。


いや、まだ止められる。そんなことはさせない!何も罪を犯していないリリアさんを冤罪で罰させたりしない!アニカ…!そっちがそのつもりなら私みちるが!わからせてやるんだから。


強い決意を胸に私は人差し指を伸ばして手を組んだが、そこではっと気が付いた。


そうだ。さっき階段から落ちると思って一瞬であっちの世界に行って秒で帰ってきてしまった。1日1回というしばりのせいで日付が変わるまで行くことができないじゃん!


(こっちで時間がたつのを待っている間にリリアさんが断罪されたらどうしよう!?)


異世界と現実世界の時間の進み方は同じではない。というか行くたびに時間の進み方がばらばらで、現実世界で1時間たっていたとしてもあちらの世界では10分しかたっていないこともあれば3日たっていることもある。


(お願い、リリアさん。私が行くまで無事でいて―――!)


私は不安を抱え祈りながら日付が変わるのを待った。


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