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いきなり会っちゃった

私みちるはゆっくりと目を開けた。異世界に転移するとき体ごとうねるような感覚があり、少し間をおかないと平衡感覚が戻らない。


真っ先に目に入ったのは目の前にある豪華な額縁に入れられて壁に飾られた絵画だ。青々とした木々のふもとに集落があり、山の上の滝から続く川が流れている。絵画の価値はわからないので上手だなとしか思わないがきっと高価な絵なんだろう。


どこかの屋敷の一室に出たようだ。魔法陣をくぐってどこに出るかは細かく指定できるわけではない。もしかしたら方法があるのかもしれないが、今のところ頭の中でイメージすればざっくりと城に出るか街に出るか程度なら選べるというだけだ。


アニカのところへ、と念じたのでアニカの家だろうかと考えながら振り返ると、ぱしゃっと水音がした。お屋敷の中なのに床が濡れているのか?と下を向いたその時、


「「きゃああああぁぁぁぁ!!!!」」


綺麗にハモった悲鳴が響き声に驚いた私の体がびくっと跳ねる。


(やばっ!転移してすぐに見つかった!)


私は焦りながら目線を上げ声の主を確認する。奥の長椅子に二人の少女がいた。薄い金色の髪に紫の瞳、真っ白な肌、ほっそりした体型。朱色のツインテールに琥珀色の瞳、小柄でむっちり感のあるボディ。二人ともぱっちりとした印象的な目をした美少女で、初対面でも服や所作から一般庶民ではないことが分かる。


(この二人…!!!えっ!!リリアさんとアニカじゃん!!!えっ二人とも可愛い~!!)


ゲームの知識がある私は当然二人の顔を知っている。ゲームの登場人物に直に会うのは初めてなので私は感動して心の中できゃーきゃー叫んでいた。だが一方リリアとアニカは二人で体を寄せ合い、くりくりした目を見開いて怯えている。


「すみません!怪しい者じゃないです!」


安心させようとそう言ったが、自分でも無理があると思った。なぜなら私は目出し帽を装備しているからである。見た目が銀行強盗でしかない。現代日本でも目出し帽をかぶって歩いていたら職務質問待ったなしだろうし、そもそもたいていの一般家庭に目出し帽なんてものは常備されてすらおらずファッションと言い張るのは難しい。


いくら私が小柄な女子中学生でそこそこ綺麗目な上下を着ていようと、貴族のお嬢様として守られてきた二人からすると今まで出会ったことのない不審者なので怖いに違いない。


ちなみにこの目出し帽は友達のアキヒトくんから譲り受けたもので、アキヒトくんは昔よくこれをかぶってライダーごっこをしていた。単なる思い出の品であって決してやましい用途に使うために所持していたわけではないので誤解しないでほしい。


いやしかしこの状況どうしよう。二人に会いたいとは思っていたけどもっとこっそり会うつもりだった。起承転結で行くといきなり転にいっちゃったのでは。承はいったいどこへ行った。


私は震える二人を監視しつつ周囲の様子を探る。まだ廊下の方は静かだからほかの人に見つかるまでは少し時間がありそうだ。部屋を見回して再度状況を確認すると床に花瓶の破片とバラが散乱している。


(あ~これか~。床が濡れてる原因………ん?)


私の脳裏に〈花咲く紋章の乙女〉のイベント画面が浮かんだ。


(これ、ゲームで言ってたやつじゃない!?)


リリアさんはゲーム本編では少ししか出ない脇役で、アニカがリリアさんを陥れるためにやったことの詳細は不明なところが多い。だがリリアさん断罪イベントの調査パートでヒロインのアリスがアニカの友人としてオーリリー公爵家に調査に来たとき、使用人から〈アニカがリリアのために摘んだバラをリリアが花瓶ごと捨てた〉という証言を得ていた。その証言の出来事ってこれじゃない!?今じゃない!?


ズンズンズンズン。効果音が鳴り響きそうな勢いで私はアニカに近づき両肩をがっと掴んだ。


「ひっ!近寄らないで!」


怯んだアニカがリリアを押しのけて逃げようとする。こういうところに本性が出るな。逃がすものか。お前に過ちを犯させないために私はこの世界に転移してきたのだ!


「わざわざ使用人たちにお姉さまに差し上げるの☆アピールをしつつ自分でバラを摘んできて飾ってあげると思わせて自ら花瓶を叩き割って〈お姉さまに私が活けたバラなんていらないわって言われたの…〉とか言って冤罪ふっかける気でしょ!?やめなさいそんな底意地の悪いこと!!」

「な…なんで知ってんのよまだ誰にも言ってないんですけど!?」


アニカは驚愕のあまり口をぱっかーんと開けて目を見開いている。そりゃあ驚くだろう。アニカにとっては未来予知されたも同然だし、リリアさんを陥れてイザークの婚約者になり替わろうという計画が漏れている可能性もあるのだ。実際は漏れてないけど。


「そうやってねぇ!人を陥れて利益を得たってあんた自身の価値が上がったわけじゃないのよ、性格ブス!大体いじめられて可哀想っていう理由でちやほやされていいの!?可哀想って誉め言葉じゃないよ?もうやめなよ。リリアさんには勝ててないかもしれないけどアニカだってそれなりに可愛くてそれなりに勉強できてなかなかツインテールが似合うじゃん!」

「いらない副詞つけまくる意味ある!?怪しいマスクをかぶった得体のしれない奴にいきなり説教されて地雷踏まれる意味が分からない!」


アニカが瞬時に言い返す。なかなか頭の回転が速い。


「ちまちまちっちゃい嫌がらせして世論操作する粘り強さがあって王子やヒロインで冴え一度は騙せるならそれって才能だよ!隠密とかスパイ向いてるよそっち目指したら?」

「目指すか!!一応公爵令嬢なのよこっちは!つーかそんなのになったところでイザーク様と結婚できるわけじゃないじゃないのっ!」

「えっ…?」


私とアニカははっとして小さく落とされた声の方を見た。リリアさんが困惑した面持ちで私たちを見ている。


「アニカ…あなた今、殿下と結婚って言ったの…?」


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