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踊らされていたアニカ

シナリオにない展開に驚きが隠せない。私はまさにあんぐり、といった様子で口を開けてしまっていた。私がこの世界に現れてたった一度アニカにカンチョーしたことでこんな変化が起きるとは。王もオーリリー公爵もリリアさんの味方ならもはやアニカに勝ち目はない。リリアさんが冤罪に問われることはないだろう。


当初の目的を果たせそうで嬉しいはずなのに私はなんだか泣きそうになっていた。アニカは悪いことをしていて同情できないはずだが、同じくらいの歳の少女が追い詰められている様子を目の前にするのは胸がきゅっとなった。


「それとだ、そこに座っているそなたの友人だが」


王はちらっと横にいるアリスを一瞥した。アリスの体がびくっと震える。


「アニカ嬢、そなたの言う通りそこの娘はそなたがリリア嬢からのいじめに悩んでいると証言した。それでイザークから相談があってのぅ、少し前からリリア嬢には監視がついておった」


青くなったアニカの顔色がさらに悪くなる。魔術の話に加えリリアさんに監視がついていたとなると、自作自演の現場も気づいていなかっただけで見られていたのかもしれない。最初からばれていということだ。アニカ一人が、この場で踊らされていたのだ。


「ついでにイザークにも監視を付けたらなぁ、平民の娘と二人でギターを弾いているではないか。まったく頭を抱えたわ」


アニカはばっと顔を上げアリスを見た。アリスはばつの悪そうな顔をして目をそらしうつむいた。アニカはアリスがイザーク王子にギターを教え交流していたことを知らないので青天の霹靂だ。アニカは歯を食いしばりアリスに対し憎らしそうな視線を向ける。


せっかく仲良くしてやったのに裏切られたと思ったのだろう。とはいえアリスはアニカがリリアをはめてイザーク王子の婚約者の立場から引きずり下ろし、自分が後釜に収まろうと思っていたことを知らないので他意はないのだ。ただ単に堅苦しい生活に気づまりしていたイザーク王子に息抜きの場を与えただけ。ゲームのシナリオでも、アリスがイザーク王子への恋心を自覚するのは後半になってからで、今ぐらいの序盤の段階では親切心と友情に過ぎない。現状はイザーク王子がヒロインに淡い恋心を抱いているだけだ。


「平民との逢引以上に頭を抱えたのが、平民と思っていたその相手がわしの姪だったことだがな」

「な…はぁっ!?」


アリスを睨んでいたアニカの表情が一気に驚きに変わる。アニカ以外はすでに知っていたようで神妙な表情だ。


「魔術師。知っていたようだな」


不意に王に話しかけられてはっとした。王は突然現れた私を完全に魔術師だと思っているようだ。私が全く驚いていなかったため知っていると勘づいたのだろう。まごまごして視線を逸らすと王はふっと笑った。その後ろに控えている眼鏡のおじさんは片頬を釣り上げて不愉快そうに私を見ている。


「まあ良いだろう。アニカ嬢。もうよかろう。そなたの企みはすでに暴かれておる、諦めよ。さて、これからどうしようかのぅ」


アニカがリリアさんを失脚させるための計画は失敗した。しかも王族を巻き込み、あろうことか王に対し嘘までついている。ゲームのシナリオであれば隣国の王家の血を引くリリアさんの血統が幸いし大きな罪に問われなかったが、アニカはオーリリー公爵家の人間といっても養女に過ぎない。現公爵夫人であるアニカの実母の実家は子爵家で政治的に配慮の必要な家門でもない。リリアさんのように領地で静養というわけにはいかないだろう。


「アニカ…なぜこんなことを」


オーリリー公爵が悲しみをかみしめる様に口にする。


「実子でなくても姪だ。公爵家の人間として与えられるものはすべて与えてきただろう」


アニカはオーリリー公爵を上目づかいで少し見た後目を閉じて床に手をついてわなわなと震えた。


「そうですわね。お父様はとてもよくしてくださいましたわよ。本家の正当な娘であるお姉さまの次にね」


恨みすら感じるアニカの声色に公爵は目を見開いた。


「お姉さまは美しい王子と結婚するのに!私は年の離れた冴えない男!お姉さまはいずれ王妃になるのに!私はなりたくもないお飾りの公爵夫人!何もかもお姉さまに劣るみじめな人生!」


アニカの剣幕にオーリリー公爵はショックを受け言葉が出ないようだ。アニカはそんな公爵を気にもかけずそばに立つリリアさんを見上げて叫ぶ。


「ずっと気に入らなかった!何もかも手に入れていたくせにいつもどこか寂しそうで、自己犠牲してます、みたいな被害者面してて。そのくせ皆に優しくて、何なのよ!ムカつくのよ!!」


アニカは床に顔を伏せた。泣いているのかもしれない。リリアさんは眉間にしわを寄せて目を細め、口を堅く横に結んで静かに立っている。


どんな理由があろうとアニカは罪を犯した。その責任を取らなければならない。自業自得だ。これでリリアさんの名誉は守られる。悪いことをした人が裁かれ、良い人が穏やかに暮らせる。たとえ今後アリスがイザーク王子ルートを踏んでイザーク王子とリリアさんの婚約が解消になるとしても、リリアさんに瑕疵がないならもとのシナリオより穏便に済むだろう。これが、今できる最良の終わり―――…


「発言をお許しください」


もう終わりだという空気が、リリアさんの良く通る綺麗な声で波立った。


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