✒ 桜の木 2‐4
──*──*──*── 職員室
職員室へ入室したモリアーテとワトスンは、ドヤ顔をしながら担任教師へ【 桜の木の枝、切断事件 】の真相を暴いた証拠として、真犯人と推理を伝えた。
自信満々なモリアーテとワトスンの背後では、ホームスが深い溜め息を吐いて何かを諦めていた。
学年トップの優秀なホームスですら、モリアーテとワトスンの暴走を止められなかったようである。
担任教師は自慢気に真犯人と推理を披露した生徒──モリアーテとワトスンに笑顔を向けると出席簿で2人の頭をペンペンと叩いた。
担任教師は机に置いてある原稿用紙へ手を伸ばし、モリアーテとワトスンの前に原稿用紙を差し出したのだ。
担任教師
「 残念だが失格だ。
教師が犯人だという推理は良かったが、惜しかったな 」
ワトスン
「 えぇ~~~~栗~ぷプリンは貰えないの? 」
モリアーテ
「 一体全体、僕等の渾身の推理の何処が『 惜しかった 』って言うんですか、先生! 」
モリアーテとワトスンは原稿用紙を受け取るのが嫌なのか、担任教師に不満の思いを吐き出す。
担任教師
「 確かに推理の通り、教師が犯人ではある。
其処に辿り着けた事は素直に褒めよう 」
モリアーテ
「 だったら原稿用紙じゃなくて、栗~ぷプリンを貰える筈じゃないですか! 」
担任教師
「 だが、推理の詰めが甘い!
犯人が教師だと突き止めた迄は良いが、先が問題だ 」
ワトスン
「 推理の先?
犯人先生を理事長先生の前に連れて行けば事件は解決するよ!
一緒に理事長室に行こうよ、先生ぇ~~ 」
担任教師
「 阿呆!
担任教師を勝手に犯人にするんじゃない。
【 桜の木の枝、切断事件 】なんて勝手に命名して事件解決に挑む姿勢には意欲を感じるし、先生も好感は持てる。
雰囲気作りは大事だからな。
【 桜の木の枝、切断事件 】の犯人が教師だと辿り着けたのも凄い事だ。
先生も鼻が高いし、誇りに思う。
然しだ、【 桜の木の枝、切断事件 】に携わった教師は10名だ。
お前達の推理では10名中の誰が真犯人なのかを特定出来ていないだろう。
謂わば未完成の推理だ。
お前達の推理では【 桜の木の枝、切断事件 】は複数犯の犯行であり、【 桜の木の枝、切断事件 】に携わった教師10名が真犯人だと公言している事になる。
お前達は10名の教師を理事長室へ連れて行く気なのか? 」
ワトスン
「 ………………あっ、本当だよ、モティ!
犯人先生は1人の筈なのに僕達の推理だと先生全員になっちゃう?? 」
モリアーテ
「 ──しまったぁ!!
栗~ぷプリンで頭が一杯で犯人先生を1人に絞るのを忘れてぁ!!
僕とした事が、とんだミステイクだよ!! 」
担任教師
「 今迄も推理を披露しに来た生徒は居たが、【 桜の木の枝、切断事件 】に携わった教師の中に真犯人が居る推理を披露したのは、お前達だけだ。
よって、反省文は原稿用紙3枚とする 」
ワトスン
「 えぇ~~~~反省文を3枚も書かないと駄目なのぉ~~~ 」
モリアーテ
「 推理が惜しかったなら1枚で良いじゃんか、先生 」
担任教師
「 そうかそうか、3枚では不満か。
なら4枚にしてやろう 」
ワトスン
「 嫌だぁ~~!
増やさないでよぉ、先生ぇ~~ 」
モリアーテ
「 3枚で勘弁してよ、先生!! 」
担任教師
「 1人で3枚じゃないから安心しなさい。
チームで3枚だからな。
1人1枚書けば良い。
反省文の期限は明日の放課後、午後17時迄だぞ。
反省文の期限が守れなかったチームは、1週間ランチルームの掃除係りに任命するから覚悟しろ 」
ワトスン
「 えぇぇぇ~~~~!
ランチルームの掃除係りぃ~~?
絶対に嫌だぁ~~ 」
担任教師
「 推理の報告が終わったチームは、明日のホームルーム終了時迄、このリボンを胸元に付けていなさい。
推理内容は他言無用だぞ、分かったか? 」
モリアーテ
「 は~~~い… 」
ワトスン
「 はい… 」
担任教師から原稿用紙3枚とリボンを受け取ったモリアーテとワトスンは両肩を落としてガッカリした様子で職員室から退室して行った。
ホームス
「 御世話掛けました… 」
担任教師
「 貴方も大変ですね、理事長 」
ホームス
「 うん……でも、楽しいよ。
彼を──モリアーテを連続大虐殺人鬼にしたくないからね。
彼に──ワトスンにモリアーテを射殺させたくもないし。
2人には探偵として人生をやり直してほしい。
その為に僕は “ ホームス・グリンスト ” を演じ続けるよ 」
担任教師
「 推理を聞いてましたけど、モリアーテは探偵の素質はありますよ。
ワトスンは未々ですがね 」
ホームス
「 僕もそう思う。
ワトスンを探偵にするには骨が折れるけどね 」
担任教師
「 あのモリアーテが未来では世界中を震撼させる程の連続大虐殺人鬼になるとは──未だ信じられません 」
ホームス
「 うん……僕もだよ。
だけど、何処かに必ずモリアーテの人生を狂わせる切っ掛けがあった筈だよ。
それを突き止めたい。
未来のモリアーテは探偵学院とは無縁の人生を送っていたから多少の改変は出来てると思いたいかな 」
担任教師
「 私達は引き続きモリアーテ・アンセーヌを監視しつつ成長を見守り続けます 」
ホームス
「 うん。
これからも頼むね、チェスタン 」
担任教師と会話を済ませたホームスは職員室を出ると、ワトスンとモリアーテの後を追って走った。
担任教師:チェスタン
「 此方も前途多難ですよ、理事長… 」
【 桜の木の枝、切断事件 】の推理を披露しに来た生徒達の推理報告書に目を通して読んだチェスタンは、深い溜め息を吐きつつ両手で頭を抱えながら、生徒達の今後について苦悩するのだった。