✒ 桜の木 2‐1
此処は少年探偵学院の敷地内。
少年探偵学院の隣には、少女探偵学院がある。
少年探偵学院と少女探偵学院は全寮制の探偵育成学院なのである。
生徒は院生と呼ばれ、幼等部児童は幼院生,小等部児童は小院生,中等部児は中院生,高等部児童は高院生と分けられており、エスカレーター式のマンモス学院である。
モリアーテ・アンセーヌ,ワトスン・ミチェンル,ホームス・グリンストの3人は8歳の小院生2年である。
モリアーテは相変わらず女子にモテモテで女難の相に遭っているし、ワトスンは世話好きで過保護なオカンみたいな相棒のホームスと行動を共にしていた。
ワトスン
「 人集が出来てるね。
何だろう?
ホム、行ってみよう! 」
ホームス
「 ワト、待って! 」
止めるのも聞かず軽快に駆け出したワトスンの後を追って、ホームスも駆け出す。
ワトスン
「 ──一体何があったの? 」
?
「 ワトスンとホームス。
事件が起きたんだ。
誰かが桜の木の枝を枝を折ったのさ 」
ワトスン
「 えぇ〜〜〜、穴の次は枝ぁ?
理事長先生の大事な桜の木から枝を折るなんて、命知らずだね…。
何処の誰だろう? 」
?
「 分からないから、推理して犯人捜しをするんだよ。
ワトスンとホームスも参加するのか? 」
ワトスン
「 勿論だよ!
参加するに決まってる! 」
ホームス
「 ワト… 」
?
「 何でも犯人を捜し出せたチームには、1週間のデザートがあの有名な栗ぃ〜ぷプリンに変更されるらしいんだ! 」
ワトスン
「 栗ぃ〜ぷプリン?!
あの予約待ちで半年先の栗ぃ〜ぷプリンがデザートになるの?!
1週間も食べれるの?!
──ホム、これは大事件だよ!!
絶対に犯人を捕まえて理事長先生の前に突き出そう!!
プリンの為に!! 」
ホームス
「 …………明らかに先生達に仕組まれた事件じゃないか… 」
?
「 そんなの関係あるかよ!
普通のプリンじゃないんだぞ!!
言っとくけど、プリンはGチームが頂くからな! 」
ワトスン
「 Fチームだって負けないよ!!
全力で勝つよ! 」
ホームス
「 …………はぁ…。
じゃあ、推理をする前に現状を把握しないとね… 」
ワトスン
「 枝を折られた桜の木を調べよう!
推理の手掛かりが残されている筈だよ! 」
ホームス
「 先生達に仕組まれた事件だからね、あるだろうね… 」
ワトスンはホームスの手首を掴むと人集りを掻き分けながら目的の桜の木へ近付いた。
ワトスン
「 …………ねぇ、ホム…。
どうして桜の木へ向かって歩いた足跡は残っているのに、桜の木から離れる足跡は無いんだろう? 」
ホームス
「 どうしてって…。
仕組んだ先生達がそうしたからでしょ?
推理を混乱させる為に──とか 」
ワトスン
「 桜の木の前へやって来た犯人は、桜の木を登って枝を折ったんだ! 」
ホームス
「 ワト? 」
ワトスン
「 桜の枝を折った犯人は、桜の木から──あのフェンスへ飛び移って逃げたんだよ!
きっとそうだよ!!
だから、桜の木から離れる足跡が無いんだ!! 」
ホームス
「 …………迷推理は健在だね…。
違うと思うよ 」
ワトスン
「 名推理だなんて、褒め過ぎだよぉ(////)
ホム、フェンスへ行こう! 」
ホームス
「 …………行っても靴跡は無いと思うけど… 」
ワトスン
「 もう!
ホムは否定ばっかりするね!
調べてみないと分からないよ! 」
ホームス
「 ワト…、聞いて。
犯人は猿じゃないんだから、桜の木からフェンスへジャンプしても届かないよ。
何メートルあると思ってるの?
助走を付けてジャンプしても届かない距離だよ。
助走を付けれない桜の木からジャンプして飛び移るなんて、現実的に考えて無理だよ。
折った枝を持っているなら片手だし、尚更… 」
ワトスン
「 じゃあ、桜の枝を折った犯人は猿じゃないかな 」
ホームス
「 ワト……確証もないのに犯人を猿に決めない 」
ワトスン
「 猿って言ったのはホムだよぉ 」
ホームス
「 …猿は例えだからね。
兎に角、靴跡が一方通行分しかないのは先生達の仕業──って、ワト! 」
ワトスンは既にホームスの傍には居らず、フェンスへ向かって移動していた。
ホームス
「 ワト…。
…………とんだ迷探偵も居たものだね…。
そこがワトらしいんだけど… 」
深い溜め息を吐きながら、ホームスはワトスンの後を追い、フェンスへ向かって歩いた。
──*──*──*── フェンス前
ホームス
「 ワト……、幾ら探しても靴跡なんて無いよ… 」
ワトスン
「 黙って、ホム!
今、推理中なの! 」
ホームス
「 そう… 」
地べたに這いつく張りながら推理をしているワトスンの様子を静かに見守りながら、両肩を竦めて御手上げな表情をしたホームスはフェンスへ寄り掛かった。
ホームス
「( 靴跡なんてあるわけ無いのに… ) 」
ワトスン
「 …………あっ!
ホム、見てよ!
足跡があったよ!
大人の足跡だよ!!
あの桜の木の前で見た足跡と同じ足跡だよ!!
ほらぁ、僕の推理は正しかったんだよ!!
犯人は大人の靴を履いた猿で間違いないよ!!
栗ぃ〜ぷプリンは僕達Fチームの物だ! 」
ホームス
「 ………………。
確かに…桜の木の周辺に残っていた靴跡と同じみたいだね…。
先生達は何を考えて、こんな所に靴跡を残したんだろう?
悪ふざけ?? 」
ワトスン
「 ホム、足跡を追跡しよう!
足跡の先に犯人が居る筈だよ!! 」
ホームス
「 ワト、足跡じゃなくて靴跡だからね。
それに未だ桜の枝を折った犯人の靴跡とは限らないよ 」
ワトスン
「 もぉ〜〜、また否定から入るぅ!
否定より肯定から入ろうよぉ!
プリンが懸かってるんだよ!! 」
ホームス
「 …………好きにして…。
ワトの推理を見届けるよ… 」
何かを諦めたホームスは、ワトスンの好きにさせる事にした。
何を言っても聞く耳は持たないだろうと判断したからだ。
ワトスンはホームスの手首を掴むと靴跡を辿って歩き出した。
ワトスンの言う通り、桜の枝を折った犯人の靴跡なのか──、無関係な靴跡なのか──。
ワトスンもホームスも未だ知らない。