もしこの時計が喋れたとしたら・・・
もし・・・・・
年に一度の大掃除で
柱に掛かっている時計についた埃を
台に上がってきれいに払ってあげながら
もし もしこの時計が喋れたとしたら
誰に何を話すのだろうか・・・
そんなことをふと
私は思う・・・。
この家に・・・・・
私が嫁いで来るその前から
この柱のこの場所にずっと掛かっている時計
そして そこから一度も動かずにずぅっと
私のすることを黙ってじっと見ていて
私が話すことに聞き耳を立てていた
そんなこの時計が・・・。
もし・・・・・
もしこの時計が喋れたとしたら私の罪を
誰かに話すのだろうか・・・。
§
自分が・・・・・
もう自分が誰なのかも
もう分からなくなってしまって
自分の意志さえまともに伝えることが
もう出来なくなってしまったそんな姑に私が
この家の中で何をしてきたのかを・・・。
姑が逝ってから・・・・・
箍が外れてしまったように
それまで以上に私の身体を舐めまわすように
尚更私のことを厭らしい眼で見るようになった
そんな舅と私が昼間から誰憚ることもなく
この家の中で何をしているのかを・・・。
そして・・・・・
無能な癖して
私の夫なんかよりも
自分の方が家長に相応しいと
そんな勘違いをしている義弟と一緒になって
私が密かに何を企んでいるのかを・・・。
§
もし・・・・・
可愛くて素直で
良く気がつく出来た嫁を演じながら
私がこの家の中でしてきたそんな罪の数々を
そしてこれから私が犯そうとしているその罪を
その全部を見て聞いて知っているこの時計が
もし もしこの時計が喋れたとしたら
誰に何を話すのだろうか・・・。
でも・・・・・
たとえこの時計が喋れたとしても
誰かに何かを話す訳など決してありえない・・・
何故なら秘密を共有した時点で既に共犯者だから
だから たとえこの時計が喋れたとしても
私の罪を誰かに話す筈など でも・・・。
「もし・・・・・
そんなことをしたら
キミのことを床に叩きつけて粉々にしてやる・・・」
そう言って私は時計に笑って見せた・・・。
La Fin