予感
2人は、広場が見下ろせる丘の上のベンチに腰掛け、下の様子を眺めていた。
リアは、屋台で買ったクレープを口いっぱいに頬張っている。
少女はその隣に、フィッシュ・アンド・チップスを持って座った。
姦しい声や、男達の歌。吹奏楽団の音色に、子供達の笑い声。
一年に一度の、特別な日だ。
「祭りはいい…。普段いがみ合ってる奴らも、軍人も、みんな酒を飲んでさ。
全部止まるんだ、争いが。この日だけ」
しみじみと、心の内を漏らす。リアは静かに聞く。
「ずっと、ずっと…この時間が続けばいいのに」
一点を見つめているせいか、視界がぼやける。広場の明かりが、ステンドグラスのように明滅する。
「…まつりちゃん」
ふいにリアが呟く。少女は彼女の方を向いた。
「お祭りが好きな、まつりちゃん」
数秒が流れ、リアの顔が真っ赤に染まる。
「ご、ごめん、あたし…」
「ありがとう…いい名前だ」
まつりはリアの目を見て、にっこりと笑った。
初めて見せた笑顔であった。
この宴には、まつりの父親も訪れる。
彼女の記憶は曖昧だが、名前が変わってからも父の話がよく耳に入った。
今、どこで何をしているか定かではない。
ただ一つわかることは、彼がここに来る、ということ。
すると、賑やかな民衆を見下ろしていたまつりに、強い頭痛が襲った。
耳を塞ぎ、うずくまる。
「!!…あっ…!」
「まつりちゃん?大丈夫!?」
突然の出来事に、リアは顔を覗き込ませた。
「…あぁ、大丈夫だ…」
頭を左右から締め付けられるような痛みは、段々と引いていった。
生まれて初めての感覚。兆候もなかった為、違和感を覚えた。
「悪い、先に帰る」
「待って!」
リアが、ふらふらと立ち上がるまつりの腕を掴む。
悪い目つきで振り返ると、リアがいつもと違った目をしていた。
「分かんないけど…今帰っちゃだめな気がするの。できればもっと離れたほうがいい……
…気がするの」
自信なさげに、まつりに伝えた。
まつりは暫く考えた後、なにか悟った。確証はない。
「信じるよ。丘を登ろう。そこに小屋があったはずだ」