約束
時は流れ、少女はまた約束の場所にいた。
心地よい風が帽子からはみ出た髪を揺らす。
「おーーーーいっ!」
並ぶコンテナの向こうから、可愛らしい少女が走ってくる。
リアだ。レースの上着にスカート、肩にかかるほどの金髪を、ポニーテールにしてある。
「リア!」
勢い余って突進してくるリアをハグで受け止める。
シャンプーのいい香りがする。
「会いたかったよ〜〜〜!ケガは?もう大丈夫なの?」
「よしよし…。うん、なんともない」
「すごいね!生命力のおにだね!」
「いや鬼って…」
彼女が自分の心の支えになっていることを、少女は自覚していた。
なるべく人と合わないように、居場所へと案内する。
と言っても、この辺の『組織』は軒並み【PUNCH EYES】…いや、自分が制圧した為、そういう男達の姿は見えなかった。
無事、木造住宅の前に到着した。
「ここが家?」
「家…か。そうなるかもな」
何気ない質問にも返答に困るものがある。
自分の話もしないといけない。
「ここは自由に使ってくれ」
部屋に案内し、この集落のことも伝える。
「その…怖い人たちに見つかったら駄目なんだね!」
「間違ってはないな。今日は大丈夫だろうが」
リアが思い出したように問う。
「そうだ、お祭り!お祭りはいつからなの?」
「宴は夕方からだ。もう準備は始まってるくらいか」
その一言を聞いた途端、リアは少女の手を取った。
「行こうよ!」
その目は、透き通った水のように綺麗だった。
広場へ出ると、まるでロンドンの街のように人が行き交っていた。
あちこちでテントが建てられ、酒や食べ物が運び込まれてくる。
吹奏楽団は特設のステージで準備を始めていた。
「今年もすごいな…」
普段との違いに、少女は感嘆の声を漏らす。
「来たことあるの?」
「あるからお前を連れてきたんだ」
大事なことを思い出して、忠告する。
「そうだ。この前ここでちょっとトラブルがあってな。悪いがわたしは目立っちゃ駄目なんだ。…わかってくれるか?」
いくら宴であっても、死んだ人間が生き返ってきてはおかしい。
するとリアは不思議がる素振りも見せず、応えた。
「うんっ!」
「…いい子だ」
少女は微笑んで、帽子を深くかぶった。
あたりは暗くなり、色とりどりの光が広場を覆い始める。
「もうはじまるよ!いこ!」
リアはその場で駆け足をする。楽しそうだ。
「そのつもりだが…金はそんなに」
「持ってきたから、ほらっ!!」
リアは肩掛けの小さなバッグを開くと、大量の硬貨がむき出しで顔を出した。
取引でしか見たことない額であった。
いけない。すぐそんなことが頭をよぎってしまうほど、脳は男達に染められてしまった。
今日くらい、無垢な少女に肩を寄せよう。それがいい。