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PANDEMIC-GIRL  作者: 斎田 芳人
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回忌

夕方。

再び辺境の地へ戻ってきた少女は、集落をさまよっていた。

『PUNCH EYES』はもちろん、『組織』たちに死んだはずの人間が生きていては何をされるか解ったものではない。

命は助かるだろうが、それではまた『ミオ』に逆戻りだ。

リアのもとに留まらなかったのは不本意ではない。


自分はここで生きていく義務がある。彼女はそう思っていた。

弱肉強食。

力あるものとそうでないもの。

両方が存在するから、世界は循環出来る。

歴史はそんなことの繰り返しに過ぎなかった。


空を見上げると、熱気球がゆっくりと頭を通り越していった。

まるで自分たちの力を見せつけるように。


立ち止まり、顔でも拝んでやろうと帽子の鍔を持ち上げると、待ってましたと言わんばかりに西日が視界を眩ませる。

少女はまた歩き出し、あの場所へと向かうのだった。


日が暮れ、ガス灯の光が影を地面に映す。

少女はコンテナ通りに佇んでいた。


まだ血痕が残っている。その赤黒さが、胸の奥底まで染み込んでいると思うと、心が痛む。

寂しげに倒れていた銃剣つきの半自動小銃を持ち上げ、砂を払う。

誰か来るんじゃないかとか、死体がなかったらおかしいだとか。

そんなことを考えもせず、少女は『ミオ』の上に寝そべった。


「リア…」


戻ってきてから、初めて声を出した。




翌日、少女は『住い』に戻ってきた。

立つ鳥跡を濁さず。『組織』は移動型の集団で、拠点を転々と変え活動する。

もっともスラムには殆ど空き家のような建物しかないのだが、彼女はここに帰ることを選んだ。


扉を閉め、南京錠で固定する。

男達がいつも囲んでいた机には、空の酒の瓶が無造作に転がっていた。

傾いた急な階段を登って自室に入る。途端に様々な感情が渦を巻いた。



【私は生きていく中で、何度も名前が変わった。


最初は、言葉も話せない頃。たしか…『マニ』。

多分、両親からもらった名前だろう。

彼女は集落のはずれで売りに出されたが、買い手が見つからなかった。

不況が始まり、餓死した。


次に、人攫いに育てられた幼少期。『シーファ』。

結局捨てられて、毎日道行く人を眺めてたっけ。

不況が更に厳しくなり、栄養失調で死んだような…。


そして、一人で生きていくことを誓った頃。『アイリス』。

毎日盗みを働いて食いつなぐ、ギリギリの暮らしだった。

仲間もいたし、今思えば楽しい方だったかもしれない。

ある日集落の『組織』に捕まって、殺されたけど。


最後に『組織』の一員として駆けた頃。『ミオ』。

衣食住を与えられ、代償として手を汚した。

この頃軍から奪った銃剣付き小銃は、今でも相棒だ。

抗争の最中、敵に撃たれて死んだ。 


ふざけた人生だ。

何度も何度も、死のうと思った。

でも、それじゃつまらない。

生きることをやめたら、面白くないだろ?

これからどんなことがあっても、生きていける。


だって、わたしはここに、こうして生きているじゃないか。】

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