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PANDEMIC-GIRL  作者: 斎田 芳人
3/28

開放

風も吹かない、ただ不穏な空気だけが立ち込める廃工場。

【PUNCH EYES】は予定通り、仕事中の【DREAD】を追い詰めた。

しかし、そこに少女の姿はなかった。


「追い詰めたぜ、【DREAD】さんよ」


ボスは、余裕の笑みを浮かべる。

『組織』どうしの抗争は日常茶飯事で、こういった男達の唸り声はいつもどこかで響いていた。

この集落だけでも十数個もの『組織』が影を潜めている。彼らはその中の一つに過ぎない。


「けったいなご挨拶だなァ!?」


狐顔の男が、顎を突き上げながら威嚇する。【DREAD】の下っ端だろう。


「今日は噂の妙な女はいねェようだなァ」


【DREAD】たちが隙を見せた途端、


「終わらせてやれ、ミオ!」


天井の骨組みから、少女が飛び込んできた。

握りしめた銃剣が狐の喉仏を付きかけたが、


「止まれやあああァァァァァァ!!!!」


狐は叫び、少女に腰から取り出した物体を突きつけた。


「こいつ…チャカ持ってやがる!ミオ下がれ!」

「…ッ!!」


廃工場に発砲音が鳴り響いた。

狐が、リボルバーの引き金を引いたのだ。


「くっ…!」


間一髪で少女は飛び跳ね、鉛の玉は地面を鳴らす。


「けっ…運のいいやつめ」


あたりが一瞬のうちに緊迫する。

ジリジリと、靴が地面をこする音だけが空間にこだまする。


狐は続ける。


「虫けら共ォ、今すぐ引けェ!」


少女は命令に従い、ゆっくりと後ずさりする。

誤算だった。この不景気、ましてやスラムでは拳銃一丁手に入れるのでさえ困難で、『組織』の抗争には鈍器や刃物がよく用いられた。


「女。そのままさっさと帰りなァ。どうせソレに弾なんて入ってねえだろォ?」


少女は何も言わず、小銃を握りしめ、ただ後退した。それで事態は収束するかと思いきや、


「今だッ」


【PUNCH EYES】の一人が不意をついて狐に殴りかかるが、あっけなく敵に押さえつけられた。


「ああァァァァァァァァァァッ!!!!!動いたなァァァァァァ?!」


狐は狂気じみた形相で、もう一度引き金を引いた。

それが向けられていたのは、少女だった。


ドン、という音が全員の耳をつんざいた。

廃工場の出入り口あたりまで下がっていた少女の胸元に、銃弾が食い込んだ。


「あひゃひゃひゃひゃーーーーーッ!!撤退しろォ!!」


煙を巻くように【DREAD】が逃げていく。数人が追いかけるが、銃を所持する相手に向かっても見込みはないだろう。

少女は半壊した、藁の入ったコンテナの上に仰向けに倒れ込んだ。


男達は初めて、銃で撃たれた人間の血飛沫というものを目にした。


「ミオ…!」

「行くな」


場に残った二人の【PUNCH EYES】の内の一人が様子を見に行こうとするのを、ボスは遮った。


「どうして…」

「心臓に入った。ありゃ確実に死んでいる。…そうでなかったとしても出血で死ぬ。

お前はあいつを助けた後、治療して介抱できるのか?」


現実を突きつける。


「いいか。切り捨ては大事だ。また別の用心棒を探せばいい」


まだ日が沈まりきらない空の下、敗者たちはどこかへ消えてしまった。


『ミオ』という人間は、ここで死んだ。


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