恐れ
夜。
集落の離れに建てられた古びた木造の洋館。
五箇条の案内により、難なくたどり着くことができた。
連中はここを研究施設として使っているという。
「信じられない…こんなところに施設が建っていたなんて」
四輪駆動車の窓から顔を出して、ノアは思わず声を漏らす。
幼い頃は徒歩で移動できる範囲も限られていたので、ここまで集落を離れることはなかった。
電灯の数が少なくなってくる。道路の舗装も薄れ、不穏な空気が立ち込めた。
五箇条がエンジンを止める。
「車じゃここまでだ。こっからは足で近づくぞ」
「了解」
帽子の鍔を少し下げ、まつりは銃剣を握る手を強めた。
警戒は薄く、施設内には簡単に侵入できた。
4人は暗い空き部屋に写り、ランプを灯した。
「ふーーっ…」
リアは深くため息をつく。決心をしたとはいえ、実力は付いてこない。3人に守られていることで平静を保っていた。
まつりは扉の窓から周囲を警戒しながら静かに口を開く。
「ここで『なにか』に出会うのが一番危ない。戦うとどうしても物音を立てることになる」
「うん…それは避けたいね」
ノアが続ける。
「ぼくの弓ならある程度音は消せるよ。気づかれるとしたらリアちゃんのリボルバーと…」
「俺の大剣だ」
五箇条がそう付け足す。
「シロウ…お前が戦うのはここぞという時だけでいい。それまでは私たち2人がなんとか」
「!!」
ノアが咄嗟に弓を弾いた。
まつりが警戒していたドアの方ではない。
部屋の対角線、薄汚れた換気口の方である。
「きゃ…!!」
リアは大声を出しそうになるが口を両手で塞ぐ。
その目は換気口に張っていた蜘蛛の巣に絡まりながら床に落ちた『なにか』を捉えていた。
「やっぱりいるか…!」
ノアは冷静に狙いを定めて脳天に矢を放った。
彼女の方に這いつくばいながら向かって来た為、一撃で心臓を貫くことは不可能だ。
「ガァアアッ!!!」
『なにか』が悶絶する。
「任せろ」
腐った机の上を蹴り上げ宙を舞い、まつりは奴の背中から一気に銃剣を突き刺した。
「グガガッ」
「喋るな」
まつりは間髪を入れず奴の頭を踏み潰し口を塞ぐ。ジリジリと足を動かし、活動を完全に停止させた。
「すごいっ…」
リアは見ていることしかできなかったが、それが最善策だっただろう。2人の息の合った対処に、改めてそう思わされた。
「施設内にもこいつらが放たれているか…見つかるのも時間の問題だな」
「ならやられる前にやるだけだ」
五箇条の言葉に、まつりはそう答えた。
「短期決戦を仕掛ける。みんな…ついて来てほしい」




