狼煙
「楽に行ける道もここまでか…どうする?」
バイクをゆっくり停め、ノアが問う。視線の先には、『なにか』の大群。
「一点にこんなに集まるなんてな。突っ切れないならやるか」
まつりが先陣を切ってバイクを降りと、大群の前に立った。
複数の『なにか』は的を見つけ、襲いかかってくる。
「援護射撃、頼む!」
大群の攻撃をものともせず、銃剣を駆使し蹂躙するまつりの背後から、ノアの放った無数の矢が降り注ぐ。
数分もしないうちに、残る『なにか』は雀の涙ほどになった。
まつりは顔に付いた返り血を拭いながら、バイクの方を見た。
そこには、リボルバーを握りしめ俯くリアの姿があった。
「…」
それを見て多少の安堵を覚えざるを得なかった。人はそう簡単に変われるものではない。
視線を奴らの方にやり、もう一度銃剣を構えた瞬間、自分の横を高速でなにかが通り過ぎた。
鉛玉は奴らの頭上をすり抜けた。
まさか。
「…………くくく…」
「まつり?」
弓を引くノアが目にしたまつりは、笑っていた。
「下手だなぁ…」
俯いたまつりの目が、あの時のように変わった。
実に殺気立った眼球が、瞳孔が開ききった眼が、まぶたの中ではち切れんばかりに蠢いていた。
「こうやって殺すんだよ、リア」
ゆっくりと小銃をリロードし引き金を引いた。
ズドン、と雷鳴の如く銃声が鳴り響き、『なにか』の心臓を抉った。
リアもノアも、銃剣で戦ってきたまつりが引き金を引くのを初めて目にした。
『なにか』は操り人形が糸を切られたかのように倒れ込んだ。
それを見たまつりはどういう訳か、更に笑った。
「くくく…アハアハハハハハ…」
「駄目だ、引こう」
ノアは漠然とした恐れを抱き、バイクから降りてまつりの元へ駆けた。
「なんだ?」
「撤退だ。バイクに乗って」
「なんでだ?」
「…このままだとお前が危ない。ぼくの判断だ」
「ナンデダ…」
「アイリス!!!!」
「はっ…!!」
まつりの目が戻る。ノアは胸を撫で下ろした。
ノアは息をつく間もなくまつりの手を引いてバイクに戻った。