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プロローグ
世界の底。
とある街の離れにある集落。
昼間でも薄暗いこの場所に、光はない。
そんな一角を若い男が、野良猫のように走り抜ける。
薄汚いTシャツによれたジーパン。
「くっそ〜〜、やっちまった…」
靴は泥をはねる。そんな男の後からもう一人、型位の良い男が追いかける。
「あああもう、こんなことになるんだったら仕事受けなかったのに…」
弱音を吐きながら逃げる男の手には、むき出しになった注射器。
そんな様子を、幼い少女はただ見ていた。
いや、見ているかもわからなかった。
ボロボロになった布一枚を泥だらけの身体に巻き付け、座っていた。
敗者の器を前に、目は焦点があっていない。
もはや生命の灯火があるかさえ怪しい。
このような光景は珍しいものではなく、スラムではそこかしこで見られた。
だからこそ少女は、誰にも相手にされず座っていられるのだ。
男はそれを目にした。
「!…こうなったら…」
しばらくして、数歩先で男は捕まった。
漢は胸ぐらを掴み、男に問いかけるが
「い…いやこれ、カラだったみたいっすわ、は、ハハ…」
それから男が集落に現れることはなかった。