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月の舟  作者: ジョゼ
8/28

八、刃








「毒で充足された夜に、共犯者を、」









神々しくたぎりは静まってを繰り返す金炎ゴレの港、金天郷ギ・ルシエン

その黄金の灯りに照らされた美しい顔の色ひとつ変えず、再びビリヂヤンを吐くヨルが言った。




「如何いう事なの、・・・・・・・・・ヨル、」




カムカヌカは自分でも驚く程に冷静だった。


普通の人間である自分の体内からビリヂヤンが抜け出てゆくのを鮮明に感じていたが、特に動揺も起こらなかった。

首を押さえた右手の中の大量のビリヂヤンを見ても、鮮血を噴出す包帯で巻かれたた自分を見ても、もう、何も、感じなかった、。




宙論天文台ラ・テチム・ダーガンへの証が要る、君の肉体は犠牲、

 忘却を恐れぬカムカヌカよ、忠告アヴィを逃した脳に、ビリヂヤンを格納せしめんとは、」




ヨルはそう応え、意味深に微笑んで見せた。

金炎ゴレの光の中に包まれたこの舟で、ヨルだけが銀に鈍く照還キルエしていた。

ネインは黙りこくったまま、包帯の取れた肉体を嫌悪の眼で観察している。




「逆光を飲み込む薄闇に、逆境を吐き出す白昼夢よ、死んだ街にも病んだ空にも、

 肉片が遺るなかれ、迷う事に迷え、」




聞き覚えの有る言葉ワアドだった気がした。

遠い目をしたヨルが、本当に小さな声で独り言の様に言った。


何かに侵されているとしか思えぬヨルに、カムカヌカはそっと近付いた。

膝を折り自分を見上げるヨルが、なんだかとても哀しい存在に見えた。


勢いが収まりつつあるとはいえ、どくどくと自分から溢れ続けるビリヂヤンが、ひどく冷たく背をつたう。




「失くすものなど何も無い、何も、」




ヨルはカムカヌカを見て目を細めると、えぐれた脇腹を押さえ乍らゆっくりと立ち上がった。


二人はお互いをじっと見つめた。

腹の底を探る様に、動揺を映さぬ様に、哀れむ様に、だが、無感情に。


数歩離れたネインの緊張が伝わってくる。

祈る様な眼差しを向けるネインを他所よそに、やがてヨルは斜め後ろのカムカヌカの肉体の首元からナルフを引き抜いた。

同時に倍近く出血した肉体を巻く包帯は、白色ホルワの面積を見る見るうちに減らしてゆく。


首根に再び激痛を感じたカムカヌカは奥歯を噛み締めた。

流るるビリヂヤンが青青しくて、何故かそれが、心を安定させた。





希望レエヴは叶ったかい、カムカヌカ」





ヨルは引き抜いたナルフでカムカヌカの心臓ハルトを真っ直ぐに指し示した。

金炎ゴレが渦巻く港の黄金虫オーマが二人の頬をかすめて飛翔する。

ヨルは辛そうにカムカヌカの薄っぺらな上着コウトへ、ナルフの先端を押し当てた。




「平凡を呪おうが、君の明日はその手に必ず凶器を持っている、」




「・・・・・この舟は好きだ」




カムカヌカが応える。

静かな、静かな、精神状態。







「帰らないと云うのは嘘ぢゃない、刺すなら刺せよ、僕はビリヂヤンだ、」







カムカヌカは無表情でそう告げた。

沈んだ蒼い瞳に、ヨルを映し込んで。




やがてヨルは唇を噛み締め、ナルフを引いた。



そして力いっぱい、攻撃ヂルダした。







痛みは、無かった。








代わりに覚えの有る紗羅紗羅しゃらしゃらという耳障りな細音と、視界をいっぺんに塞ぐ白い刺繍布レエスなびくのを確認した。

そして、咽返る様なあの甘い香りが、カムカヌカの胸を襲った。





「眠れぬ夜よ、無意味な演技力よ、」





白い視界に無造作に爆発する、甘い香りを発して散舞する無数の花弁はなびら

こちらに背を向けたその存在は、ヨルに対して攻撃的だった。





「貴方の様な躊躇ためらいの時刻ウーフに、取引カルエは満たせないわ、」







「アラン、」








カムカヌカとヨルの間に現れたのは、天体団リーベン・ローエ将軍パドルマギヤ


アラン・コリアンスだった。















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