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月の舟  作者: ジョゼ
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六、対話







「ヨル!!」






我に返ったネインは塞がってしまった床に這いつくばって、必死に叫んだ。

カムカヌカは未だ呆然と立ち尽くしていた。

心臓ハルトが狂った様に早鐘を打つ。


ヨルと、将軍パドルマギヤの関係はいまいち解らない。

だが、非常に嫌な事態なのは目前のネインが物語っていた。


訳も解らぬ冷や汗を感じるカムカヌカは、突然の舟を揺らす大音響と、窓の外の銀河に広がる光の衝突に反応した。




「ネイン、上だ!、」




泣きじゃくるネインの腕を掴んで、カムカヌカは個室を出かけた。

ふと思い出し、カムカヌカは投げ出されたままの包帯人間を振り向いた。

ネインが小刻みに頷く。

カムカヌカは溜め息をつき、包帯人間を背負うと、再び長い通路を駆け出した。




「ヨルは、天体団リーベン・ローエ皇帝シエラだったんです、」




険しい顔つきで走るカムカヌカに、ネインが鼻をすすり乍ら呟いた。

包帯人間に全く重さを感じない事に気を取られていたカムカヌカは、危うくネインの言葉ワアドを聞き逃すところだった。



「なんだって、?」



カムカヌカは自分だけ色々と蚊帳の外な事にいい加減苛々していた為、眉根にしわを寄せて尋ねた。

ネインは少し躊躇ためらって、唾を呑み込んだ。





「ヨルは、叛乱ヂャッヂを行ったんです、皇帝シエラなのに、天体団リーベン・ローエを、潰すと」


「とんだ皇帝シエラだな、」




最初からろくな奴には見えてなかったけど、とカムカヌカは言いかけて、喉の奥に仕舞い込んだ。

ネインが瞳いっぱいに涙を溜め、泣き出したいのを堪えていたからだ。

ヨルの事が心配で堪らないのだろう、駆ける脚も早まっている。




「、ちゃんと理由があります、ヨルは、優しいから、だから、、、」




世勉ゼエベンの制服の袖でぐい、と涙を拭うと、ネインは悲しそうに続けた。


 


天体団リーベン・ローエ天球法議会ダ・ルマスク・ノルエも、何ひとつ解っていません、何ひとつ・・

 ヨルだけが、正しいのです、今はこの舟に乗って耐えるしかないと、僕は無力だけど、傍にいたいのです、いつか必ずヨルの助けになれるから、、、」



カムカヌカは歯を食い縛るネインを見て、今のが出会ってから一番解り易い返答だったな、等と如何でも良い事を考えていた。


カムカヌカは真実を求めていた。

それはとても切実で、急を要するもの。

初めて触れているこの包帯人間もそうだ、温もりも、心臓ハルトの鼓動も、脈も、有る。

でも、命灯ユエは感じられなかった。

これは抜け殻、死んで、いる、。


此の儘ぼんやりと彼らの側についているわけには、もう行かないのだと本能が訴えている。





「、、君達は、この舟で、一体何をしているんだ、何に耐えているんだ、、何の為の天舟そらふねだ、!」





カムカヌカは強い力でネインの弱々しい肩を掴み、乱暴に壁に押し付けた。

ネインは細い肩を驚きで震わせ、濡れた黒い瞳で真っ直ぐカムカヌカを見上げていた。


すがる様な目をしている自分が憎い。

だけど無力なのは自分の方だ、この銀河では目の前の小さな少年より、自分の方が遥かに無知なのだ。


虚しさで喉を痛めるカムカヌカに、ネインが何か言おうと口を開いたその時だった。




薄暗かった通路に左右の客室から、一斉に金極光ゴイラトが差し込んだ。





「港です、」





二人は、甲板への螺旋階段に辿り着き、一気に駆け登り乍らネインが焦った。

正直、いくら重さを感じないと言っても、やはり息切れのカムカヌカは、ネインより遅れて甲板に踊り出た。







甲板の人影はひとつだった。







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