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月の舟  作者: ジョゼ
22/28

二十二、別離











強い声が甲板に届いた。







ゆっくり点滅を繰り返す舟に、初見の人間が三名、空間を捻じ曲げて降り立った。

臨戦態勢をとる専属魔術師ベガ・ウイザドを挙手で制し、ヨルが前へ進み出る。



真ん中の細身の男が後の二人を従えるように立つ三名の天体団リーベン・ローエは、先程、五明ウーメイが吹き飛ばしたような雑魚では無いという事が、カムカヌカにも直ぐに解った。

何というか、雰囲気オウラおおきい上に、軍服が、赤ではなく、白だった。



中央の偉そうな男は、切れ長の紅い吊り目を鋭く細め、敵意むき出しでヨルを睨んでいた。

右眼だけにかけられた片鏡スラ金連チエンが小刻みに揺れている。

両の腰袋には数えられない程の大小のピスタが、乱雑に押し込まれていた。


その後ろの一人はカムカヌカと同年とみられる若さの少年だ。

真紅の頭髪は長く、一本に編まれ、若々しい両頬には左右対称に不思議な模様が刻まれていた。

軍服がまくられたその腕には、怪我でもしているのだろうか、包帯が巻かれている。


もう一人は女、短い髪は目の下で切り揃えられ、深くかぶられた軍帽で顔はよく見えないが、結ばれた唇が小さく震えているのをカムカヌカは目敏めざとく発見する。








「・・・ダンテ、自殺願望が在るのは天体団おまえたちだろう、僕はもうずっと、そう諭してきた、」








三名の眼前で、ヨルは溜め息混じりに言った。

ダンテ、と呼ばれた男は、片鏡スラを光らせて笑う。







「貴方の其の考えに、誰も賛同しなかった結果が此れだ、叛乱ヂャッヂうそぶく、成れの果てがビリヂヤン狩りだと、、、、崇高な天体団リーベン・ローエを辞めて、緑喰ビイゾとは、今でも団内の良い噂話ゴシツプですよ、」







ふん、ヨルは鼻で笑って、何時もする、辛そうな自嘲を浮かべた。

仲間だった者からの、攻撃ヂルダ、その背景が全く不鮮明だが、カムカヌカは少しずつ、ヨルを理解し始めていた。


脇腹から濃い血染みを造形するヨルに、ダンテが再び何か言おうと口を開いた其の時、ヨルの前に小さな影が飛び出した。

彼は頭布フウドを手荒に剥がすと、鋭い口調で言った。






「僕は天球法議会ダ・ルマスク・ノルエ専属魔術師ベガ・ウイザド壱番陣イチモ中将レオン胡藍煌コ・ランファン、!

 如何やら天体団リーベン・ローエ五大将軍パドルマギヤと見受けるが、お前らは我らが議会衛星サテライトを潰しておいて、何様のつもりか、!」






幼い少年、藍煌ランファンが噛み付いた。

将軍パドルマギヤ、!?)

カムカヌカの脳が冷える。

なりが違うと思ったら、成る程、将軍パドルマギヤ・・・・!


瑠璃色の瞳を怒りで満たした藍煌ランファンの背に、五明ウーメイと、もう一人が駆け寄った。

それを見てダンテの後ろに居た三つ編みの少年が、抱えていた書類を手に口を開いた。






「恐れながら、、、、天体団リーベン・ローエ将軍パドルマギヤ・ラファイド・ハイド、発言します、。

 堕帝カエラが未だに宇宙エヴレン亡霊キヤスパである件、並びにレカ嬢を誘拐している件、過去に天体団リーベン・ローエを混乱におとしいれた件、現在進行形でこれ等を遂行している件、その他諸諸・・・解決の為にこれだけの大事に至る事が必要なのです、我々は決して戦争ランゼンを望んではいません、ご理解と和平フルを、」




「同じだろう、!此れだけの事をすれば、戦争ランゼンは必然だ、!!」







叫び、取っ組みかかろうとする藍煌ランファンを、頭布フウドを被ったままの魔術師ウイザドが抑え込む。

息を切らす藍煌ランファンまぶたを、徐々に激しさを増す雨が打った。







「兎に角、今の所はレカ嬢を差し出してくれたら良いのです、舟の居場所はもう把握出来ます、

 アランが回復すれば、いずれ、沈めに参りますゆえ、」







ラファイド・ハイド、と名乗った将軍パドルマギヤは真っ直ぐヨルを見据えた。

ヨルは少し青い顔で眉根にしわを刻む。

アラン・コリアンスは、健在の様だ、。

それまで黙っていたダンテが、再び片鏡スラを光らせた。




「そう云う事だ、堕帝カエラすみやかにレカ嬢を寄越して頂きたい、」




そう言い乍らダンテは腰に備えられている派手なピスタを手にした。

小さく悲鳴を上げるネインの元へ寄ると、カムカヌカはその肩を抱いた。

レカ嬢、ネインの事だ、ネインは、天体団リーベン・ローエなのだ、。

堂々とピスタを手先で遊ばせるダンテを、ヨルは余裕そうに嘲笑あざわらった。






「酷く不穏ぢゃないか、ダンテ、一寸ちょっとは遠慮と云う物を学べよ、余計に長生きしないぞ、ただでさえ馬鹿げた取引カルエが内臓を蝕んでいる、お前も、僕も、」






脇腹を押さえ、足下がふらついてきたヨルを見て、ダンテが吐き捨てる様に言った。






宇宙エヴレンを巻き告ぐ天体団リーベン・ローエは、代謝が頻繁な方が良い、潔さは必要不可欠、

 吐き溜まりの老廃物は消えろ、!!」









ダンテは遊ばせていたピスタを構え、発砲した。

ヨルの前に居た専属魔術師ベガ・ウイザド三名が、一斉に青く発光する光盾バルアを展開した。

ダンテは銃弾を連射、全てが激しい光の矢と成って、藍煌ランファン達をつらぬこうと光盾バルアに突き刺さる。

ばちばちと電撃ボルタが競り合う音と、明るい光が、甲板いっぱいに広がった。


見守る他無いカムカヌカとネインは、縮こまって目を細めていた。

刹那、カムカヌカは背後に殺気を感じ、振り向いた。

其処には三つ編みの将軍パドルマギヤ、ラファイド・ハイドがピスタを両手に構え、照準を合わせているところだった。






「、、!!!!」







咄嗟にネインをかばったカムカヌカを更にかばって、ひとつの影が滑り込む。

不気味に赤黒くよど血紋陣ブロ・ルタが、回転し乍ら複雑な数式を描いた円を組み、ラファイド・ハイドへ闇を伸ばした。

宙で身を一回転させ、ぎりぎりでそれをけたハイドの背後に再び円陣が組まれた。

目を剥くハイドに、容赦無く漆黒が爆発する。

体勢が整っていないがなんとかかわしたハイドの肩に、闇の糸が少しかすった。

傷口から真紅の花弁はなびらが舞い散る、。





「ハイド、一体、誰の何処を取引カルエしてきたんだい、生臭いね、腕、」





カムカヌカとネインの目前に降り立ったヨルが、指に付着した自らの血を、舐めた。

爛爛らんらんきらめく其の紅い瞳は、此処に居るどの天体団リーベン・ローエより、澄んだ、純粋な紅だった。






「ユイルアロウ、!!!」






振り向けば、藍煌ランファン達を押しやり、ダンテが数十のピスタを乱射し乍ら、ヨル目指して爆走して来ていた。

五明ウーメイが急ぎ、魔法でいばらの様なむちの様なものを放ったが、目前に急に立ちはだかった短髪の女将軍(パドルマギヤ)に邪魔されてしまう、。


ダンテに気を取られているヨルを背後から撃とうと、既に被弾し、花弁はなびらを舞わせているラファイド・ハイドがピスタを構えた。

が、頭上から降ってきた何者かの放った炎で、視界がさえぎられてしまう。

空から勢い良く舞い降りたコハクは、ハイドの脳天に蹴激キレクもお見舞いした。


突進して来るダンテに、ヨルはネインとカムカヌカを後ろに、身構えた。

光の粒が継続的に舟を飛び交い、手負いのヨルを狙う。


狂気に撃ち叫ぶダンテを攻撃ヂルダするべく、ヨルが脇腹の流血をすくい取り、大雑把に血紋陣ブロ・ルタを描きかけた、其の時だった、。









「レカ嬢は頂くぞ、」








水の中で発声する様な、ごぼごぼとした不気味な声が響いた。

カムカヌカとネインが姿勢を低くしているその床に、黒い異次元穴パラレ・ダ・ホルが現れる。

ネインを抱き、退こうとして、カムカヌカは黒いいかづちに遠く、跳ね飛ばされた。

鞠の様に床に叩きつけられたカムカヌカは、痛みを堪えて、顔を上げる。


煮立つ如く湧き上がるその闇から、白く細い手がネインへ伸ばされた。








「何、っ!?、」








円陣でダンテと対峙していたヨルが異変に気付き、目を剥いた。

穴は水溜りに広がり、其処から弱々しく差し出された血管の浮き出た白い手は、今まさにネインの世勉ゼエベンの制服のすそを掴みとった、、、。













「きゃああああああーーーーーーっっっっ、、!!!!!!!」











ネインの絶叫が耳をつんざく。












「ネイン!!!!!!」











ヨルは発砲を止めないダンテから身をひるがえし、ネインのもとへ走った。












「させるかあああああ!!!!」











背後からの弾丸をもろに食らい乍らも、ヨルは必死の形相で失神したネインの首根っこを掴み、穴の淵から引きずり上げた。

瘴気に弾かれ、胸を強打したカムカヌカが、やっとの思いで、ネインのもとへ這い戻った所だった。









「そんなに欲しいなら、くれてやろう、!」








ヨルは背中に無数に食い込んだ弾丸の痛みも忘れて、にやりと邪悪な笑みで眼帯を歪めた。

そして力いっぱい、憎しみを込めて、背後に迫ったダンテの胸座むなぐらを掴んだ。








、つもりだった。



ダンテだと思って掴んだ其れを、ヨルは乱暴に穴に放り込んだ。












「、、え、うわ!」


















「、っ、な、カムカヌカ、!?」





緑宝ビリジェイア、、!!!」











一部始終を遠くから観ていた五明ウーメイが叫んだ。

ヨルが其れをカムカヌカと認識したのは、時既に遅し、。

白い両手は満足そうにカムカヌカを抱えると、禍々しい漆黒のデイルへ、沈んで行った。







穴は、一瞬で閉じられた。









硬直したヨルへ、敵味方関係無く、甲板に居る全ての人物からの白い白い視線が、爪先から頭頂まで、串刺しに向けられていた、。








































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