表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の舟  作者: ジョゼ
20/28

二十、合流









ゴ、ゴゴ、、、







もう一度、舟が前進した。


地響きと共に緩やかに食い込む舟は、みるみるうちに会議室の、この宮殿サイユエかたちを削っていった。

天井が崩れ、床はひび割れた。

電燈ラトが割れる音と、議員達が叫ぶ声が風に呑まれてゆく。

倒壊する建築に伴って、再び強風と、砂礫が舞う。

カムカヌカは煙の切れ目に、ひび割れた天井の向こうに広がる、夕暮れの濃紫バンプルの空を見た。

会議が始まったのは、昼過ぎ、もう夕方なのだ-------



「ヨル、ネイン、!」



砂利が顔に激しくぶつかる。

カムカヌカは風に煽られ、椅子につまづいて転んだ。

夢中でそれを風除けにすると、カムカヌカは眼をこすり乍ら、必死に二人の姿を探した。


のろのろと前進を続ける舟の起動エンヂン音が響く。






堕帝カエラと、レカ嬢を探せ、!!」






突然の声と共に、不特定多数が会議室を駆ける音が聞こえた。

(何が起こっているんだ、!?)

困惑したままのカムカヌカは椅子を盾に、胸を押さえ呼吸を落ち着けようと努めた。




、不意に、背後に気配を感じ、カムカヌカは勢い良く振り向いた。




砂煙の少し先に、音も無く近付いた人影が在る。

僅かな視界の隙間で見て取れるのは、その人物が、紅い、という事と、カムカヌカに銃口を向けているという事----------!






撃たれる、、!






カムカヌカはぐ、と唇を噛んで、目を細めた。



その刹那、カムカヌカの横を、何かがり抜けた。

目にも留まらぬ速さで風を縫ったそれは、カムカヌカを庇う様に、構えられたピスタの前に躍り出た。

驚いた人影が、一発、乾いた銃声を響かせる。

空をかけ助人スクトは身軽にそれをかわすと、巨大な熱を放った。

炎の光源力エネルギアに、一瞬にして輪状レング状に砂煙がけ、視界が澄み渡る。



浅く息をつくカムカヌカがそこに見たのは、静かに燃える白炎トヴアと、そこに舞う大量の紅い花弁はなびら

そしてそれを背に微笑む、夜葬ユルバの蝶の女王フレイヤ・アマカケルオボロノコハクだった。





「カムカヌカ、無事か、?」



「・・・・・・はい、有難う御座います、」





そうか、と、にっこり笑ってみせるコハクは、昨日昼間に会った時とは全く別物だった。

白い髪は腰のあたりまでだったのが、自らの脚よりも下まで長く伸び、生気に満ちている。

薄くひるがえる異国の服は浮かび上がり、その華奢きゃしゃな背には、上品に揃えられた蝶のはねが伸びていた。


カムカヌカはあまりの美しさに息を呑んだ。

夜葬ユルバの蝶の、真の姿、。





「日が暮れていて命拾いしたな、もっとも、おぬし一人で天体団きゃつらを全滅させる事の方が実に容易たやすいのであろうが、」





コハクは金の瞳の真一文字に引かれた瞳孔をすがめ、座り込んだままのカムカヌカを覗いた。





「あれは、天体団リーベン・ローエの舟なんですね、」




カムカヌカは徐々に晴れ始めた室内に、鼻先を押し込んだままの舟を指した。

コハクは頷き、カムカヌカの手を取り立たせる。




「大胆な事をする、第二次月団戦争ド・ラン・リュムゼンまぬがれられぬ、

 天球法議会ダ・ルマスク・ノルエさえ切り捨てるつもりなのだ、」




冷えたコハクの手が、カムカヌカの不安を煽った。

突然、爆音が鳴り響く。

見通しの良く成った室内に、大勢の天体団リーベン・ローエが出現した。

突撃第二部隊、といったところだろう。

みな、髪も、瞳も、服も、紅い。

初めて観る天体団リーベン・ローエの団体に、状況が状況なだけに、カムカヌカは恐怖を覚えた。





「行くぞ、」






ぐん、、






カムカヌカの身体が、つんのめる。

コハクがカムカヌカの腕を引き、宙を進んで、強制的に走らせた。

瓦礫に埋もれかけた扉の外に間一髪、滑り出ると、先に出て行った天体団リーベン・ローエがやったのだろうか、綺麗に整備された宮殿サイユエが見る影も無く、破壊されていた。

絵画や彫刻が砂屑すなくずと化し、蒼に光っていた壁や床は不規則に砕かれ、植物は燃やされ、すみに成っていた。


眉をしかめそれを見つめるしか出来ないカムカヌカの手を強く引き、コハクが迷う事無く廊下を導いた。

時折、遠くで爆音が聞こえ、地面が揺れた。

幾つもの部屋と渡り廊下を越えて、暗い通路をひたすら走る。

誰も、居ない。





「、、、何処へ、向かって、いるの、」





コハクが自分を良い方向へ導いているわけでは無いのではないか、と疑心を抱き始めたカムカヌカは、息を切らし乍ら叫んだ。





「港だ、ユイルアロウは舟を出す、乗らねば置いてかれるぞ、!」





なるほど、彼が自分を置いて此処をつ様が、ありありとカムカヌカのまぶたに映し出された。




「わたしも、意地でも乗る、」




コハクが納得の行かない声でそう呟いた。

ネインが怯えるだろうな、カムカヌカは走り過ぎの苦しさで、声を出せずに、頷いた。


二人は議会衛星港サテライタル・ラボ、という標識が床に大きく記された廊下を駆け抜けていた。

港へ続く道の最後の庭園を、ちょうど過ぎた其の時だった。







ド、ン!!!!!!!!









唐突に目前の建物の壁が砕け、飛び散る破片の中から、一人の天体団リーベン・ローエがコハクとカムカヌカの前に姿を現した。


巨体を紅い軍服でかためた大男は、紅い短髪で、いかついその顔面には金に光る仮面を装着していた。

口元までは覆われていない為、笑みを浮かべているのが、すぐに解った。

その仮面の下からヨルと同じ真紅の瞳で真っ直ぐに二人を睨みつけつつ、男はすら、と、腰の剣を抜いた。

それを見てコハクがカムカヌカを守る様に両腕を広げる。





「貴様、わたしを女王フレイヤと愚知しての抜刀か、低俗な真似をすれば、末代まで祟呪ワカしてやろうぞ、」





コハクの全身から何か神々しい白いもやが、湯気みたいに立ち昇った。

激しい威嚇だった。


だがそれをものともせず歯を剥き出して笑う男に、カムカヌカの背筋は凍えた。

男は舌なめずりすると、剣を振り上げ、無言でコハクに切りかかった。


コハクははねをはためかせ、空気に乗って、軽やかにそれをけた。

カムカヌカも、咄嗟にコハクと別れ、壁を背に引き退がる。

男の振り下ろした大剣は二人が居た場所へ深々と突き刺さり、それによって砕かれた床だったものが、それぞれの頬を打った。


息つく暇も与えず、コハクは宙空で逆さのまま、男の背後に手をかざし、魔法を放つ。

確実に当たる距離だった、。

が、巨体を感じさせぬ素早い動作で男はコハクの攻撃ヂルダをかわすと、床ごと剣をえぐり上げ、彼女を狙った。

同時に、男は胸元から短刀を引き抜くと、カムカヌカの中心へ直線で刺し込む-------------!!!







「カムカヌカ、!」







大剣を紙一重でけたコハクが、白髪を散らして叫んだ。

カムカヌカは迫り来るその切っ先を、ひるむ事無く、見据えていた。

体内のビリヂヤンが、まるで熱液マグマの如く熱くたぎる。

刺すなら、刺せばよい、、。






















ギイイン、!!!!











金属がぶつかる音と同時に、カムカヌカの鼻先に、蒼い長上着ロウブひるがえった。









「・・・お前には、このお方の中身フオルタが、解らないのか、?」








大男に発された、哀れむ様な声。


この、お方、、??


首をひねるカムカヌカの盾に、短刀を魔方陣ウイザ・ルタで受け止めたその男は、無駄の無い動きで天体団リーベン・ローエの大男を跳ね飛ばした。


何が起こったのか、全く理解出来なかった。

光弾プロズルも、蹴撃キレクも、確認していない。


カムカヌカもコハクも、呆然として、幾本か木をなぎ倒し乍ら庭園の果てまで吹き飛んで行った大男の痕跡を見つめていた。










「お怪我は、ありませんか、」








予想もしていなかった優しさ溢れるその声音に、カムカヌカは飛び上がった。

守護ヴァルカしてくれた彼は、他の誰でも無い、カムカヌカに向かって話し掛けていた。






「えっ、お、あ、はい、」






カムカヌカは壁に張り付いたまま、素頓狂すっとんきょうな声を上げた。

この蒼い長上着ロウブは、天球法議会ダ・ルマスク・ノルエ専属魔術師ベガ・ウイザドの証。

頭布フウドを脱いで、ひざまずき、深く礼をする彼の顔に、カムカヌカは全く見覚えが無かった。







「わたしは議会衛星サテライト専属魔術師ベガ・ウイザド壱番陣イチモ中佐ルオ蘇五明ソ・ウーメイと申す者、ご無事で何より、ご守護ヴァルカつかまつれ、光栄です、緑宝ビリジェイア、」








ひざまずいたままカムカヌカを見上げる彼は、強くうねる黒髪を闇に透かし、緑に澄んだ瞳で純粋に安堵の色を映していた。

必死に記憶を手繰たぐるが、彼に逢った事は、無い、。

いぶかしげに二人の様子を伺う、コハクの眼光が鋭い・・・












「おーい、カムカヌカー、!」









その時、聴き慣れた声が頭上から振って来た。

三人を巨大な影が包み込む。





見上げると、そこには、月の舟、。
















カムカヌカには初めて、このろくでも無いと吹聴され続けている天舟そらふねが、心底安心出来る助け舟に思えた瞬間だった。




















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ