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月の舟  作者: ジョゼ
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十七、天球法議会Ⅲ











一触即発寸前の張り詰めた空気を払拭したくて、だがしかしヨルは非協力的で、何故か直接関係の無い自身が何処かを痛ませているのは、腹痛を感じるカムカヌカだけではなかった。


先程から頭痛が止まない議長・望飛マオフェイがそのもう一人だ。

大柄の癖にか細い神経の彼は、定期的に合う月の舟の船長の冷ややかな片眼が恐ろしくて堪らなかった。





「では、次の方どうぞ、」





望飛マオフェイはこめかみをしきりに揉みながら搾り出す様にそう促した。

すると気味の悪い老人、アルレッキーノの右側に掛けていた痩身の女性が、衣擦れの音も無くすらりと起立した。

カムカヌカは未だかつて見た事の無いその女性の出で立ちに、目を見張った。

彼女は、そう、彫刻のようだった。

いや、忠再人形モネン・ケンに近い・・でも青魚にも見える、。


何処から見ても無駄の無いしなやかな身体は、衣類、と、見て取れる物は纏ってはいない。

その代わり、全身が何か光沢の有る銀色の布で覆われていて、生肌は一切露出されていない、実に不思議な格好をしていた。

それは勿論、顔面すらも覆われており、両目の部分は巨大な飾り物で隠されていた。

そういう肌の色なのかもしれない、でなければ、息が出来ない、カムカヌカはひとり浅く頷いた。







闘討伐和迎船団デルボルダ・デルボルド・デルダ・暗部第二皇女ビョーク・ゼ・デルダ、御機嫌よう、ユイルアロウ、」



「相も変わらず、舌を噛み千切りそうな船団名だね、ビョーク、」







不思議な声が響いた。

彼女から発せられた声には違いないのだが、頭の中に直接響く、反響する電子音ヴネソを思わせる声だった。


丁寧に首を傾げた彼女に対し、ヨルはやはり冷たく返した。

彼女は肩をすくめて微笑むそぶりを見せると、再び乾いた電子音ヴネソを響かせた。







「お元気そうで何よりですわ、ユイロ、

 我々が貴方へ干渉した時は本当に惨劇でしたもの、まるで神教伝ヂテオ・ロワ最大の恐怖、ドドの嵐夜を髣髴ほうふつとさせる一夜でしたわ、」






ヨルはわざとらしく懐かしそうな顔をした。






「ああ、その節は大変な世話になったねビョーク、、

 頼んでもいないのにしゃしゃり出てきた君達のお陰で、こんな銀髪に成れたんだっけ、」






ヨルは豊かにきらめく銀の前髪を引っ張り、勢い良く背凭せもたれに身を預けると、大袈裟に脚を組み乍ら皮肉たっぷりに笑ってみせた。


また、そんな、波風を、立てるような、、、

どういう事情や因縁があったとして、大人気ない対応は善くない、この場には幼いネインもいるし、そういうのは外に出てから・・、、


ヨルがもともと銀髪では無かった事実に素直に驚きたいのに、何故か油汗をかくカムカヌカと、こめかみを激しく揉みしだき始めた議長・望飛マオフェイの考えは、この時きっかり共通リンクしていた。







「あら、素敵ぢゃない、天体団リーベン・ローエらしさが、少しでも失われたのだから、喜ぶべきですわ、」



「・・・・本当にごくごく微かな気休めだけどね、、まあ、良いよ、」






時折見せる悲しそうな笑みを一瞬浮かべ、ヨルは溜め息をいた。

天体団リーベン・ローエらしさ、ネインもその言葉を聴いて、身を強張らせていた。


(ネインも天体団リーベン・ローエだったのだろう、か、?)


カムカヌカはネインの頬の傷口から、将軍パドルマギヤアランと同じ、紅い花弁はなびらが零れ舞っていたのを思い出していた。

何にせよ、この会議に同席している事で、少しずつだが二人の事が暴かれつつあるのは、期待出来る。


そんな事を考えていたカムカヌカを連れ戻したのは、ビョークの電子音ヴネソ声だった。







「ユイルアロウ、わたくしは、貴方が連れている其の子供について、お伺いしたいのです、」







ネインはびく、と反応した。

世勉ゼエベンの制服は着ているが、ベレエ帽を失ったネインは、出会った時とは異なって、完全に少女だった。

性別を隠していたのは事実だろう、でも、何故、?






「其の子は、貴方が連れていて良い子ではありませんわ、

 隣のビリヂヤンも決して良くはありませんが、、、、」





ビョークはちら、とカムカヌカを向いたが続ける。





「月の舟で在る以上、ビリヂヤンは致し方ないもの、今は目を瞑りましょう、

 しかし其の少女はお返しするべきですわ、

 其の子を連れているから、天体団リーベン・ローエは貴方を狙うのです、」





ネインが小さく震えている。

ヨルは腕組みしたまま応える。







「それもあるだろうね、だが、あの団体が僕を追うのは、もうほぼ私怨とか自己満足の域だろう、

 もしかして別の理由が、あるのかもしれないけど、」



「、別の、理由、?」



「例えば、僕が、ネイン以外にも、何か彼らの大切なものを、っているとか、」







会議室が急にざわつき始める。

カムカヌカの隣の厚化粧のオバサンの鼻息が、また一気に荒くなった。






「お静かに、!ユイルアロウは必要な事だけを、お応え下さい、。」





望飛マオフェイが頭痛のあまり目を閉じたまま叫んだ。

議員達のどよめきが僅かに小さくなる。

面白そうににやにやするヨルの向こうで、ネインが縮こまっていた。





「其の子を天体団リーベン・ローエへお返ししてくださいまし、!」





ビョークの声が狭い脳内にわんわんと響いた。





「だって、如何する、ネイン、?」




他人事の様にヨルはネインに尋ねた。

しかし、ネインを向いてはいない。ネインの答えが、解っている、のだ、。

ネインは両手を膝の上で握り締め、深く項垂うなだれたまま、動かない。





「其の子は、天体団リーベン・ローエの、、とても重要な、娘ですわ、!

 堕帝カエラである貴方が連れていて良い存在では、ないのです、

 さあ、其の子を、わたくしにお預け下さい、我が船団が責任を以って、天体団リーベン・ローエに、」








「嫌です、、、!!!!!!!!」


 






今まで黙って聴いていたネインが、大声で叫んだ。

と、勢い良く立ち上がると同時に、両の拳で机を殴りつけた。

激しく打ち付けられた拳の先から、この豪華な机に入った亀裂は、恐ろしい剣幕で喚きたてた青魚の様なビョークへ真っ直ぐに向かって行き、彼女の席を一瞬で粉々にした。


瞬間、壁から専属魔術師ベガ・ウイザド五名が現出し、二名がビョークを守る光盾バルアを展開、三名がネインを去勢するべく、光源魔法エネル・マゼクを喉元に構えたところへ、同時に何時の間にか起立したヨルも、ネインを庇うように魔術師ウイザドたちに血紋陣ブロ・ルタを構えていた。




カムカヌカも、他の議員も、皆、呆気に取られていた。





机の砕けた破片が床に落ちる音が終わると、睨み合ったまま微動だにしないヨルと専属魔術師ベガ・ウイザドが構えた、微かな魔法音マギアが空気を揺らしていた。











ドスン、











皆、一斉に音のした方へ視線をやった。






ついに神経性頭痛に耐えられなくなった議長・望飛マオフェイが、椅子ごと後ろへ倒れたのか、床の上へ伸びていた。

この蒼く照らされた会議室よりも、遥かに蒼い顔をしていた。


蒼の中の蒼だった。

















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