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月の舟  作者: ジョゼ
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十三、舟・蝶・議



ヨルは構えていた小型のピスタを下げ、大きく息を吐いた。

夜葬ユルバの蝶の女王フレイヤコハクもそれに次いで腕の緊張を解く。

数歩下がったヨルが寝巻ジヤモアを着ているのに気が付いたたカムカヌカは、所帯染みた彼の様相が可笑しく思え、小さく吹き出した。

それを見逃さず鋭い眼光でヨルが睨みをきかせる。




「誰かと思えば、なんだカムカヌカ、こんな所で蟲と御喋おしゃべりとは、趣味、悪いね、」




毒っぽくそう吐くヨルに、コハクが詰め寄った。



「お前が連行ヘアした哀れなビリヂヤンだろう、もっといたわってやるべきだ、

 相も変わらず壊鬼フッキだな、ユイルアロウ」


「だ~から、寄るなって、!蟲は寄り集まるから、嫌なんだ、」



ヨルはわざとらしく身をよじってコハクと距離をとった。

コハクは口を曲げ、片眉を吊り上げて怒りを抑制している。

金眼の瞳孔が横に大きく伸び縮みするのを見て、ヨルが面白そうに続けた。



「此れ程に陽光が差すのに、良くられるな、盟天塔ソレスト・ソレユは照らす者を選べない、

 全く、天球法議会ダ・ルマスク・ノルエも蟲を温存せしめんとは、実に滑稽で浅はかだ、

 ビリヂヤンいたわれだと、?笑わせる、むさぼる対称と診ているのは舟と蝶と同じ事、一体どちらが如何異なると言うんだ、

 議会に席が有るぶん、まあその何倍もだけれど、舟の方が価値有る存在ザインだと云えるね、」



馬鹿にしてやれやれと首を振るヨルにコハクは遂に我慢できなくなり、反論しようと口を開いた。

拳を握り締め、何か言いかけた彼女は、そのまま空気に溶ける様に薄くなり、消えていった。



「・・・不憫だな、」



眼帯の金細工を揺らして、ヨルが呟いた。






「、怪我、もう良いの、」



扉の外を伺うヨルに、カムカヌカは問いかけた。

心配していたのは真実だった。

理由はどうあれカムカヌカをあのつまらない世界から連れ出してくれたヨルとネインに、静かな感謝の念が燃えていた。



「ああ、」



ヨルは短く答え、カムカヌカを振り向いた。



「君も、もう平気だろう、ビリヂヤン命灯ユエそのもの、常に生み出される其れを、宇宙エヴレンは求め続けている、」


ヨルは真っ直ぐに、カムカヌカの蒼い瞳を見つめた。

そして意を決した様に、静かに告げた。




「精神の在るビリヂヤンは不死無敵、

 至高の緑宝ビリジェイアを手中にと、皆が其れを狙うだろう、」




「、、、如何したら良い、ヨル、」




カムカヌカは目の前のヨル自身も、ビリヂヤンである自分を求める者であることを知り乍ら、彼に頼る他、すべを持たなかった。

彼はカムカヌカに向けていた眼差しを伏せ、長い溜め息をついた。






「見~つけた!!!!!」





「、!?、う、わっ、、、!」




陽気な声を振り返る暇も無く、物憂げに床へ落としていたヨルの視線が揺れ、ヨルはそのまま地に叩きつけられた。

白い床に伸びきったヨルの上に、ネインより1,2タイル大きいだけの背丈の少年が乗っかって居た。

紺色の髪は柔らかそうに跳ね上がり、前髪は斜めに分けられていた。

無邪気にヨルを尻で押し付けるこの少年の長上着ロウブに、カムカヌカは見覚えが有った。

舟にやって来た、天球法議会ダ・ルマスク・ノルエ専属魔術師ベガ・ウイザド------




「重い、っ!」





腕を回す遠心力で背面を向いたヨルは、急に空間移動テレパルテリスした少年のせいで勢いを余らせる。

筋をひねったらしく、しばし声を殺して震えた後で、何事も無かったかの様にヨルはすらりと立ち上がった。

呆れ顔で傍観するカムカヌカの横で、何時の間にか再び現出したコハクが左右に首を振る。

ヨルは涼しい顔のまま、にっこり笑う少年の首根っこを掴むと、その額に血文字で陣を描いた。

どうやら今の衝撃で傷口がぱっくり開いたらしい。

魔方陣ウィザ・ルタが黒いいかづちをうねらせたと思うと、少年は部屋の窓から吹き飛んで行った。



「ふん、」



ヨルは得意げに手を払い乍らカムカヌカに歯を見せて笑った。

開いた口が塞がらないカムカヌカの前で、今度はヨルが、扉の向こうの中庭へ飛ばされて行った。

窓の向こうから光弾プロズルを放った少年が、軽やかに部屋に舞い戻る。





「幾ら此処が規制されてるとは云え、鈍ったね、ユイルアロウ、!」



「・・・・・・藍煌ランファン・・・、、、、、」






中庭から葉にまみれたヨルが姿を現し、何やら再び血で陣を描き出す。

怒りを湛えた紅い瞳はらんらんと光り、強い光源力エネルギアが集まったその瞬間だった。






「わたしの部屋で暴れるな、!!!」






苛立ちを押さえていたコハクが何か強い魔法を放った。

感情で放たれた其れは誰も居ない場所へ、威嚇として打たれたものだった。







ド、ン!







地から湧き上がったコハクの白炎トヴアの中で、誰かが燃えているのをカムカヌカは発見した。

他の三人も目を見開いている。


収まった炎の中で不機嫌そうな顔をしていたのは、ヨルを探していた小蓮シャオレンだった。

酷いとばっちりを受けた彼を見て、全員その場に静止した。











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