隠し物 隠す理由
目の前には死体があった。
頭から血を流して、目を見開いたまま床の上に倒れている。
人目に触れないうちに、この死体を速やかに隠さなければならない。
俺が殺害したわけではない。
けれど、俺はこの死体を、どうしても誰にも発見されない場所へ移動させる必要があった。
俺はこいつに恨みがあるわけではない。
だが、かといって安らかな成仏を願うほど善人でもない。
ようするに、この死体となった人間の事は、俺が好きでも嫌いでもないどうでも良い人物だった。
けれど俺は、そのどうでも良い人間の死体を、いいや死体をつくった犯人をかばうために、どこかへ隠す。
その犯人は俺の事をどうも思っていないだろう。
好きでも嫌いでもない、どころか俺の事を知りもしないに違いない。
それでも俺は犯人のために、いや彼女のためにこの死体を完璧に隠してみせる。
死体に大きな布をかぶせて包み込む。
作業着を着こんで、引っ越しの荷物でも運んでいるように装った。
そうして、犯行現場から遠ざかると、ちょうど犯人と入れ違いになったところだ。
俺は、誰かに見られているとも知らず、無防備に家へ入っていく彼女を見て、その場を去った。
「まさか俺と同じようなストーカーがもう一人いたとはな」