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ピスタチオと栗

作者: 杉将

 ロンドンには大きな公園がある。僕はそこを散歩するのが好きだ。カレーライスの屋台がある。ドラム缶の上に座っている猫がいる。芝生の匂いがする。

 僕はピスタチオを食べながら、公園を散歩していた。ピスタチオは殻がついているから、殻を取り、その取った殻を元の袋に戻し、殻のなくなったピスタチオを口に放り込み、取った殻の入った袋から、殻のついたピスタチオを取り、という動作を繰り返していた。袋の中は、殻のついたピスタチオと、殻だけになったピスタチオが混在していた。だから僕は、こいつはハズレじゃないか、なんて口にしながら歩いていた。僕がそんなことをしているのが気になったのか、女の子が僕に声を掛けてきた。

 「何をしているの?」

 「ピスタチオを食べながら、散歩さ」

 「ピスタチオは散歩に向いてないと思うわ」

 「ああ、まったくだ」

 「あそこに栗が売ってるから、一緒に食べない?」

 「剥いてあるかな?」

 「剥いてなくても、座って食べたらいいのよ」

 「君は、心に余裕のある人だね」

 「あなた、考えすぎよ」

 僕たちは栗を買うために、歩いていた道を少しそれた。店主は腕の太い男の人だった。

 「その袋はなんだい?」と店主が言った。フレンドリーな人だと思った。

 「ピスタチオが入ってるのよ」と女の子が言った。

 「へー俺にも一つくれないか?」

 僕はピスタチオを三粒取り出して、店主に渡してあげた。店主はそれをそのまま口に放り込んでしまった。

 「まぁ」と女の子。

 「殻は、殻は取らないとダメですよ」と僕。

 「ハッハッハッハ」店主は笑った。殻が口の端からこぼれた。

 女の子も笑っていた。笑いながら、栗を頂戴、と女の子は言った。僕は軽くお辞儀をして、栗のおじさんの前から離れた。

 ベンチに座って、女の子と二人で栗を食べた。栗は殻が剥いてあったので、バクバク食べることができた。栗を食べ終わると、僕たちはピスタチオを食べ始めた。栗を食べ終わった袋に、ピスタチオの殻を入れていった。

 「映画を観に行かない?」と女の子が言った。

 「いいよ」

 僕たちは、ピスタチオの殻が入った袋をジャラジャラ鳴らしながら、並んで歩いた。途中にあったダストボックスにその袋を捨ててしまうと、僕は翼が生えたんじゃないかと思うくらい、身軽になった。

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