魔獣(晩飯)討伐
〈浮遊〉
とりあえず手短に狩って食って寝たい。
でも空腹なのはもっと嫌だ。何か手頃なのはいないか
ん?あれは?なんだ?
近付いてみると、2人組の冒険者がいた。
男と女だ。どこかで見たような
戦闘中か?何と?
あーあいつか
Cランクの魔獣、ブラックベア
俺が昼間、フィーナを助ける為に、鎌を突き刺した奴だ。
それが暴れてるのか
助けるつもりはないが、ブラックベアの皮は防具になり、爪と牙は素材になり、そして
肉は絶品だと聞く。
焼いて食べれば脂がとろけ、柔らかい最高の食感だそうだ。最高級のレストランのメインで提供されるらしい。
想像するだけでお腹は鳴るし、ヨダレが止まらん!
「あいつに決めた。行くか!」
「もうだめだ!」
男冒険者が叫ぶ。
「だ、だれか、た、助けて!」
女性冒険者も叫ぶ。
魔獣の爪が2人を引き裂こうとした時、
魔獣の前に俺、登場。
ちょっとカッコつけすぎたか?
旨そうな食料を前に調子に乗ってる。
「だ、だれ…?」
女性冒険者が聞く。
「俺か?カイアスだ。ちょっとこいつ貰っていいか?」
「へっ?!あっ!どうぞ」
「ありがとう。じゃあ遠慮なく」
〈服従〉
「命ずる。ブラックベア動くな」
「グルルル!」
ブラックベアの動きが止まった。
こいつもなんで動けないのか不思議なようだ。
さて、こいつをほぼ無傷で捕らえないといけない。
食料も素材も綺麗に残せばそれだけ高く売れる。
どうやって無力化しようか考えていたら
「う、動かない?あのカイアスさん!俺も援護します!!スキル〈風操作〉 風刃!」
風の刃がブラックベア目掛けて飛んでいく。
「ちょ!待て待て!命ずる!風よ止まれ!」
風の刃は途中で、ただの緩やかな風になった。
「風刃が消された?!あなたは何者ですか?」
「あー少し待ってくれ。命ずる魔獣よ、眠れ」
ブラックベアはその場でうずくまり寝た。
「ね、寝ている?今なら簡単に倒せます。やりましょう!」
「だから待てって!これは俺の晩飯なんだから不用意に傷つけるな!で、アンタらは誰?ここで何してる?」
2人の冒険者は、ハッとして話す。
「失礼しました。俺はカーグ。ルーヴェルを拠点に冒険者をしています。ランクはDランクです。」
女性冒険者も続けて話す。
「私はリリィです。カーグと同じDランクの冒険者で、スキルは〈風力操作〉です。」
なるほど。カーグのスキルが風を操作するもので、リリィが風力を操作する。2人が協力すれば風の刃も強力なものになるだろう。
「俺たち、ここである女性冒険者と離れてしまって。探している最中にブラックベアと遭遇してしまい。」
離れた?
「なあ?その女性冒険者ってフィーナか?」
「はい!そうです。どこかで見ましたか?同じパーティーメンバーなんです!」
なんかフィーナが言っていた事と少し違うな?
「フィーナは最初1人で襲われていた所を助けた。そこから先は知らないが、見捨てられたと言っていたぞ?」
「え?はい。フィーナのスキルは役に立ちませんが、顔は良いので広告塔代わりで連れていました。綺麗な奴がいたらそれだけでパーティーも有名になりますし」
こいつらマジか?スキル至上主義はここまで浸透し、腐敗してるんだな
この帝国に対する憎しみはさらに強くなる。
「で、いざ居なくなると声をかけられなくなり、人気も落ちそうだから探しにきたって訳か……」
「はい!そうなんです。居場所を知りませんか?」
イラッとした。腹も減ってるし、眠いし
そんなことを当然のように言うコイツらにも。
「ふざけるなよ?お前ら! 命ずる。フィーナに関する記憶の全てを失え」
「何を怒って………。あれ?そういや何をしにきたんだっけ?あっでもカイアスさん助けてくれてありがとうございました!また街で会ったら恩返しさせていただきます。では、失礼します!」
カーグとリリィは帰っていった。
スキル至上主義。スキルが弱い者は奴隷と同格。
本当にこの国はどうしようもないな
「本当だねぇ。あんな若い男女ですら、スキルが弱い奴は囮で使うとか、そんな扱いが正しいと心から思ってるようだねぇ」
セーレが話した。
俺も続ける。
「そうだな。俺がこの国に復讐出来るとすればこの考えを根底から叩き潰すか、他国に占領させるよう誘導するかだな。スキルの強弱で人を判断しない国はあっただろうか…」
「そうさねぇ。この国の南西に位置するアロスディア連邦国はどうだい?確かあそこは人との繋がりを主としてスキルによって人を判断しないとかなんとかを国として掲げていだはずだが」
そんな国があるのか?じゃあその国に移動して、そこで有名になり、この帝国を滅ぼす為に戦争を仕掛けるなんてものも面白そうだ。
「やっぱりお前の考えは面白いなぁ!カイアス!お前の行く先は、戦いと憎しみと死が満載だ!これからも楽しくなりそうだ!」
何を楽しそうにしてるんだ?
まあいいや。間違ってる訳ではない。今日だけで4人殺した。
とりあえずこの寝ているブラックベアを仕留めて帰るか。
「命ずる。ブラックベアよ。そのまま目覚めず、呼吸を止めろ」
ブラックベアは数分で動かなくなり、呼吸も停止した。
〈重量変換〉
このスキルは本当に便利だな。こんな巨大な魔獣も片手で持てる。
さあ、帰って食うか!
この日、俺は人生で初めてちゃんとした肉を食い、初めて腹一杯になり、初めてフカフカのベッドで眠れた。