第1章-5【儀式まで】
儀式が始まるまでの間、別の部屋に通された。
そこで着替えや民に向けて発する言葉の練習などをして時間を潰していた。
ガンダルヴァ達は襲撃の際の作戦を練っていて、儀式までまだしばらく時間がかかりそうだ。
「まったく身が入らないな。」
馬車の中で王になる決意が出来たと思っていたが、あの襲撃以降そのことばかり考えてしまっている。
ガンダルヴァやミケファウロスが最大限警護してくれるということだが、相手が仮にメイサだとすれば彼女はあの2人と同じ七天傑だ。
そういえば他のメンバーは何をしているのだろうか。
俺はふとそんな疑問が頭をよぎった。
そういうことも考えられるくらいには心に余裕が出てきたということだろうか。
七天傑はその名の通り、計7人から構成される組織で統一戦争を勝利に導いた立て役者たちだ。
大英雄と呼ばれ、大剣を一振りすれば辺りには何も残らないと言われた戦士ガンダルヴァ
自然に愛されあらゆる魔法に精通した大賢者ミケファウロス
目にも止まらぬ速さで間合いを詰め、斬られたことすら気づかせないと言われる神速の剣豪ヌウスァ
障壁魔法と癒しの魔法に長け、多くの民をその身で守り抜いた絶対の盾アドラム
言葉通わぬ者たちと心通わせ、人類の天敵とされていた破壊の獣ガルグと共に戦場を駆け抜けた聖獣使いレフィリオ
亡者と踊る者と言われ、志半ばで倒れたものたちの無念と共に戦場を血で染めた冥府の使者バクラ
…そして襲撃の首謀者とされている暗殺者メイサ。
メイサ以外の七天傑が集まればこの襲撃に対処出来るかもしれない。
そんなことを考えていると小気味よいノック音が響く。
こっちの返答を待つ間もなく開いた扉からニッコリとした顔で入ってくる老人がいた。
さっきもこんなことがあったなと、少し笑いながらミケファウロスを招き入れる。
「どうですかなハミング殿?」
彼は心配そうにこちらを見ている。
本当にいつも気にかけてくれていることに感謝している。
俺はそんな彼に何気なく先程考えていた他の七天傑の所在について聞いてみた。
「ハミング殿もその考えに至りましたか。お主が別室に行ってからの会議でヌウスァ殿はエテッレ周辺の守りを、アドラム殿は民達が最も集まる広場の守りをすると決まりました。2人の到着が我々より遅かった為、すれ違いになってしまいましたがね。レフィ嬢ちゃんはレガルド中を転々としておるものですから、襲撃があった件を彼女に通信用レプスで伝えたところエテッレに向けて急ぐと申しておりました。」
ヌウスァとアドラムは既にここにいて、レフィリオも後から合流してくれるのか。
それなら襲撃の備えは万全と見て良さそうだ。
肩の力が抜けたのを感じ、今までずっと強ばっていたのだと気付かされる。
「ただし、七天傑が集まったとして油断は禁物ですじゃ。相手勢力の規模すらわからぬ状況ですからな。」
「そういえばバクラはどうした?」
ミケファウロスはバクラの所在について話さないのでこちらから聞いてみた。
「あやつですか。」
ミケファウロスは明らかに嫌そうな顔で応える。
「バクラは確かに実力はありますが、ワシとはそりが合わぬのでな。あやつへの対応はエクレード殿にお任せ致しました。」
そういえばそうだった。
ミケファウロスとバクラが一緒にいた所は見たことないが、ガンダルヴァがいつも2人の言い合いの仲裁に入っていると聞いたことがあった。
どうにもミケファウロスはバクラの性格や魔法が気に入らないみたいだ。
「まったく、あやつの魔法には品性というものがありませぬ。死者とはこの世の呪縛から解き放たれたもの。その者共をまた戦場に呼び戻すなどアルダ様への冒涜じゃ。そもそもあの見下しがちな性格はどうにかならんものかの。協調性は無いくせにプライドだけは高いからタチが悪いわい。それになんじゃ冥府の使者とは。誰が言ったわけでもなく自称しおって、ほんと痛いやつじゃアイツは。歳も老いぼれなくせして若作りしおってからに。」
つらつらと、彼への不平不満を垂れ流し始めた。
俺自身バクラとはあまり面識はないが、見かけたことはある。
青年のような見た目をしており、暗黒や漆黒といった単語を交えながら話しをする少し変わった人だ。
大袈裟なポーズをしながら話しをしていたのがとても印象深い。
聞かなきゃ良かったと思いながら話題を変えることにした。
「そういえば、ティアは今どうしてる?」
今まで襲撃のことしか考えられなかった為、ティアがどこに行ったのか見当もつかない。
「ご安心召されよ、ティアは今王宮内でテキパキと仕事をされておりますよ。次期王の妃となるお方ですからのぉ。安全なところにおりますわい。」
ほっほっほっと高笑いしている。
「あのなぁ…でもありがとう。」
ティアの笑顔を思い出しながら、自身を照らす日光を眺めた。
サンサンと照らす日光のせいか、心が暖かくなっていくような気がした。