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Hasta La Vista!  作者: ハイライトせんぱい
第1章 アルダ
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第1章-1 【運命の日】

「はぁ。。」


窓辺に腰かけ、自身を照らす日光を呆然と眺めながら深いため息をついた。


「今日、、なんだよな。全然実感が湧かないな。」


変わらず日光をぼけーっと眺めながら姿勢を崩すことなくじっと考えている。


「はぁ。。」


答えのない考え事をしているせいかため息が止まらない。


ブルーな気持ちの俺とは裏腹に子気味のいいノック音が部屋中に響く。


「失礼しますぞ、ハミング殿。」


こっちの返答を待つ間もなく開いた扉からニッコリとした顔で入ってくる老人がいた。


「ミケ爺か。。」


この老人は俺を見ると変わらぬ笑顔のまま歩み寄ってくる。


「どうしたハミングよ、今日の継承の儀で分からないことでもあるのかね?」


ミケ爺ことミケファウロスは、とても楽しそうに話しかけてくる。


「いや、それは大丈夫。ただ実感が湧かないなと思ってな。」


「ほう、実感ですか?」


「あぁ、俺が王位を継承するときが来たという実感がな。」


変わらず日光を呆然と眺めながら呟く。


「何も怖がることはありませぬ。ハミング殿の王位継承はアルダの民の総意でありまする。上に立つものとしての実力はこのワシが保証しましょう。ただマナーに関してはまだまだ勉強が必要ですがな。」


ミケファウロスは茶化すように言ってくる。


「失礼なジジイだよほんと。」


今までの強ばった表情を和らげると、日光を眺めるのを辞めミケファウロスへと向き直る。


「それで、なんの用だ?ミケ爺。」


まさか茶化しに来ただけではあるまいだろうと思いながらも表情を引き締める。


「いえいえ、特に用事もありませぬ。ただ心配して来ただけですよ。」


ミケファウロスはそう言うとほっほっほっと高笑いしながら部屋をあとにする。

その笑いに釣られ、引き締めた表情を緩め後に続いて部屋を出た。


部屋を出て外へと続く廊下を歩いていると使用人達が忙しそうに走り回っている。


明かりに使われているレプスのおかげで使用人たちの汗や、忙しそうな顔がハッキリと見て取れる。


レプスとは魔力を内包できる鉱石のことだ。


アルダの民は全員魔法が使えるが魔力量には個人差がある。

その為少ない魔力を込めれば明かりや、調理に使う火などの安定した魔法が継続して使えるようになるレプスは我々の生活にとってなくてはならない物だ。


「皆、それほどまでにハミング殿の継承を心待ちにしているのじゃ。この者達の安寧のためにそなたは王となるのじゃ。決して生半可な気持ちで望むでないぞ。」


ミケファウロスは後ろを振り返らず厳しい口調で話す。


長い廊下を抜け広場に出ると、王宮へと走る装飾華美な馬車が停めてあった。


「王様ー!こっちですー!」


外に出るなり馬から飛び降りて駆け寄ってくる少女がいた。


「ティア、まだ王になってないのだからその呼び方はよせよ。」


長い金髪を結ったティアは俺に近づき腕に抱きつくようにして飛びついてくる。


「これから王様になるんですから予行演習ですよ!別にいいじゃないですか!」


太陽のように明るい笑顔を向けられて顔が赤くなってくるのを実感しつつ、なんとか返答しようとするも言葉が口の中でくぐもってしまう。


「ほっほっほっ2人はまこと仲がよろしいのぉ。どうじゃ王よ、ティアを妃として迎え入れるというのは」


「ハミングほんと!?わーーい!」


「まだ何も言ってないのに勝手に盛り上がるな!」


ティアは幼い頃より俺専属の使用人として共に育てられてきた。辛い時楽しい時それらを分かちあってきた。親兄弟のいない俺にとって1番心を許せる存在だ。


恋人というよりは出来の悪い妹を持った気分である。


「ったく、調子狂うよほんと。」


でも悪い気はしないなと思いながら他愛のない話をしつつ馬車へと乗り込んだ。


王宮へと走る馬車の中で王になった後のことを考えていた。


色々と考えてみて、改めて王になるということの責任がどれだけのものなのかというのを今一度頭の中で整理し始めた。


アルダの国となる以前は様々な国がひしめき合っていた。


絶対にして唯一の神アルダを巡るイザコザ。食糧難の問題、経済的問題など様々な要因が重なり、浮遊大陸レガルドの至る所で絶えず争いが行われていた。


その中で国家間の垣根を無くし絶対的な平和を手に入れようと、当時あった小国の最高権力者であったエーデルヴァルトは各国と同盟を組みその中から精鋭を選出した。


計7人で結成された七天傑と同盟諸国の軍隊をもって統一の為の侵略を開始した。


激戦に激戦を重ね、多数の犠牲を払いながらも勝利を掴み、長い年月を経て統一国家アルダとなった。


そしてアルダの初代王となったのが父であるエーデルヴァルトであった。


そして今日、父達が作り上げた大国の王となるべく馬車に揺られているわけだ。


「はぁ。」


考えれば考えるほどその重責に押し潰されそうになる。


「また、悩み事ですかな?」


対面に座るミケファウロスが心配そうにこちらを見てくる。


七天傑の1人であった大賢者ミケファウロス、父からの絶対的な信頼を得ており建国時には様々な政策を立案した識者だ。


「俺が王になった後ミケ爺、いやミケファウロスよ共に国を良くして行ってはくれないか?」


突然の質問に目を丸くしたミケファウロスだったがすぐに研ぎ澄まされた声音で


「ハミング王、王命とあらばこのミケファウロスいつでもあなた様のお傍に。」


あまりにも雰囲気がいつもと違うので質問したこちらが驚いてしまう。


「おおお、ありがとう。でもミケ爺が真剣な顔で応えてくれたものだからびっくりしたよ。」


「ほっほっほっ、ならばいつも通りがよろしいですかな?」


ミケファウロスは意地悪な笑顔で応えた。


「エーデルヴァルトよ、約束を守る時がきたわい。」


流れる景色を見ながら聞こえるか聞こえないかの声でボソリと寂しげに呟いたような気がした。


「王になった後はなにをするべきだろうか。」


対面で景色を眺めているミケファウロスに向かって問いかけた。


「そうですなぁ、現王のシュークリッド様のお話しを伺わずしては決められますまい。なにせワシも王宮を離れて久しいもので、どういったお考えで政策を進められているのか分からぬところもあります。ともかく、今は継承の儀を無事に終わらせることを考えましょう。」


「確かにシュークリッド様のお話しを伺わなくては考えの方向性も纏まらないか。」


「その通りでありますよ。民はみな王族を敬愛しておられる。今からそんなに緊張なさられずに。」


どうしたものかと考えていると、ミケファウロスは小さく笑いだした。


「いや、申し訳ない。あの小さかったあなたが王の風格を醸し出していらっしゃるものでしたから。エーデルヴァルト様に見せて差しあげたかった光景じゃと思ってな。」

と目の端に涙を溜めて言うものだからもらい泣きしそうになってしまう。


「ありがとうミケ爺。王を継ぐものとして恥ずかしくないようにしないといけないなと思ってな。」


もらい泣きしそうになってるのを悟られないようにわざと目を逸らした。


俺には父との記憶がほとんどない。

と、言うのも建国して間もない頃反乱が起こり、首謀者であった七天傑の1人メイサとの死闘の末に命を落としてしまったからだ。


その戦いは凄まじかったらしく年齢で不利に見えた王であったが着実にメイサを追い詰めていったという。

しかしながら相手の策略に落ちてしまい凶刃に倒れてしまった。


子供の頃は勝手にいなくなった父のことを許せなかった。

けれども国のため、民のために戦った父は俺にとっての揺るぎない英雄だ。

そんな父を今では誇らしく思っている。

願わくば俺自身も父のような名誉ある最期を迎えたいとすら思っているぐらいだ。


その後メイサは、亡き王の弟であるシュークリッド率いる軍に追い詰められ世界の果てと呼ばれる雲海からその身を放り投げたと聞いている。


王が倒れた際に起こった暴動を鎮圧したり、国の行く末を指揮したりと亡き父に代わって王としての責務を果たしてくださっている。


「して、ハミング殿よ」


ミケファウロスが突然小声で話しかけてくる。


重要な話の予感がして身構えていると


「先程の話、お主はどう思う?」


先程?一体どの話だ?なにか重要な点を見落としているのか?

思考をめぐらす。王となるのであれば些細な話でも覚えておく必要があるかもしれない。

小さな話でも放っておけばゆくゆくは争いの火種に。。

と何の話なのかと思い出そうとしていると


「ティアを妃にとの話じゃ。」


俺はズッコケそうになった。


「はぁ。。」


肩の力が抜けてしまいため息が漏れる。


確かにティアは俺に対していつも気を使ってくれている。

使用人という立場ではあるが父亡き後も寄り添ってくれたのは彼女だ。

おかげで腐らずにいられた。

歳が同じということもあってかティアには心を開いて話が出来る。

もはや家族のような存在だ。

それを妃?お嫁さん?バカな有り得ない。

俺がティアに対して恋心?ふざけている。。


「そんな訳ないだろ。」


ため息混じりに吐き出す。


あいつは家族であって妹のような存在だ。

それをお嫁さんだなんてバカバカしいにも程がある。


そう思いながらも、馬の背に乗る綺麗な金髪をなびかせた少女を見やる。


あどけない顔立ちだが、時おり見せる凛々しい表情に視線を持ってかれてしまう時はある。

だがあれはカッコイイなあと思ってるだけで決して恋心などでは…


「ハミング殿も分かりやすいのぉ、ほれ耳が真っ赤じゃわい。」


ほっほっほっと笑うこの老人を今すぐ馬車から蹴り落としたいと強く思った。


「ハミング様ー」


外からの声に思わずドキッとしてしまう。

にやけづらの老人がこっちを見ているが気にせず返答をする。


「どうしたティア。王宮まではまだつかないはずだが?何かトラブルか?」


「トラブルという訳でもないのですがあれはなんでしょう?」


馬車を停めさせ外を見る。

今走っている場所は王宮へと続く広い草原で障害物がなく見晴らしがとてもいい場所だ。


そんな所に、ある違和感が置いてある。


「壊れた馬車?」


道の脇にポツンと置いてある違和感。

いつもであればひとの往来が激しい場所なので壊れた馬車の一つや二つあってもおかしくないのだが。


「ミケ爺。」


頷いたミケファウロスが警護の者に様子を見に行かせる。


今日は王位継承の日。


自分で言うのも変だが、幾度とない特別な日だ。

時期国王が通る場所に無造作に壊れた馬車が放置されるだろうか?

今までの道は舗装され草も駆られる程であったのに?

事故?でも人影がない。ではなんだ?


違和感がどんどん大きくなっていく。

心を侵食してくる。違和感がどんどん大きくなりそれが不安へと変わった瞬間。


強烈な音と共に壊れた馬車から巨大な火柱があがった。

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