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お兄様からジョナの事を聞いて、変なテンションのまま部屋に戻りローズに手紙を書いてしまった。
なんか恥ずかし事を書いたような気がするのだが、その手紙は夕食を誘いに来たアッシュに渡し手元にはなかった。
お兄様とディオと一緒に食堂で夕食が運ばれてくるのを待っていた。
アッシュとローズが2人で食堂の扉を開け入ってくる。綺麗な絵になる2人に胸の奥がチクリと痛みを不思議に思った。
急に目の前に銀髪のフワフワした髪が映り込み柔らかい衝撃が私を包む。
今、私はアッシュと共に来たローズに抱きしめられている。
「リアーナ。ごめんなさい」
ローズの甘い香りを感じて、少し頬が熱を持っている。とても心が温かい。
「ジョナが貴女を襲ったなんて。私は謝っても許されないわ。それに貴女のおかげで力を制御出来るようになったの。私に手紙を書いてくれるだなんて。貴女のとても優しい手紙に感銘を受けたわ」
天使みたいな優しい表情で私に笑いかける。私に話しかけていたようだが、ローズの顔が見えてなかったので何を言っていたかわからないけど、ローズの嬉しそうな顔で手紙を気に入ってもらえたのだと思う。
「リアーナ本当にありがとう」
私の顔を見て笑うローズはとても綺麗だった。
さすがヒロインだわ。ジョナがいたら確実に歓喜の声をあげていだろう。
「ダイナ様が、自分の従者がお嬢様に危害を加えた事を謝りに来て下さいました」
「力の制御を出来た事と手紙のお礼も」
ディオとアッシュが私に説明してくる。
(私は大丈夫。ジョナには犯した罪は償ってもらわないといけないけど、私はそれ以上の事は望んでないわ。ジョナとも仲良くなれるわ。それに、ローズが嬉しいと私も嬉しいわ)
私の書いた紙を見たローズは嬉し涙を浮かべていた。
「私も嬉しい」
2人で笑い合う。
いつの間にかグライアド先生、ロゼット様もいて夕食をする事になった。
ローズはあれから、完全に力を制御でき迷惑かける事はなくなったと嬉しそうに話してくれた。
話は盛り上がっていて、時々話の内容に付いていけず笑顔を貼り付ける。
ローズがみんなと話している姿を見て気付いた。
現実を突きつけられたみたいな衝撃。
中心にローズが居てゲームのスチルを思い出す。
(みんな柔らかい顔をしている)
彼女は陽だ。あんなにも笑顔がキラキラしている。なんて陽の光が眩しいんだろう。みんなを笑顔にして幸せに出来るヒロインなんだ。聖なる光の能力を持って別世界の人。
それに比べ私は陰だ。私だけが取り残されたような静寂を感じる。私だけが闇のスポットライトが当たっているような境界線。
私にはみんなを幸せになんて出来ないのに。こんな事を考えてしまう私は、なんて醜いのだろう。
私の中に悪役令嬢は存在していたようだ。
いろんな、どす黒い感情が顔を出す。
(このままみんながローズと仲良くなったら私はどうなるの)
考えるだけで苦しくなる。そう思う事が気持ち悪い。
手から汗が噴き出す。手の震えが止まらない。胸が痛い。
(このままじゃ……)
今はローズやみんなに心配かけたくない。
ローズと仲良くなれたのに。こんな感情は要らないのに。
私は両手に力を込めてゆっくり席を立つ。無理だろけど誰にも気付かれたくない。この華やかな雰囲気の場に水を刺せない。
だから1人で居させて欲しい。隣の席のディオに腕を掴ままれる。
「どこに行かれるのですか」
(恥ずかし事聞かないで)
私はディオに笑えていただろうか。不自然ではなかっただろうか。ディオは腕から手を離す。後ろをついて来ないということは大丈夫。
食堂の扉を開き出る。無意識に早足になる。
(もう少し。部屋まで……)
エレベーターに乗り、我慢出来ず涙が溢れる。
もう少しで閉まる寸前で誰かの手が遮る。
「リアーナ!」
扉が再び開き、泣いている私の瞳と金色の瞳の視線が合う。
アッシュ、お願い。醜い感情を持ってしまった私を見ないで欲しい。このまま何も見なかった事にして食堂に戻って欲しかった。私の願いとは裏腹にアッシは私を抱きしめる。
「なんで泣いてんだよ」
突っぱねても動かない。涙は止まってはくれなくて。
お願いだから、今の私に優しくしないで欲しい。
最上階に着き扉が開く。私は引っ張られるようにお兄様の部屋ではなく奥の部屋へと連れてかれる。
中に入るとアッシュの部屋らしく見慣れた物がいくつかあった。
アッシュは私の瞳を射抜くような視線で見る。いつの間にか涙が止まっていた私の瞳は逸らす事ができない。
「何年お前と一緒にいると思ってるんだ。10年だよ。俺がリアーナの苦しい時がわからないと思うか」
私が気付かなかっただけで、アッシュはいつも見守って居てくれていたんだ。
いつも側にいてくれた。
「何かあったのか?」
(何でもないの)
私がこれ以上聞いて欲しくないと目線を視線を外す。また涙が溢れ顔を見られたくない。視線を外した私の顔を心配そうな金色の瞳が覗き込む。
「……わかった。何も聞かない。でも、泣きたい時は1人で泣くなよ。俺はお前を1人で泣かせたくない」
顔を上にあげられ、アッシュの指が涙を拭う。アッシュの手が肩に置かれる。
愛しそうな表情のアッシュがゆっくり大切そうに言葉を紡ぐ。
「昔からお前が1番大事なんだ。……リアーナの事が好きだ。愛してる」
違う。違う。嬉しいけど、その言葉は私に向けてはいけない。
アッシュには私より相応しい人がいるかもしれない。食堂のアッシュとローズの姿を思い出す。
離れていくかもと思えば寂しく思い、私を想ってくれると分かると、私には相応しくないと思ってしまう。
なんて我がままなんだろう。自分に嫌気がする。
アッシュから距離を置こうとしても肩を掴まれていて動けない。
首を大きく横に振ればアッシュの傷ついたような眼差しが私を見ている。
「俺がリアーナを好きな事は忘れないでくれ」
アッシュは部屋を出て、お兄様の部屋の前で私の手を名残り惜しそうに離す。
「リアーナ。諦めないから」
私の左の頬に手を添え、右の頬にキスをする。
「ファディスにはもう休んだって言っとくから俺の事ゆっくり考えて」
アッシュは満面の笑みで去っていった。
私は初めての事に心臓がの鼓動が鳴り響く。
部屋に戻って、アッシュがキスした頬を触り赤面する。
どうしてこうなったのか、その日寝れず1日ずっとアッシュの事を考えていた。
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