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楽しんで頂けると嬉しいです。
暗闇の中、1つの光が見え眩しいと感じる。
目が覚めて自分の部屋だと認識した。
(……生きてる)
それが私の素直な一言だった。
あのまま闇に飲み込まれるかと思った。
部屋の中は薄暗く、両手に誰かの手の温もりを感じる。
まだ、起き上がれなさそうなので首だけを動かし周りを見る。
右にディオ、左にアッシュがいて2人とも私の手を握って眠っていた。暖かくて安心した。
(このままじゃダメね)
彼らは私が縛っていい人ではない。
そっと2人の手から抜け出し起き上がる。
ベランダに出る。月の光で庭園が明るい。
(レオ様)
何度レオ様の名を呼んでも現れてくれない。
いつもなら、すぐ来てくれるのに。
(お願いします。レオ様)
暖かい風が私を包む。
今は諦めるしかないかもしれない。
次に私が出来ることを考える。
主人公に会うことで何かが変わるかもしれない。
妖精たちは必ず主人公のことを気に入るわ。
清い心に惹かれたってゲーム内で言ってたもの。
考えをまとめていると、ベランダの扉が開いた感じがして振り向く。
「リアーナ」
アッシュの手が優しく肩に触れる。
「身体は大丈夫か。急に倒れたから心配した。お前は丸一日眠ってた。……目が覚めてよかった」
笑顔を向けられ抱きしめられる。
心配なんかされる立場じゃないのに、この手を離せなくなる前に私は……。
アッシュを押して距離を取る。
(大丈夫)
アッシュに見えるように口を動かして笑う。上手に笑えていたかどうかわからないけど。
アッシュを背にして部屋に戻るとディオも起きていた。
「お嬢様。温かい飲み物お持ちします。ついでにアッシュ様も連れて行きますのでゆっくりして下さい」
何も聞かず、部屋に戻っていたアッシュを連れ部屋から出て行く。部屋から出て行く時に見せたディオの悲しそうな表情を見ないことにして椅子に座り外を見る。
ふと、扉を見ると不安な表情のターラが入ってきた。
「お嬢様が倒れてから魔法で調べましたが悪いところはございませんでした。痛いところや違和感などありませんか」
(ないわ)
私の口の動きを見て安堵の笑顔を見せる。
私も心配させないように笑う。
「良かった。……公爵様は駆けつけられませんでしたがとても心配なさってましたよ」
ターラは笑ってまた明日と言って部屋から出て行くと、すぐディオが入ってきた。ディオはホットミルクを持って来てくれた。
温かいホットミルクを一口飲む。温かくて少し甘い味は心を落ち着かせてくれる。
冷静になった私は深呼吸をしてディオに紙を見せる。
(学園ですごい能力を持っている方を知ってる?)
「同じクラスです」
(その子の名前は?)
「ローズ・ダイナ様です。ダイナ伯爵家の1人娘です。……お嬢様、そろそろお眠りください。倒れたばかりなのですから」
ディオに言われると身体が重く感じる。私は頷き立ち上がる。
それを見たディオは飲み終えたカップを持って扉へ向かう。振り返り私を安心させるように笑う。
「おやすみなさい」
(えぇ、おやすみなさい)
ディオは部屋を出て行く。誰もいない部屋は寂しくて考えてしまう。
ローズ・ダイナ。ゲームと同じ名前だわ。彼女はどんな人生を歩んできたの?
私は優しい人たちに囲まれて甘やかされて幸せに過ごしてきた。
貴女は幸せだった?
私が奪っていた人たちが側にいなくても貴女は幸せだったの?
(やっぱり、私は……)
いつの間にか眠りについてしまった。
何かの気配を感じて目を開けた。短い金髪で私と同じ色の瞳の人がいる。
「リアーナ。倒れたって。大丈夫か」
目の前には執事のクロースや侍女のナナに止められながらも私の部屋に入って来た、お兄様の必死になっている顔があった。
「あぁ、可愛いリアーナ」
目を開けた私を見て、力一杯に抱きしめられる。少し痛くてお兄様の背中を叩く。
苦しい私に気づいて直ぐ離してくれた。
「ごめんね。でも、リアーナが心配で僕は生きた心地がしなかった」
私は自分事のように心配してくれるお兄様に大丈夫って伝えたくて瞳を見て笑う。
クロースやナナは申し訳なさそうにこっちを見ている。
(私は大丈夫ですよ。お兄様、学園は大丈夫なんですか)
ベットの隣にある小さなテーブルに置いてある紙に書いてお兄様に見せる。
「そんなのリアーナに比べたらどうでもいいよ」
何事かと騒がしかった私の部屋にあくびをしながらアッシュが来た。部屋にいるお兄様を見て驚愕している。
その後ろには呆れた顔をしたディオも来ていた。
「リアーナに何かあった……わぁ、ファディス来たの」
「ファディス様」
お兄様は2人を見た途端不機嫌になる。
「なんだお前らもいたのか。可愛いリアーナに指一本触れてないだろうな。特にアッシュ。お前は信用ならん」
「いやいや、なんでそうなんの?あんなにファディスを助けてやってんのに俺にそんなこと言っていいの?」
「アッシュ様、落ち着いて下さい」
お兄様がアッシュに怒ったらアッシュも怒ってるって感じかしら。2人の言い合いが早くて内容は理解できない。
ディオはアッシュをなだめている。口をつぐんだお兄様は睨み付けている。
「まあまあ、お二人とも。お嬢様の前で言い争いはやめて下さい。それにまだ早い時間です。まだ、お嬢様はお休みの時間です」
クロースが3人を部屋から出し、ナナが優しくおやすみくださいと笑い出て行く。
眠ろうと目をつぶるけど眠れない。
眠らないと考えれば考えるほど眠れず目が冴えてしまった。
私は支度をしてお兄様の部屋に行く。
扉を軽く叩くとゆっくり扉が開く。
「リアーナさっきはごめん。どうしたの?」
(お会いしたかった。私の為にごめんなさい)
お兄様は、紙を見て私を部屋に招き入れ椅子に座るように促す。
「リアーナ、僕は大丈夫だよ。……何か心配事?」
お兄様は何かを察していた。
(お願いがあります)
急にローズに会わせてって言っても会わせてくれるだろうか。理由を聞かれても『前世の記憶があってここはゲームの世界です』なんて説明できるわけない。
(学園に通いたいです)
これも無理な話だろう。お兄様は難しい顔をしている。
「リアーナはどうして通いたい」
(友達が欲しいから)
「僕やディオ。アッシュにナナじゃダメなのか」
(ずっとお側には居てくれないでしょう。ナナが居てもお屋敷で1人で過ごす時間は長いです)
お兄様が黙ったまま喋らない。
「僕の目が届くところにいてくれた方が安心できるかな。フォローすれば大丈夫か」
お兄様が顎に手をやり何か喋っている。お兄様の表情が真剣になり私の顔を見てフッと笑う。
「わかった。父様に相談しよう」
お兄様はクロースを呼び、お父様に向けた手紙を渡す。早ければお昼に返信が来ると言っていた。
お兄様は時間があるからと部屋に戻される。
どんな返事が来るか緊張しながら部屋で朝食を食べていると、いつの間にかお兄様にアッシュにディオも私の部屋で朝食を持ってきて食べている。
狭くなって立食みたいになって笑ってしまった。
「リアーナと一緒に過ごせると思うと幸せだなぁ」
「そうですね。何があっても近くにいると直ぐ駆けつけらますね」
お兄様から話を聞いたらしくアッシュとディオは雰囲気が柔らかく笑っていた。
(私はどうなるかな)
ローズに会った時私はどうなるんだろうか。そればかり考えてしまった。
お昼前にクロースが手紙を持って入ってきた。
お父様か直ぐ返信してくれた事がわかった。
手紙には学園に通う事を許可する事と無理をしない事。そして、私が倒れたのに駆けつけられなかった謝罪と愛してると書いてあった。
お父様の手紙を見て泣きそうになった。お父様の気持ちが伝わってきて温かった。
「良かった。名残惜しいが僕はリアーナを受け入れるよう学園に帰って手続きしてくる。アッシュもついて来い。」
「えっ。リアーナのためなら仕方ないか。これから学園で会えるんだし」
すぐに2人は学園に戻ってしまった。
私が学園に通うにあたって色々と大変な事になるのは、正直心苦しいけどローズに会わなければ。その思いだけが今の私を動かしている。
「お嬢様」
私の異変に気付いているであろうディオは、不安な瞳をしていても私に何も聞かないでいてくれる。本当にありがたかった。
数日後、学園からお兄様の手紙が届いた。
お兄様はものすごい速さで手続きしてくれたようで、アッシュの悲痛な手紙も届いた。私が学園に通えるのは休暇が終わり学園が始まってからに決まった。
でも、魔法適性検査や学力検査などがあり、ディオと同じに学園に行く事になった。1人では心細かったのでディオが一緒で良かった。
あと1週間余り。私はディオに手伝ってもらい学園へ入学へ向けての準備をした。
読んで頂きありがとうございます!