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第二部 1 ロゼットside

 

 生徒会の複数の生徒に、騒ぎを起こしたクレアを拘束し地下牢に入れる事を指示をする。


 私の指示に従い、去る生徒を見ながらため息を吐く。


(……吸収の能力か……)


 空を見上げる。

 ひと呼吸してから、学園から聞こえる騒音を背に寮へと歩き出す。


 さっきから妖精たちもざわついているが、私の変化に気づいたのか妖精が近づいてくる。


(ロゼット様、大丈夫ですか?)


「大丈夫だから、ありがとう。今は、ラーシャ様の所に行っておいで」


(申し訳ありません)


 私を心配する妖精たちに、離れる事を指示をする。

 不安そうな表情の妖精たちを笑顔で見る。


 これから、精霊界も大変な事になるかもしれない。

 何があったか、わからない。でも、妖精たちの動揺の仕方は初めてだ。


 私の心配をするよりも自分たちの心配をして欲しい。


 ラーシャ様は私に精霊の加護を与えた大精霊様の1人だ。

 何かあれば姿を現すはずなのに、現れないという事は重大な何かがあったのだ。


 妖精たちは頷き、私の周りを回りながら消えていく。


 私は1人、寮の部屋へと戻る。

 部屋に着くと静寂に包まれた中で、代々家に伝わる魔法を使いあの男と通信を繋げる。

 通信から聞こえる、雑音混じりの嫌いな冷たい声。


 ――吸収の能力を持つ者が現れたそうだな。


 ――ノーズワット公爵の娘か。


 ――この国をノーズワットに牛耳られるのは困る。


 ――娘をお前の手中に収めて見せろ。


 ――そうすればお前の望みを叶えてやっても良い。


 ――あの力をこの国の為に使えるんだからな。



 心ない言葉を吐き続ける男の姿を思い出す。


 鋭い目つきを眼鏡で誤魔化し、長い白髪を一つに纏め、笑顔の仮面をつける。

 父と兄から信頼され、裏の顔を私に見られようとも気にせず脅して来た、忌々しい男。


 父、国王の側近でもあり昔からの親友でもあるバルティ宰相。


 一方的に、自分の話したい事だけを言葉にしている。人の気持ちなど、考えた事がないような傲慢な態度に苛立ちを覚えた。


(先程の技術大会の事さえなければ、彼女は平穏に暮らせていけたかもしれない)


 キラキラと光の雨が降り注ぎ、不思議と暖かくなる。


(彼女が吸収の能力を持つ者だったなんて)


 自分が生きている間には現れないと思っていた。本当に信じられない。


 忌まわしい闇の力を自分の力にして、聖なる光と闇の力を放ち輝く姿は、まるで聖女のような輝きだった。

 それに、あんな圧倒的な力を見たのは初めてだ。


 生徒達や先生方が混乱してる。そんな中、ファディスやディオやグライアド先生が、彼女を守る為に技術大会で見た光は、ローズの聖なる光の力だと偽装するようで慌ただしく動いていた。


 その光景を見ていると、『連絡を待っております』と一般の生徒に紛れた私を監視している男に言われ仕方なく通信をした。


(監視している事実も腹立しい)


 これまでの事を、思い出しているといつの間にか通信が切れていた。


(……自分勝手な人だ)


 ため息を吐き、また静寂に掴まれた部屋の椅子に腰をおろす。早くクレアに話を聞きに行かないといけないのに腰が重く動けない。


(そろそろこの茶番も飽きてきたな)


 バルティを全て信じている父と兄は、私にとって人質に近い存在だ。

 全てを握られていると言っても良い。


 この国を私が守らなくてはいけない。


 バルティさえいなければ父と兄の命が脅かされなかった。優しい2人は自分たちが騙されいる事に今も尚気付いてはいない。

 信頼できるバルティと一緒に城にいるのだから。


(何が、望みを叶えてやっていいだ)


 私の望みなんて一つだけ。一生あの声を聞きたく無い。関わりたくなんて無い。バルティの死だというのに、叶えてくれるのか。

 自らの死を望んでくれるのか。


 空想を思い描いて、現実に戻る。


 あり得ない。バルティが望んでいるのはこの国を乗っ取ることなんだから。

 振りだけでも出来れば、隙をつけるだろうか。


(今の私は、あの時の力の無い私ではない)


 だが、彼女にはアッシュがいるというのにどうすれば良いいのか。


 あの瞳がまたバルティの所為で、恐怖を見てしまうのか。


 あの後悔した日を忘れた事はない。


 学園で彼女を見た時に思った。

 彼女の声と音を奪ったのは私かもしれない。


 あの時から、会わないようにしていたのに偶然会ってしまった。


(嫌、違うか)


 助けた後、声をかけすぐにジョナを連れて行けば良かったのに、私は声をかけてしまった。

 

 その美しさに目を奪われてしまったから。


 それと同時に、笑顔に満ちた幼い少女の面影がチラついていた。

 あの日から、ずっと頭の中から忘れられなかった。






 全てはバルティの計画だった。


 リアーナの母親は精神的な病を患っていた。バルティは、ノーズワット家を破滅に追い込む為にその母親を利用した。


 あらゆる手段を使い、母親にノーズワット公爵のありもしない噂を吹き込んだ。

 徐々に精神的に壊れていく母親とリアーナを連れ出し、2人を暗殺しノーズワット公爵を精神的に追い詰める計画をしていた。


 私は城の中で、その話を幼いながらに聞いてしまった。

 リアーナとは会った事はなかったが、兄のファディスとは何度か会い遊んだりしていた。

 気が合い、初めての友人が出来たと喜んでいた。

 ファディスは、可愛い妹がいると幾度となく自慢していて、いつか会いたいと思っていた。

 そんな矢先、バルティの話を聞いてしまったのだ。


 やっと出来た友人の、ファディスが悲しんでしまうと思って、バルティが話していた場所に行った。


 護衛もつけず、精霊の加護と妖精が居るからと1人でその場所に隠れていた。


 その場でしばらく待つと、笑顔に包まれていた少女が母親と手を繋ぎ細い道へと進んで行く。


 天使みたいな少女がファディスの妹だと確信した。


 私はその後を気付かれないように付いていく。

 人も居なく、どんどんと薄暗くなる。

 遠くで見た母親の横顔は顔は虚で、笑顔の少女とは反対の表情をしていた。


 しばらくして、2人はとある家の前で止まり中に入る。

 凄い音がして思わず扉を開けようとするが鍵が掛かっているのか開かない。


 私は急いで窓から中を覗く。

 倒れている少女と覆い被さる母親と、見た事ない男が刃物を持って襲い掛かる。


 悲鳴を上げる少女と、少女の無事を確認して微笑む母親。そして、刃物から流れる赤い血。


 思わず窓を破ろうとして、拳を振り上げた。

 背後から、腕を掴まれ口を塞がれる。


「おいたが過ぎますね」


 聞き覚えのある声に目線だけ横にずらす。


 妖精たちは消えていてバルティがそこに居た。

 どうして妖精たち居ないのかなんて疑問は頭の奥底に行ってしまった。


 ただ、何故この人が居るのかだけが頭の中を占めていた。


「こんな危ない所にいいのですか?ここから何を覗いていたのです?」


 バルティの嫌な微笑みが、心に恐怖を植え付ける。恐怖で体が震えていると、勢いよく扉が開く。


 慌てて、家から出てきた男がバルティを見ると近寄って来る。


「や、約束通りにした。ほ、報酬をよこせ」


「困りましたね。この状況を見ても話しかけて来るなんて。仕方ありません」


 大して困っていない表情で、後ろに支えていた兵士たちを呼ぶ。私を離さないバルティは、男を見せ付けるかのように移動する。


「報酬を差し上げましょう」


 兵士が、男を羽交い締めすると小さな瓶を取り出す。


「なんだ、やめろ。やめろー!」


 小さな瓶の液体を嫌がる男の口の中に入れると、もがき苦しみ喉を掻き毟るような動きをして、しばらくすると男は痙攣し動かなくなった。


「生きるのが辛かったんでしょう。私から、この世の終わりを報酬にしました。お金よりも有意義でしょう。もう、何も考えなくていいのですから」


 背筋が凍るような冷たい笑い声が聞こえて、震えが止まらない。


「ロゼット様。この事は誰に話しても構いませんよ?まぁ、話しても誰も信じませんし、何よりも国王やロディ様が間違ってあれを口にするかもしれませんね」


 小さな小瓶が目の前にチラつかされる。

 

 そして、ゆっくりと体が自由になる。


「さぁ、ロゼット様。気をつけてお帰り下さい」


 私は逃げるように城に帰った。

 それから1日いっぱい部屋の隅で、丸まっていた。


 少女の叫び声と、母親の笑顔。冷ややかな笑い声と痙攣し動かない男。

 恐怖で震え、何も出来なかった自分が情けなかった。

 少女のキラキラした笑顔が何度も頭の中をチラついている。


  次の日になると、ノーズワット公爵夫人が亡くなった話はあっという間に知れ渡った。


 公爵夫人は気が触れて、治安の悪い場所に娘を連れて行った。そこで、暴漢に襲われた。

 夫人は亡くなったが、幸いにも娘のリアーナは助かった。しかし、耳が聞こえなくなり声も出せなくなったと。

 そして、2人を見つけ娘を助けたのはバルティだと。


 リアーナを守ったと、バルティを讃える声があっちこっちから聞こえてきた。


 バルティがおぞましく感じて、あの時の事を誰かに話そうすると兄の具合悪くなった。

 部屋のテーブルにバルティからと思われる脅しの手紙が置いてあった。


『ロゼット様も、アレを誤って飲んでしまわないように気をつけて下さいね。一滴でも飲んだら大変ですからね』


 その手紙で、兄の具合が悪くなったのはバルティの仕業だと確信した。


 バルティは父と兄を殺す事を躊躇わないのだ。

 私を監視して変な動きをすれば、いつでも殺せるのだ、と冷たい笑い声が聞こえた気がした。


 私はあれから、父と兄を人質にバルティから脅されいいように使われている。


 貴族の情報収集が主で、誰でも集められる事をさせらていた。

 バルティは言う事を聞く私を見て、満足しているのだろう。

 言う事を聞く王家の人形が出来たと……。


 しかし、今はあの時の私では無い。

 誰にも言えず膝を抱えて震えていた少年では無い。


 バルティは、その事にいつ気づくのだろうか。






 部屋から出ようとすると、扉が叩かれ来客が来た。

 来客は疲れた表情して中に入って来る。


「リアーナは大丈夫かい」


「まだ、意識は戻らないがアッシュが付いてくれている」


「それは心配だね。……風も冷たいのに」


 私がそう言うと、来客は静かに指を鳴らす。

 すると、ふわりと温かい風が通り過ぎていく。


 来客の風の魔法のおかげで、会話が2人以外には違う事を言っているように聞こえる。

 もしも、バルティの手の物が盗み聞きしても大丈夫なように、念の為に魔法をかけてもらったのだ。


「どうした、ロゼット。アイツから連絡あったのか」


「今あったよ。吸収の能力を持つリアーナを、手中に収めろってさ」


「……そろそろ我慢の限界だな」


「そうだね。魔獣の結界も消えかかってるって連絡あったし」


「まったく。懲りない男だよ。このノーズワット家を敵に回した事を後悔させてやる」


 怒りに震えるファディスを見る。


 この学園に来て、やっと監視の目を掻い潜りファディスに本当の事を伝えられた。

 全て話しノーズワット家が味方になった。


 それから、密かに協力してくれる人も増えた。

 1人では出来なかったが、味方がいればバルティを追い詰めることなんてたやすい事だ。


 ファディスが居なかったら、と考えると正直言って恐ろしい。


「……ありがとう。ファディス」


「礼なんて要らない。お前が居なかったら、真実は闇の中だった。ただ、疑うだけなら信憑性が無いからな。お前がノーズワット家を信じてくれたから本当の事を公に出来るんだ。そして、この国を守れるんだよ。ロゼット、この国を導くのはお前だ」


 お互いに頷き合い、今まで流れていた温かい風が消えて肌寒く感じる。


「クレアの居る地下牢に急ごう」


「あぁ」


 部屋を出て、ファディスと共にクレアの拘束されている地下牢へと向かう。


 廊下の途中に人影を見つけ、お互いに目配せをしてやはりと思う。


(さぁ。どうやって、この茶番を終わらせようか)


 これ以上、奴の好きにはさせない。

 父と兄と、彼女の綺麗な笑顔を守る為に。





読んで頂きありがとうございました!

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