27 終
楽しんで頂けると嬉しいです!
暗闇の中でフワフワした感覚。
どれぐらい漂っているんだろうか。
まるで水の中に浮いているようで、懐かしく思う。
それと同時に自分の中にあった何かが、無くなったようで少し寂しく感じる。
みんな大丈夫かな。
みんなが助かったならよかった。
最後に見たアッシュは動いていた。
無事で生きているなら、凄く嬉しい。
アッシュが倒れ地面が赤く染まる場面を思い出す。怖くなって、ギュと自分を抱きしめる。
あんな思いは二度としたくない。
私の気持ちを認めざるを得ない。
あの時、失いたくないと思った。
アッシュがいないとダメなんだって思った。
この命をかけても救いたいと思ったんだ。
愛しい気持ちを伝えたかった。
(この想いを伝えたらアッシュは喜んでくれたかな)
アッシュの笑顔を思い出し、思わず笑顔になる。
もしかしたら私は、あの場所に戻れないかもしれない。
(……天国に行けるといいな)
なんて事を思ってるんだろうと、苦笑いをして暗闇に身を任せる。
目を閉じてフワフワと、しばらくの間漂っていると不思議な何かを感じた。
『リアーナ、いつまで寝ているの?ほら、目を開けて。貴女を想ってる人が待っているわ』
暗闇の中から優しい声が聞こえた途端、目の前の暗闇が全てが光に変わる。
『貴女はもう大丈夫よ』
『リアーナ、恐がらず目を開けて』
優しい笑顔の少女と、幸せそうなレオ様の姿。
何故か2人が一緒にいる姿が、とても嬉しくて涙が溢れた。
『貴女は、もう闇から解放されたのだから』
微笑む少女は、私の両耳を優しく手で包み、その手を下に移し喉にも優しく触れる。
触れらた所が熱を持ち、スッと軽くなった。
『私が持って行くね』
(……大丈夫なの?)
『心配しないで。無に返すだけよ。それに、レオが一緒だもの。私に恐れるものなんかないわ。これから、ずっと側にいられるから。……リアーナありがとう』
愛しそうにレオ様を見ている姿が美しい。
(……貴女は幸せなのね)
ふと、この言葉が頭に浮かんだ。理由はわからないけど心の奥が熱くなる。ずっと、ずっと思い描いていた気持ちのような気がする。
『僕はシャナと遠い所に行くね。いつ戻れるかわからないけれど、いつまでもリアーナの事を思ってる。今は妖精の姿を見られないかもしれないけれど心配しないで。どんな事がこの先起ころうとも、君には精霊の加護がついているよ』
何か言いたいのに言葉が出なくて、2人を見ていると2人に優しく抱きしめられる。
言葉を交わさなくても、私が思っている何とも言えない不思議な感情が伝わった気がして笑顔になる。
私から離れたシャナとレオ様は手を取り合いお互いを見ながら笑っている。
『貴女も大丈夫。幸せになるのよ』
眩しい光が私を包む。
私を包む光が、とても暖かくて安心する。
少しずつ、2人の姿が遠くなって行く。
光が一段と眩しくなりフワフワとした感覚が、徐々に重力を感じて身体が重くなる。
『ほら。貴女を想う、貴女が大切な人が呼んでいるわ』
そっと小さく聞こえたシャナの声に、違う声が聞こえる。
「リアーナ、早く帰って来いよ」
私を呼ぶ優しい声に、私はゆっくり目を開ける。
眠れないくてアッシュが側にいていてくれた時に聴こえた気がした声と似ている。
(……あの時の声はやっぱりアッシュだったんだ)
目を開けると、目の前に居る笑いながら泣いている器用な金色の瞳に、思わず手を伸ばした。
「アッシュ。何泣いてるの?」
アッシュは驚いた顔をして私を見ている。
涙を拭いてあげたかったのに、私が伸ばした手は瞳に届く前に捕まれた。そして、勢いよく抱きしめられる。
「お前が……」
「1人で泣かないで。……私が側にいてあげる」
私もアッシュを抱きしめる。アッシュは抱きしめる力を強くする。少し痛かったけど、アッシュが本当に生きていた事が嬉しくて気にならなかった。
「誰の所為だと思ってるんだ」
「ごめんね、アッシュ。でも……生きてて良かった」
「お前のおかげだよ」
私を抱きしめる腕が緩められ、アッシュに目線を合わせられる。
アッシュの指が、そっと私の唇に触れる。
「大人になったお前の声を想像してた。想像してた以上に優しくて好きな声だ」
アッシュの優しい声にドキドキして、アッシュが紡ぐ言葉が恥ずかしくて、私は少し視線をずらす。
「私もアッシュの声が好き」
「声だけか?」
「……全部好き。アッシュが大好き」
私の言葉に満足そうに顔を綻ばせながら、赤くなってるアッシュが珍しくて、今度は私からアッシュに抱きついた。
(好き)
言葉にする事が、こんなに愛おしく感じるんなんて思わなくて自分でも驚いている。
アッシュは優しく私の頭を撫でる。
「リアーナ、お帰り」
「ただいま」
アッシュに聞こえてしまいそうなぐらい、胸の奥がずっと高鳴ってる。
しばらくして、扉が叩かれた。
扉は勢いよく開き、急いで来たのか息を切らしながらお兄様が医務室に入って来た。
「お兄様」
お兄様は私の声を聞くと、驚きながらも嬉しそうに笑う。
「……声が出るようになったんだね」
お兄様の声は、小さい時に聞いた時よりも低いけど、あの頃の時と同じで心地良くてホッとする。
お兄様はアッシュを押し退け、私の側まで来る。
「痛いところは?いつもと違うところはないかい?」
「大丈夫よ」
「そうか。……良かった。リアーナ、本当に良かった。リアーナ……リアーナ……」
お兄様は崩れ落ちるかのように私を抱きしめ、涙声で私の名を何度も呼ぶ。
どれだけお兄様に心配をかけていたんだろうか。
お兄様にずっと守られていた私は感謝してもしきれない。
涙でキラキラ光っているお兄様の瞳が、嬉しそうに細められる。
「リアーナ、部屋でいっぱい話そう。可愛らしい声をいっぱい聞かせて」
「はい。お兄様」
満足そうに微笑むお兄様は、アッシュの近くに行く。
お兄様は私に聞こえないように、小さな声でアッシュに話しかける。
アッシュの顔が、真剣な表情になり頭を下げる。
「ありがとうございます」
「頼んだよ。先生には伝えておく。……リアーナ、部屋で待ってるからゆっくりおいでね」
お兄様は少し寂しげな表情をしてアッシュの肩を叩く。そして、私に話しかけて医務室から出て行った。
アッシュはお兄様が出て行った扉を、真剣な表情のまましばらく見つめていた。
「……行くか」
アッシュは私の手を取り、ベッドからゆっくり下ろしてくれる。歩くと少しフラフラするが、アッシュが支えてくれる。
医務室を出て、部屋に向けて廊下を歩く。
隣に寄り添ってくれるアッシュがいる事が幸せすぎる。
廊下を歩いていくと何度見ても見事な学園の庭園で、アッシュは何かを見つけた様に止まる。
「ちょっと待ってて」
アッシュは庭園に入り、綺麗に咲いている小さな赤い花を摘んでくる。
私の左手を持ち上げて、薬指に小さな赤い花を指輪の様に付ける。
(凄く嬉しい。可愛くて綺麗だわ)
薬指に付けられた小さな赤い花を見ていると、不意に聞こえる声に視線を向ける。
「リアーナ。俺が一生守る。だから、お前は自分を大切にしてくれ。俺の為に」
誓いの言葉のようで恥ずかしくて、鼓動が大きく動く。優しく微笑むアッシュが愛しい。
「うん。アッシュも自分を大切にしてね。私の為に」
薬指に咲いた小さな赤い花を、2人で眺めながら進んで行く。
本物の指輪を薬指に付けることを想像して……。
読んで頂きありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございました。
第一部完結とさせて頂きます!
皆さまありがとうございました!




