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26 ローズside

楽しんで頂けると嬉しいです。

 


 学園の医務室で、私は椅子に座っている。

 窓を見ると、外は今にも雨が降りそうな空模様をしてる。


「……リアーナ、早く目を覚まして」


 私はリアーナの手を握り、祈る事しか出来ない。


 技術大会から1日が経った。

 リアーナはあれから目を覚さない。リアーナを助けていた、レオ様はいつの間にか居なくなっていた。


 レオ様はいなくなる前に時間が経てば大丈夫と、言っていたがリアーナはまだ目を覚さない。


 少し前まで、アッシュ様がリアーナの側にいた。

 アッシュ様はリアーナが倒れてからずっと側にいたので、ファディス様が休ませる為に無理に連れて行ってしまった。


 私はリアーナの規則正しい胸の動きを見て、私ならあの状況で命をかけてみんなを、助けられただろうかと自問自答している。


 聖なる光を持っていても、私は躊躇ってしまうだろう。


(……リアーナは私と全然違う)


 目を閉じると、リアーナの朗らかな笑顔が私に向けられている。


 私は深いため息を吐く。


 あの時、レオ様に繋がれた手を見つめる。

 私はレオ様から大切な物をもらった気がする。





 昔から言われていた言葉。


「ローズはいい子ね」


 ――私はいい子じゃない。


「ローズは素直な子ね」


 ――私は素直な子じゃない。


 ただ、嫌われたくないだけ。

 ただ、愛想つかれたくないだけ。

 ただ、失望されたくないだけ。


 小さい頃からベッドの中で見ていた、外で遊ぶ従姉妹たち。それを悲しそうに見ている両親。


 あの頃は体が弱いせいで外で遊ぶことも、両親と手を繋ぎ出かけることも出来なかった。


 私まで悲しい顔をしてしまうと、両親が悲しむから私は笑う事にした。


 物わかりがいい子だと両親も笑ってくれる。

 私はただ笑っていればそれで良かった。


 身体が丈夫になった今でもそれは変わらない。


 嫌な事も嫌とは言えず、苛立つ事も笑顔で接してきた。


 だから素直で良い子の私は、嫉妬と言う醜い感情なんて持っちゃいけない。

 なのに、あの人の隣で笑う貴女を見た。


 私の中に、抑えられない感情が溢れ出し一つの闇が生まれた。


(あの人隣で笑っているのは私だったのに)


 そう思ってしまった、自分の感情に嫌気がさしてしまう。





 学園に通って、自分が聖なる光を持っていると知った。でも、私はその力を使いこなす事が出来なかった。


 いろんな人からは、心無い言葉を投げつけられた。


 私はその言葉に怒る事も抵抗する事もできず、ただ笑っているだけ……。


 姉のように可愛がってくれているジョナには、心配かけたくなくて言えなかった。


 いろんな事があって、何がきっかけか忘れてしまったが、学園の庭園で耐えられなくて1人うずくまり泣いてしまった。


 たまたま通りがかったディオが声をかけてくれた。


 本当はそのまま過ぎて行って欲しかった。こんな私を誰にも見せたくなかったから。


「……ダイナ様。肩の力を抜いて下さい。すぐに力なんて使えないです。だから、ゆっくりで良いんじゃないですか」


 ディオにとっては何気ない言葉でも、私にとって凄く嬉しく優しい言葉だった。


 それからディオは、私を助けてくれる事が多くなった。口数は少なかったけど少し話すようになった。

 寡黙の所が魅力的に感じて、私はいつの間にかディオに恋をした。


 ディオが気にかけてくれる事が嬉しかった。


 私は、もしかしたらこの恋が叶うんじゃないかと思っていた。長期休みからディオが帰って来るまでは……。


 長期休みから学園に戻ってきたディオの隣には、綺麗な人が立っていた。

 心なしか綺麗な人を見るディオの顔が優しく感じる。


 私が声をかけても素っ気なくて、私だけが思っていたのだと痛感する。


 保健室で偶然にディオと綺麗な人に会った。綺麗な人はリアーナと名乗った。

 声が出せなくても音が聞こえなくても、その事を苦とは思ってなくて物凄く前向きで……。

 リアーナは私とは違い、本当に素直で良い子なんだと自分との違いに嫉妬する。

 私は笑うけど心の中はこんなにも醜い。


 私よりも大変な思いを経験しているのにリアーナの心は綺麗だ。


 いろいろと話しているとリアーナを嫌いにはなれない。


 私の事を友達だと言ってくれたり、幸せにならないといけないと言ったり、リアーナが書く美しい文字とリアーナの笑顔に見惚れてしまった。


 リアーナの満面の笑顔を見て赤らめて、自分の複雑な感情に戸惑いを隠せない。


 リアーナを好きになっていくのに、ディオとリアーナのやり取りを見ていると苦しい。


 リアーナと話す私は笑えているのだろうか。


 保健室を出ていこうとするディオに問いかけた。


「ディオとリアーナは仲が良いのね」


「そうですね。私が想っているだけですよ」


 リアーナを見ながら微笑むディオは綺麗だった。

 本当に大切にしている人なんだと改めて認識させられる。


 比べてはいけないと思っているのに、自分と比べてしまう。


(……なんて不公平なんだろう)


 醜い感情がまた一つ、また一つと増えていく。


 こんな事を思う自分なんて嫌い。


 屈託なく笑うリアーナが眩しすぎる。



 あれからリアーナには、助けてもらってばっかりだった。

 聖なる光を制御出来る様になったし、温かい手紙を貰った。

 ジョナの事で迷惑もかけてしまった。


 リアーナはいつも笑顔で私を安心させてくれる。


 本当の友達になれた気がした。


 心の中に醜い感情はあったけど私が隠せば、リアーナと良好な関係を築いている。


 ディオがリアーナに向ける表情を見るたびに、思ってしまう感情を笑顔で隠す。


(私がリアーナだったら、ディオに悲しい顔をさせないのに)


 でも、私はその言葉を声には出せない。

 私はリアーナじゃない。

 ディオの好きな人にはなれないのだから。


(リアーナが羨ましい)


 そう、何度も何度も思っていた。


 技術大会でレオ様に手を握られるまでは、そう考えていた。






 医務室の扉が叩かれて返事をする。


「はい」


 ゆっくりと開けられる扉に視線を向ける。

 先程、ファディス様に連れられてでて行ったアッシュ様が笑いながら入ってきた。


「ローズ、ありがとう」


「アッシュ様、お身体は大丈夫なんですか?」


「全然大丈夫!ファディスが心配性なんだよ。アイツを生徒会室に押し込めてきた。俺よりも自分の心配しろってさ」


「そうだったんですね。……では、私は失礼しますね」


「うん。ありがとう」


 爽やかに笑うアッシュ様はリアーナの側に近寄り、そっと頬を撫でる。


「リアーナ、早く帰って来いよ」


 アッシュ様の人一倍優しい声に、扉に向かっていた私は振り返る。


 窓から降り注ぐ太陽の光が、リアーナを照らしているように感じる。


 リアーナの瞳がゆっくりと開き、アッシュ様の満面の笑みを見て、私はそっと医務室を後にした。


(ファディス様にリアーナが目が覚めた事を言いに行った方がいいかな)


 私はファディス様が居るであろう生徒会室に足を向ける。


 前からディオが歩いて来る。


「お嬢様はどうでしたか?」


「リアーナは目を覚ましました。アッシュ様が付いてます」


「……そうですか」


 リアーナが目を覚ました事を言うと、ディオは安堵の表情をして、アッシュ様の名が出ると少し俯き加減になる。

 でも、それは一瞬の事で気付けばいつものディオに戻っている。


「ダイナ様はどうしたのですか?」


「あっ。ファディス様に知らせに行こうかと思って生徒会室に」


「そうだったのですね。では、私もお供します」


 ディオが私の前を歩く。私が追いつけるようにゆっくりと歩いてくれる。


 本当はリアーナのところに行きたいと思ってるんだろう。


 ディオの後ろ姿が、少し寂しそうに見えた。


 私が一歩前に踏み出さないと何も変わらない。

 私はリアーナになれないのだから。


(……私は私)


 一歩早く踏み出しディオの服を掴む。

 不思議そうに振り向くディオに目線を合わせる。

 私はとっさに口を噤みそうになるが、勇気を出して口を開いた。


「急にごめんなさい。話したい事があるの」


「はい。何でしょうか?」


「私……。貴方がリアーナの事を慕っている事は知ってる。だけど、私も貴方の事を慕ってるの。……ディオが好きなの」


「ダイナ様」


 ディオが驚く表情を見せたので、私は一瞬戸惑う。

 でも、私はまだ伝える事がある。


「ごめんなさい。困らせたくて言ったんじゃなくて。貴方を好きな事を許して欲しくて」


「……わかりました。でも、私はダイナ様の思いには応えられませんよ」


「うん。わかってる。……私ね、諦める事を諦めたの。ディオに振り向いてもらうまで頑張るつもり」


 自然と笑顔が漏れる。

 以前の自分から想像できなくて、晴れやかな気持ちだった。


「……おかしな人ですね。私も人のこと言えませんが……」


 ディオが、私を見て少し笑った気がする。

 リアーナを思い浮かべ笑ったのか、私を思って笑ったのかわからない。

 だけど、それが嬉しくて心が躍る。


 歩き出したディオの後ろを追いかける。


 私の恋がほんの少しだけ動いた気がした。


 






読んで頂きありがとうございました。

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