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楽しんで頂けると嬉しいです。







 

 窓からの光が眩しく感じて、ゆっくり目を開ける。

 ピンクがかった空は綺麗だった。


 今日は怖い夢を見なかった。


(幸せな夢だったような気がする)


 暖かくてふわふわしていた夢を見ていた気がする。

 手にぬくもりを感じて顔を横に動かした。


 昨日の様にベッドの横に座り私の手を握ったまま、ベッドに上半身を預けているアッシュが居た。


(ずっと側に居てくれたんだ)


 嬉しくて微笑んでしまう。


「ん?……リアーナ。おはよう」


 私の動いた振動で起きてしまったのか、眩しそうに目を細め私を見て無防備に笑う。寝起きのアッシュは、少し幼く見えてドキッとする。


(おはよう)


「良い顔してるな」


(アッシュ、ありがとう)


 不意に頭を撫でられる。その仕草が何故がくすぐったくて恥ずかしくて顔を背ける。


(頭なんて何度も撫でられてるのに)


 考えれば考えるほど顔に熱が集まってくる。


「……可愛い」


 アッシュの手が私の手から離れ、私の頬に触れそうになった時アッシュが止まった。

 アッシュは扉の方を見る。私も扉に向けた。


「……起きたか」


 お兄様が、不機嫌そうな表情でアッシュを見ていた。


「良いところなんだけど」


「僕からしたら悪い事だ。……リアーナおはよう。すっきりした顔してる」


 お兄様が私の側に来て、顔を覗き込み笑う。すぐ離れて、アッシュの肩に手を置く。


「アッシュでも、少しは役に立つんだね」


「おい。ファディス」


 お兄様は部屋を出て行こうとして、扉の前で振り向いた。


「そうだった。リアーナにお客さんだよ」


「あぁ、そうか。わかった」


 アッシュは名残惜しそうに私の頬を触り、椅子から立ち上がりお兄様と一緒に部屋を出ていく。

 側にあった温もりがなくなり、寂しく感じる。


 ベッドから起き上がり、お客を待つ。


(私にお客って誰?)


 不思議に思っていると扉が開く。


「おはよう!リアーナ」


 元気よく入ってきたのはジョナだった。


「謹慎解けました!」


 部屋に入るなりお辞儀をするジョナに驚き、すぐ書いた紙を見せる。


(会いに行けなくてごめん)


「そんな、全然気にしないで!リアーナが元気ならそれで良いだけど……」


 歯切れの悪い言い方で少し不安になる。

 ジョナがこんな朝早く私に会いに来たのは、ただ謹慎が解けたからじゃないんだろう。


(何か問題でもあったの?)


 私の書いた紙を見て、迷っているような表情をしたジョナの顔を覗き込んだ。


「あ、いや。そう、なんだけどさ。今日は絶対1人にならないでって言いに来たんだ」


(わかった。1人にならない。私に何が起こるの?)


 紙を見て、言い辛そうにしてるジョナに口を動かす。


(私、死ぬの)


 私の言いたい事を理解したジョナは一生懸命に首を横に何度も振ってる。


「……違う。違うよ!……させない。みんなが守るから」


(ジョナ、教えて)


「……ゲームでリアーナを殺す人を昨日見たの。本当はその人が現れるのまだまだ先の話なんだ。だから、念の為なんだよ」


 ジョナは私の不安をかき消すように私の手を握る。動揺していた私の冷たくなった手が温かくなる。


「大丈夫!リアーナの運命は変えられるんだから」


 ジョナの笑顔に私は笑顔で頷く。

 ジョナは満足そうに笑い、腰に手を当て自信満々に想定外の言葉を言った。


「私は預言者だから」







 技術大会は野外の特設会場で3人ずつ行われている。


 魔法クラスは全員参加だが普通クラスは自由参加になる。しかし殆どの生徒が参加して盛り上がっている。


 歓声は私には届かないが、熱気は感じている。

 上級生から始まっていて、お兄様の番で様々な風の魔法を繰り出し攻撃する姿はとても優雅。


「何度、見ても圧倒的で凄いな」


 私の隣いる、アッシュが感心して見ている。お兄様の魔法はトップクラスで卒業したらすぐに王宮に仕えるはずだ。


(お兄様が誇らしい)


 私たちは他の生徒たちより少し離れた高台に立っている。会場全体を見渡せるようにとロゼット様の光の魔法でこちら側が見えないようにしてもらっている。


 ローズやディオもどこかで見ているらしい。

 お兄様も多分、魔法を繰り出しながらも不審な者がいないか見ているに違いない。


(ジョナの行動力には感心する)


 ジョナは私の為に、いろんな人に助けを求めた。『自分は予知夢を見る』と言ってゲーム内で知っている情報で、お兄様やアッシュなどを預言者として信用させたようで、ジョナは苦笑いながら話していた。私も思わず笑ってしまった。


(本当にジョナは頼り甲斐があるわ)


 アッシュの隣にいたグライアド先生が、強張った表情をして私たちを見る。


「居ました。少し様子見てきます。アッシュ頼みました」


 グライアド先生は私を狙う男の人を知っているようで、その人を見つけると後を追う。


「わかった。……アイツか」


 アッシュも、どの人かがわかったようで目付きがキツくなる。


 しばらくするとアッシュが横を向く。

 私も同じに目線を合わせる。


「アッシュ先輩」


 誰も近づけないはずなのに、男子生徒が現れる。


 罠かもしれないとアッシュは私を自分の後ろに隠すような形で距離を置く。


 私に気を取られたアッシュの一瞬の隙をついて男子生徒は歪んだ球体を私に向けた。

 アッシュはそれを避けようとして私の手を引く。


 しかし、私の視界が歪みアッシュの手を離してしまった。体が何かに包まれ気持ち悪い。




 次の瞬間、私は高台にはいなかった。


 移転魔法を使ったようで急に風景が変わった。周りを見ても誰もいない。校舎内に移動していて廊下に立っている。目の前には知らない人が居た。


「よお、リアーナ」


 男の人がニヤニヤと笑いながら私を見ている。

 さっきの男子生徒はこの人だ。


(この人が)


「お前を1人にするのに骨を折ったぜ。悪りぃな。……死んでくれよ」


 何を言ってるかは分からないが良いことではないだろう。男の人はジッと私を見ている。


 どうすれば良いか。

 この場から逃げ出すのが1番いいのだと思う。


 ローズから貰った聖なる光を持っているから、最悪何かされたとしても命を落とす事はないだろう。

 ただ、私に勇気があるかどうかなんだ。

 現に今、怖いと思ってる。動かさなきゃいけない足は全く動かない。


 お互い動かず、どれぐらいそうしていただろうか。2、30秒にも感じるし、もっと短かったかも知れない。


 何かに反応してニヤッと笑った男の人は、いつの間にか目の前にいて、逃さないようにと思いっきり私の両手首を掴む。


 すると、男の人はニヤニヤと私の肩越しに何かを見つけたように私から視線をそらす。


「ガイル!」


「イド。また、会ったな」


「お前は、私を騙していたのか」


「あ?何の話だよ」


「もう私に命令を下す主は、この世に存在しないんだろう」


「……あぁ、いねぇよ。とっくの昔な。俺は……。俺は、お前が幸せになるのが嫌だったんだよ。のうのうと笑いながら暮らしやがって。しかも、探していた奴がコイツだなんて笑わせんなよ。イド……絶望に打ちひしがる顔を俺に見せろよ」


 男の人は誰かと話している。そして、どこからか取り出した魔法が掛かった禍々しい刃物を私に突きつけようとしている。

 私の視界に赤色が飛び込んでくる。


「本当、お前マジでふざけんなよ」


 息を切らしたアッシュが、不意打ちで炎の渦を男の人の背中に向けて放つ。男の人が悶えている間に、後ろから腕を引かれる。振り向くとグライアドがいた。グライアドはポケットを指差す。


 私はポケットに入っていた雷の宝石を男の人目掛けて投げる。

 凄い光を放ちながら、おびただしい数の稲妻が男の人を襲った。


(黒い影)


 男の人か倒れると同時に、身体から薄い黒い影が出た気がしたがすぐに消えてしまう。私の見間違えだったかも知れない。


 稲妻に打たれ意識を失っている男の人をアッシュは拘束した。


「マジ、殴りたい。でも、間に合って良かった」


 アッシュに抱きしめられる。ほっとしたのか力が身体から抜けてアッシュに支えてもらった。


 しばらくすると、グライアド先生は私の前に立ち頭を下げる。


「リアーナ。私の所為で怖い思いをさせてしまった」


(グライアドに助けてもらったよ)


 身体に力が入るようになり、床に落ちていた雷の宝石を拾い上げる。感謝を込めて雷の宝石をグライアドの手の中に入れ手を握る。


(ありがとう)


「……リアーナ」


 私を見るグライアドの瞳から一筋の涙が溢れた。


「ありがとう」


 慌てて涙を拭いた表情はとても綺麗な笑顔だった。


「リアーナ!」


 奥の廊下から、手を大きく振りながらジョナとローズが走って来た。


「凄い光だったから。良かった。無事なんだね」


 拘束されている男の人を見て、胸を撫で下ろしていた。


「リアーナ、本当に良かった」


 ジョナとローズは私に抱きついて来て、少し苦しいけど胸の奥が暖かくて思わず顔が綻んでしまう。


 後から、お兄様とロゼット様とディオも来て、お兄様が蔑んだ目で拘束した男の人を見る。


「ノーズワットに喧嘩売るなんてバカな奴だな。だからお前の主も……。僕はコイツを連れて行く。ロゼット一緒に来てくれ」


「わかりました。皆さんは技術大会を楽しんで下さいね。まだ、アッシュもディオもローズも終わってませんから頑張ってくださいね」


 ロゼット様の声に残った人たちで技術大会特設会場へと向かう。


 アッシュは私の手を握り歩き出す。


 みんなが無事だった事に安堵して、アッシュの隣を歩ける事を嬉しく思った。



『リアーナ、行ってはダメだ』


 レオ様の声が聞こえた気がして歩みを止めた。


「どうした」


 アッシュが急に止まった私に不思議な顔をしている。


(何でもないわ)


 私は首を横に振る。

 周りを見ても姿は見えず、声も聞こえなかった。


 聞き間違いだと思い私は歩き出した。







読んで頂きありがとうございます!

誤字脱字報告ありがとうございました!

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