表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/29

22 グライアドside

楽しで頂けると嬉しいです。

 


 どこから歯車が狂ってしまったのか。


 もしかしたら、始めからだったのかもしれない。


 ノーズワット公爵と出会わなければ、私は違う人生を歩んでいたのではないか。

 そう考えずにはいられない。


 こんな苦しい想いを抱く事にならなかった。


 君が……。


 あんなにも素直で。

 あんなにも無邪気で。

 あんなにも愛くるしい。


 私を覗き込む君がゆっくり微笑む。


 あの頃は幸せで笑う君が側にいるだけでよかった。


 この気持ちを知らなければよかった。


 愛くるしい姿を抱きしめたいけど、抱きしめるのは私じゃないから……。






 明日は技術大会で学園全体が浮き足立った感じがする。

 日が落ち空の色が暗くなってもそう感じた。


 自分の教員部屋に入ると清掃員に扮した男が立っていた。振り向き様にニタニタと嫌な笑みを浮かべる。


「よう、イド。目的の奴は見つかったか?ここならばいろんな人がいるんだろう。いるんじゃないのか?」


 今一番会いたくない奴だ。

 不機嫌を一切隠さず奴の横を通り過ぎ椅子に座る。


「……勝手に入らないでください。私はグライアドです。それに、この学園にはいません。他の場所に行って探した方がいいです。私は約束を守りました。なので私はもう自由にさせてもらいます」


「それを決めるのはお前じゃない」


 奴の顔は真顔になり、今にも襲いかかってきそうな雰囲気を出している。しかし私にはそんなの効かない。


「もう、構わないでください」


「チッ。……そう言えば、リアーナだっけ?」


 舌打ちした後、嫌な笑顔になる。

 なにか企んでいる顔に不安を感じる。


「……なんですか」


「どんどん綺麗になっていくな。それに、なんとなく似てないか。本当に違うのか?」


「違います」


「まぁ、いいや。じゃ、またな。イド」


「もう、私は会いたくないです」


「あぁ、あと一つ。見つけたら殺せってさ」


 それ以上は興味が無いと言うように、奴はそのまま部屋を出て行く。

 私は最後の言葉に絶望する。


 もう2度と、お前になんか会いたくない。

 やっと、リアーナから目を逸らせたと思っていたのに。このまま気付かずに過ぎてくれればいい。


 このままだと何のために屋敷を出て、離れたのかわからなくなる。


(守りたいのに私の所為で傷付くのは嫌だ)


 深いため息をして目を閉じた。

 しばらくすると扉を叩く音が響く。


 ゆっくりと扉を開ける。

 不安そうな顔をした女子生徒が立っている。


「グライアド先生。お話しがあるんですが、少しよろしいですか?」


「えぇ。どうしたんですか。……ジョナさん」


「今から言う事は、ただの戯言だと思ってください。気分を害したら申し訳ありません」


 真剣な表情に嫌な予感がしている。

 ジョナさんとは1度地下牢で会ったことがある。あの時と違い殺気だった雰囲気はない。

 でも、何か違う意思みたいなモノを感じる。


「リアーナを殺す予定はありますか?」


「何を言ってるのかわからないな」


「リアーナを傷付ける予定はありますか?」


「だから、君は何を言って……」


「リアーナを守ることは出来ますか?」


「……君は何を知ってるの」


 思わず詰め寄る形になったのは、不可抗力だと思って欲しい。


「部屋の外にロゼット様がいらっしゃる事を言い忘れていました。私に万が一に何かあればすぐに先生が疑われる事を頭に入れておいて下さい」


 目眩がする。彼女は何を知ってるんだ。

 全てを見透かされているようで恐怖を感じる。


「先程、この部屋から出てきた人は他の国の人ですよね」


 何も言えず黙ったまま、どうしてこうなっているのか考えを巡らすが一向に答えなんて出ない。


「あの人は暗殺者のガイルですよね。あの人はリアーナを殺します。先生なら、その理由がわかるんじゃないですか。先生はあの人の味方なんですか?それとも、あの人の敵になってくれますか?」


 彼女の言葉に今までの記憶が蘇る。








 孤児だった私は貴族に拾われた。主の貴族の名前なんか覚えない。主の貴族の屋敷には私と同じような子供たちが大勢いた。

 私には高い魔力があり他の人や子供たちよりも大切に育てられた。教養を与えられ、暗殺者として育てらた。

 ガイルともそこで出会った。ガイルは暗殺者としては優秀でいつも任務についていた。


 私は暗殺者としての術を教えられたが、その術を使う機会はほとんどなかった。才能がなかったのか、勉強ばかりしていたからなのか定かではない。



 ある時、些細なことで隣国との戦争が起こった。とうとう私も戦争でその術を使う事になった。


 隣国は小さい国で、昔からの伝承があった。

 稀に生まれる姫に不思議な能力が宿る事がある。魔法を吸収する能力を持つとされていた。


 そして、隣国には姫が存在している。その姫が力を持っているかわからないが、隣国を滅ぼした後に捕縛する事を命令された。

 しかし、姫は逃げ出し王国リディグースで行方不明になったとされていた。


 私は行方不明になった姫を探すように言われた。行方不明になったのは湖の近くで、湖の中に沈んだ可能性だってある。死んでいるかも知れないのに、なんて無謀なんだと思っていた。


 ただ、そのおかげで自分は好きなように外で動けている。


 勉強ばかりしていて教養があった為、家庭教師として王国リディグースの様々な街を転々としていた。


 いろんな人に会うのは楽しく、以前の自分を捨て去るように名をイドからグライアドと名乗った。


 1年に4回ぐらいガイルが確認しに来ていた。自分の居場所は、主の貴族に筒抜けだと警告を鳴らすように。


 家庭教師をして2年過ぎた頃に偶然、ノーズワット公爵と会った。


 次の街に行こうとした時、ノーズワット公爵が乗っていた馬車に、私が乗っていた馬車がぶつかった事がきっかけだった。


 私が家庭教師をしていると聞くと、ノーズワット公爵がリアーナを馬車から降ろしたのだ。初めて会ったリアーナは、眩しいぐらいの笑顔を私に向け懐いてくれた。


 リアーナは探している姫に似ていた。でも、髪の色や目の色は違っていた。

 私がリアーナに一瞬で興味を惹かれたのは事実だった。


 私がまだ次の仕事が決まってないと知ると、ノーズワット家の家庭教師にならないかと打診された。


 私は二つ返事で引き受けた。


 その時、私は何を考えていたんだろうか。

 多分、キラキラ光る笑顔を見せたリアーナの事を考えていたのかもしれない。





 ノーズワット家で、暮らす日々は幸せな生活だった。ファディスとリアーナに勉強を教える事は、とても嬉しくて楽しかった。


 年に数回、ガイルは屋敷の外から、私の生存を確認する為に眺めるだけで接触してくる事はなかった。

 多分、主の貴族が何もしてこないのは、他国の公爵家を変に刺激しない為だろう。


 年を追うごとに、私はこの生活を手放せなくなっていた。いつかはここから去らなくてはいけないのに行動に移す事ができなかった。


 私の瞳が綺麗だと覗き込み、宝石を見るみたいに目を輝かせているリアーナを見る。

 リアーナの瞳の奥にある不思議な光が宿っていた。リアーナの瞳の方が綺麗で見られていると恥ずかしくなる。


 そして、私は今まで知らなかった心の奥が暖かく感じるようになる。


 リアーナと過ごす時間が、尊いから愛しいと感じるようになってしまった。


 ここで過ごす内に、主の貴族と仲間と過ごした過去の自分が思い出せなくなった。


 自分が幸せになりたいと、13歳も離れているリアーナを愛くるしいと想ってしまうなんて……。


 それが、間違いだと気づいたのは偶然聞いてしまった旦那様の言葉だった。


 リアーナが拐われ、奥様が亡くなられてから3年が経ったある日。旦那様は酷くお酒に酔われて、私を誰かと勘違いしたのかリアーナの事を話し出した。


『リアーナは私の子ではない。ノーズワットの血を引いていなくても大切な私の娘だ』


『あの湖に倒れていたリアーナは天の思し召しだった』


『全てを話せない私はリアーナに顔を合わせられない』


 旦那様は、最後に泣いていた。

 何故こんな事になったのかと嘆いた。


 パズルのように頭の中に1つの仮説がピッタリとはまった。


 リアーナの瞳の髪や瞳には魔法が施されている。


 リアーナは隣国の姫。

 私が探していた姫。


 その時、私が思った事は捕らえなければではなく、リアーナの真実を知らなかった事にして守ることしか頭にはなかった。


 主の貴族から、ガイルから悟られないようにしなければならない。

 これ以上リアーナに辛い思いをさせたくない。


 その時にリアーナを想ってしまった事を後悔した。

 どんどん成長して綺麗になっていくリアーナから目が離せなくなるのは必然的で、私がリアーナを想っている事をガイルは気づいている。

 これ以上リアーナに近づいてはいけない。


 ファディスが学園に通う事で、私も旦那様に頼みこみ学園で教員として雇ってもらう事になった。


 学園へと向かう馬車に乗り、涙目のリアーナを見て抱きしめたい気持ちを押さえて馬車の扉を閉めた。

 あの瞳がいつまでも忘れられない。





 学園に勤務してしばらくすると、ガイルが主の手紙を持って来た。


「もう、お前はお払い箱だってよ。使えない奴は要らないんだと」


 確かに手紙には、この学園で姫が見つからないならお前の自由にして良いと書いてあった。


(自由か……)


 私は殺されるのだろう。

 見す見す殺されるわけにはいかないが、リアーナを守れるならばそれでも良いと思うのは自己中心的な考えだったのだろうか。







 混乱する頭で、冷静にジョナさんを見る。

 リアーナの為に、力強く前を向き私から目線を逸らさず震えてる手に拳を作り、本当は怖いはずなのに恐怖に耐えている。

 ジョナさんに、誠意を持って対応しなければならない。ここで嘘をついたって仕方がない。


 何故、ガイルの事を知っているのかとか、私の正体を知っているのかなんてどうでもよかった。

 ただ……。


「私は、リアーナの事を死ぬ覚悟で守り抜く」


 ただ、誰かに言いたかったのかもしれない。

 リアーナへの想いを……。


 リアーナを抱きしめる人は私じゃない。


 それならば、私にできる最大限の事を君の為に……。


「ジョナ、話を聞かせて欲しい」







読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字報告ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ