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楽しんで頂けると嬉しいです。
あれから私は夢を見る。
暗い地下道をランタンを持ったお母様と一緒に歩いている。
お母様はいつもと違い、気分が良さそうに私の手を引く。そんなお母様を見て、私も嬉しくて笑顔でお母様の隣を歩く。
チラチラとランタンの光で映るお母様の姿はとても美しかった。
お母様は突然立ち止まり私を見る。なんとも言えない表情をするお母様は私の手を離した。
「ごめんね。リアーナありがとう」
お母様がそう言うと、今まで光っていたランタンは消え暗闇になりお母様の姿は見えない。
次に聞こえるのはお母様の悲鳴。
そして、薄く光るランタンと暗闇から現れるお母様の生気のない瞳。
「…………っ!」
心臓がドクドクと強く動いている。
叫べない喉が痛いく、薄らと汗もかいている。
震える手を握りしめて震えを抑え込む。
(……今日もか……)
ローズの聖なる力の矢が私を襲ってから、2週間が経った。何度か授業で演習室に行ったが誰かの魔法が私を襲うことはなかった。
私はあれから、お母様の夢を毎日のように見ている気がする。
夢の中の幼い私は、幸せな気持ちから恐怖感を味わう。
(……苦しい)
アッシュに抱いてはいけない感情に私は気づいてしまった。
幸せになってはいけないと私の心が許してくれないから、お母様の夢ばかり見るのだろうか。
自分はその資格があるのかと。
(眠るのが怖い)
私の調子が悪いのはみんな気付いてるだろう。
口では何も言わないけれど、いろんな事を気にしてくれている。
相談したいけど、こんな私をみんなはどう思うんだろうかと考えると、誰にも言えない。
深いため息を吐き窓を開ける。
不安な妖精たちは、私に暗い顔をさせない様に楽しい話をする。
(気持ちを切り替えないと)
私はその声を聞きながら目を閉じた。
今日は技術大会前日の日、学園が騒がしくなる。
毎日教室でクレアを見ているが、闇の影が現れたのは演習室での1度きり。影は何だったんだろうか。
ジョナからもらった紙にも、黒い影が現れれたなんてそんなことは書いてはいなかった。
ゲームにはなかった事だと改めて感じた。
それに、クレアの私に対する視線は変わらない。
何かを企てるなら、明日の技術大会が動きやすい。私が部屋からダイニングルームに行くと2人は椅子に座り何か話し合っていた。
私が扉を開ける音が聞こえた様で、2人は私の方を向く。
「おはよう」
(おはよう)
「おはよう。リアーナ」
アッシュは椅子から立ち上がり私の前に立ち、目の下を親指で摩る。
隈を見つけたのだろう。
いつもはナナに頼んで見えなくなる様にしていたから。
「今日は僕がここで朝食を作るから、ゆっくりすると良いよ」
お兄様はキッチンに行ってしまい、アッシュと2人になる。
夢のせいで、アッシュを少し避けていて気まずい。
(……アッシュ)
「…………」
アッシュは無表情のまま私を見る。
怒っているのだろうか。
私に愛想尽かしただろうか。
不安になり、私の視線は床へと下がっていく。
「いつになったら、お前は俺を頼ってくれるの。お前の力になりたいんだ」
アッシュは優しく頭を撫でる。
お兄様が戻ってくるまで私は顔を上げる事は出来なかった。
昼休み。学校の中庭でローズとベンチで隣合わせに座っている。
「手を出して」
笑顔のローズに手を出して手を握られる。聖なる光の力が身体の中に入ってくる。
暖かくてホッとする。
時々、ローズには聖なる光の力を貰っている。
いつもローズは快く引き受けてくれる。
「明日ジョナの謹慎が終わるの。技術大会が終わったら3人でお話しない?」
(もちろん)
「ジョナ、リアーナが最近来ないって拗ねてたわよ」
ローズはクスクスと笑っている。
夢の事でジョナの所にも行けなかった。
可愛らしく怒ってるジョナが想像出来て笑ってしまう。
「笑ってるリアーナはとっても素敵ね」
そう言ったローズの方が私よりもずっと素敵だと感じた。
ローズと昼休みずっと話していた。
その後いつもの様に授業を受けて過ごし、明日の技術大会でどこか落ち着かない学園を後にした。
夕食をアッシュとディオと3人で食べ、素早く部屋へに戻った。アッシュとディオともあまり話さなかった。申し訳なく思いながらも、笑顔を繕うことが出来なくて心配をかけたと思う。
ベッドに倒れると疲労感に襲われ、眠りたくないのに目が閉じていくのがわかる。
苦しい。怖い。暗闇から恐ろしい物が出てくる気がした。
寒々しい雰囲気の場所で手元が温かく感じた。何故か怖くなくっていく。
徐々に意識が覚醒してきた。
見慣れた天井が薄らと見える。
手が温かい気がして思わず手を胸に置いた。
(身体が少し楽になってる気がする)
時計は夜中の1時を指している。
部屋の扉が少し開いていて、ダイニングからの少しの明かりが漏れている。
ゆっくり扉を開ける。
お兄様がアッシュと話している。
部屋の光が眩しくて何を話してるのはわからなかった。
「お前じゃないと駄目なんだ。だから、頼む」
「わかってる。俺の大切な人だから」
「ん?」
少しよろめいてしまった。
物音で私に気付いたお兄様は駆け寄ってくる。
「リアーナ、体調はどうなんだ」
(……大丈夫)
すぐに返事を返せなくて変に思われただろうか。
「……大丈夫だよ。大丈夫だから」
コクンと子供の様に頷く事しか出来なかった。
お兄様に抱きしめて貰い嬉しかった。
でも、やっぱり違うんだ。
お兄様の肩越しにアッシュが見える。視線があってしまう。
「……ファディス。ごめん」
アッシュはお兄様から私を引き剥がして、私の部屋に入る。
薄暗くて顔を近づけないと表情が見えない。
「横になって」
(アッシュ?)
私をベッドに入れて、アッシュはベッドの隣に椅子を持ってきて座る。
そっと手を握られる。
「目を閉じて」
アッシュの手が私の目を覆う。咄嗟に目を閉じた。
アッシュの手が目から私の手を握り締めた。
さっき夢を見ていた時に感じた温かさを感じ、さっきの夢が怖くなくなったのはアッシュが手を握ってくれたからだと分かった。
意識がどんどんと深く沈んでいく。
暗闇じゃなく、優しく光に包まれてる様で安心する。久しぶりに安心して委ねらる気がする。
「……リアーナ……」
聞こえるはずのない、幼い時にいつも聞いていた声よりもずっと低くなった、アッシュの声が聞こえた気がした。
読んで頂きありがとうございました。




