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楽しんで頂けると嬉しいです。
学園の授業が始まってから1週間が経った。
吸収の能力については未だわからないし、アッシュにもまだ返事をしてない。
ゆっくり考えて、と言ってくれた言葉にそのまま甘えている。
今は授業で、実習室で技術大会に向けて練習をしている。
技術大会は魔法で作られた人形にどれだけのダメージを与えられるかで優勝が決まる。
私は部屋の隅のベンチに座り見学をしている。様々な魔法が使われているのを見るのは楽しい。
『すごーい』
『あんなに光の魔法扱える人いるんだね』
『ファディスもアッシュも凄かったけど、あの人も凄いね』
『さすが王族だね』
いろんな魔力に引き寄せられたのかいつの間にか妖精たちが私の側で見ている。
上級生の演習を見る事になり、代表としてロゼット様とアッシュが1年生に魔法を見せていていた。
ロゼット様の光の魔法は洗練された美しさと威力で思わず見入ってしまう。
『ロゼット様をお褒め頂きありがとうございます』
声がする方を見るとロゼット様の妖精がこちらに寄って来て、その後ろからロゼット様もやって来る。
「リアーナ」
眩しい笑顔で私の隣に座る。妖精たちはロゼット様にお辞儀をして周りを回り出した。
「学園には慣れたかい?」
(先生方にもクラスの皆様にも優しくして頂いて学園生活を楽しんでいます)
私の書いた紙を見ると満足そうに、良かったと一言いい目線を私から演習している他の生徒へと向ける。
いつの間にか妖精たちも姿を消し、隣に居るロゼット様の視線を辿る。
ローズが丁度人形と向かい合っていた。
聖なる光を使い、一筋の光が無数の矢になり人形に向かって行く。
明らかに不自然な1本の矢がこちらに来るのがわかったが咄嗟の事で何もできず、迫って来る矢を目で追った。
時間がゆっくりと進む。
遠くでアッシュが必死に走って来る姿が見え、デォオも驚きの表情をしていた。そして、私の目線の端に映るクレアの笑った顔とクレアの身体から出た黒い影。
時間の早さが戻り、腕を引っ張られて身体が傾いた。引っ張ったのがロゼット様だと気づいたのは、ロゼット様の腕の中だった。
「大丈夫だった?」
私が頷くと、安心した様に笑いロゼット様は私を離した。
ロゼット様は後ろを振り向きローズの放った矢が壁に刺さっているのを見ている。しばらくすると矢は消えうっすらと黒い影が出て消えた気がする。
周りを見ると、一部の生徒しか見ていなかったらしく演習室が混乱になる様な大事にはなってない。
アッシュとディオは目配せて、ディオは演習室から出て行くのが見えた。
アッシュが駆け寄って来る。
「大丈夫か?どこも痛いところないな。……ロゼットありがとう」
アッシュが確認する様に私が怪我をしていないか確認して、大丈夫だと分かると安堵のため息を吐いた。
アッシュはロゼット様に話しかけているが、ロゼット様に重なり何を話しているのか見えない。
「リアーナを守ってくれとは言ったが、抱きしめろとは言ってない」
「ははっ、ごめんって。リアーナが無事で嬉しいでしょ。……で、怪しい子がいたんだけど……」
「それなら、ディオが追ってる」
ロゼット様はアッシュに耳打ちをして、アッシュは頷いている。
「リアーナが無事で良かった。こいつに側に居てもらってね」
ロゼット様は振り返り私を見てそう言うと、チラチラと私に視線を送って心配そうにしているローズの所に行った。
(あれはローズが悪いわけじゃない)
クレアから出ていた、黒い影を思い出す。
その黒い影が、少し怖かった。
屋敷で倒れた時に感じた暗闇に落ちていきそうな……。
私は考えるのをやめ、ローズを見た。
ロゼットとローズが力を使った時の事を話しているのだろう。ローズは手振り身振りで説明をしていた。
気が付くとアッシュは隣に座り、私の頭を撫でていた。
私を見る表情が優しく、凄く居た堪れない気持ちになる。
でも、アッシュの隣は凄く安心する。
安心したからなのか、今頃になって矢が私を狙っていた事に恐怖を感じた。
私の些細な変化を感じたのか、頭を撫でるのをやめた。
アッシュに両肩を掴まれて、顔を覗き込まれる。
不安そうな表情で私の顔を見る。
「リアーナ」
(……私は大丈夫よ)
心配して欲しくなくて口を動かしても、アッシュには私が恐怖に苛まれてるのはわかっているんだろうなと思う。
アッシュは優しく抱きしめてくれる。
なんでこんな気持ちになるんだろう。
アッシュの体温が、凄く温かくて心地良くて……。
私はこの気持ちに名前をつけたくなかった。
読んで頂きありがとうございます!
誤字脱字報告ありがとうございました!




