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楽しんで頂けると嬉しいです。




『リアーナおはよう』

『あれっ?レオ様の匂いがするよ』

『レオ様来てたんだね』


(少しお話ししただけですよ)


 朝は侍女よりも先に妖精たちが起こしに来てくれる。昨日はレオ様が来たから匂いがついてるのかしら。


『レオ様はリアーナの事好きだもんね』

『でも、リアーナにはディオだと思うの』

『何言ってるのアッシュでしょ』

『グライアドだってば』


 いつの間にか話が変わっていて私の周りを高速移動でクルクルと回っている。


(私は誰も好きになりませんよ。……なる資格なんてないんです)


 そう思ってしまって妖精たちと目が合ってしまう。その表情はみんな悲しそうで辛い。

 いつもなら深く考えないようにしてるのに、今は考えだすと止まらなくて。


『それは違うよ。リアーナ』


(……私はあなたたちが居れば寂しくないです。後で庭に行くので待っていて下さいね)


 笑顔で言う私に、渋々頷き妖精たちは消えていく。


 妖精たちは恋話が大好きで、あのご令嬢はどこかのご子息を好きだとか、あの2人は喧嘩して大変とか、そんな話をよくしている。

 妖精たちの恋話を聞くのは楽しいけど自分になると別。

 私は今が楽しければそれで良いと思う。


「お嬢様。何かありましたか?」


 朝食を食べているとディオがこっちを心配そうに見ていた。

 首を横に振り心配ないよって意味を込めてにっこり笑う。

 それ以上聞かれないように。


「そう言えば、アッシュ様が来るって言ってました。さっき手紙が届いて……」


「よっ!リアーナおはよう。もっと早く来たかったんだけど家に寄ってたから」


 ディオの目線を見るとアッシュがいた。

 アッシュは一つ上の16歳で短い赤い髪に金色の瞳。七賢者の1つルター公爵家の三男で私たちは昔から遊んでいた幼馴染み。

 今は学園で自由に生活しているらしい。


 アッシュは学園の休みになるといつも、この屋敷で生活している。リアーナが心配だからって言ってるけど本当は違うと思う。

 ルター公爵が厳しい人で、厳しさに耐えられなくてここに逃げて来てるのではないかと私は思ってる。

 昔からこの屋敷に泊まったりしてるし。


「リアーナ、変わりないか」


(大丈夫です)


 私は口を動かして微笑む。

 アッシュは私の近くに来て本当に大丈夫かどうか確認する為にいつも抱きしめる。


「本物のリアーナだ」


 いつもより長く、そしてだんだんと強くなる抱擁にディオも慌てて離そうとする。いつもはすぐ離れるのになかなか離してもらえない。

 いつものアッシュじゃないみたい。


「アッシュ様。それ以上はおやめ下さい」


「ディオ待て。もう少しリアーナを」


 私から引き剥がされたアッシュに紙を見せる。


(学園で何かあったの)


 アッシュは少し悩んで、ディオを見ながら口を開く。


「俺、ちょっと生徒会みたいなのに入っちゃってさ。そこでね、少し厄介ごとが。リアーナを見て幸せ補給みたいな感じ」


 アッシュは本当に疲れているみたいで少し遠い目をしてる。


 生徒会と言えば兄のファディスは生徒会会長だと言っていた。学園でやる事があるから帰るのは無理かもしれないと手紙に書いてあった。

 生徒会とは私が想像している以上に大変なんだろうかと思う。


「ファディスもお前に会いたがってた」


(学園は大変なのですね)


 アッシュは私の書いた紙を持って隣の椅子に座る。


「あぁ、リアーナを学園に連れて戻りたい」


「そんなことしたらファディス様に怒られますよ」


「知ってるよ。そんなこと」


 ため息ばかりつく2人を見てふと思う。

 学園がどうなっているか知りたい。本当ならば私は入学して主人公にライバル宣言してるはず。

 ゲームと何が変わっているのだろうか。


(どんなことあるのですか)


 紙を見せると渋々にアッシュが言う。


「凄い能力を持った子が入学してきて、大変なんだ」


 多分、主人公だわ。もしかしたら、魔法の制御が出来ていないのかもしれない。


(ご自分で制御出来なくて悩んでいらしゃるとか)


「うん。まぁ、そんなところかな。けが人と建物崩壊。生徒会の処理作業が追いつかなくて。いつ暴走するかわからないし」


 ドクンと心臓が大きく動く。

 もしかしたら、私が精霊の加護を与えられたから、主人公に加護が与えられなかった可能性もある。


 本当なら主人公は妖精と一緒に成長して制御出来る様になるはずだったのに。

 それに、ターラとディオは私と一緒にいてはいけなかった。本来なら主人公といるはず。


 私は、なんでこんな大事なこと思い出せなかったの。

 私はなんて事を。私は知らずのうちに主人公からいろんなものを奪っていた。

 考えると血の気がどんどん引いていく。


「お嬢様?顔色が」


「リアーナ大丈夫か」


 大丈夫なんかじゃない。1つ思い出せば、どんどんとゲームの知識が溢れてくる。

 ダメ。もう、無理。視界がぼやける。


「お嬢様!」


「リアーナ!」


 2人の慌てた表情と叫び声が聞こえ私は意識を手放した。




 画面が映る。

 肩までストレートの銀髪。愛くるしい青い瞳。誰もが幸せを感じる微笑み。

 攻略対象は第二王子のロゼット様とお兄様のファディス。精霊王レオ様にルター公爵家の三男アッシュ。医者の息子のディオ。学園の先生で私の家庭教師だったグライアド。


 みんな主人公と楽しく笑っている。

 幸せそうに愛を語るのだ。


 私はもう心から笑えない。




 深い深い暗闇に落ちていく。とても怖い。

 光なんか一切見えなくて、絶望と言う感情しか湧かない。

 今まで、『今が幸せ』『今が楽しければ』なんて自分の事ばかりだった。このままでは、いけない。私なんかが幸せなんて感じてはいけなかった。


 母親を見殺しにした私なんて愛してもらう資格なんてない。

 誰かを愛する資格なんてない。

 何も出来なかった私なんて幸せになる価値なんてない。


 私は悪役令嬢で幸せなんて感じてはいけない。でも今の私はゲームのように主人公をいじめることなんて出来ないから、今の私ができる事を探さなければ。


 まず、主人公に精霊の加護を渡すためにレオ様に会って話さないと。


 暗闇に落ちていく感覚の中でずっと考えていた。



読んで頂きありがとうございました!

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