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19 ディオside

楽しんで頂けると嬉しいです。

 

 お嬢様は覚えているだろうか?

 初めて会った時のことを……。







 母親に先立たれ、父と2人でいろんな街を転々としていた。父は腕の立つ医者で、いろんな人に頼まれて治療を行なっていた。自分も同じ道に進むのだろうとなんとなく考えていた。


 父の腕が買われ、ある公爵家に専属として住み込みで働く事になった。当然、私も一緒について行くことになった。正直、専属として働く事にあまり良い気はしなかった。父は日頃から1人でも多くの人を救いたいと言っていたから。





 馬車に揺られ屋敷に着いた時に、空は晴れているのに、雨が降り雷も鳴り出した不思議な天気だった。


 雨と雷は嫌いだ。母親が亡くなった日を思い出すから。だから馬車から降りて直ぐ、大きな雷が鳴った時に思わずしゃがみ込み泣いてしまった。

 母が息を引き取った思い出が頭を駆け巡る。

 母は自分に向かって、弱々しく手を伸ばす。その手を掴もうとするのに、母の手はベットに沈んだ。

 あの時、もう2度と母の温もりを感じられないのだと理解した。



 気がつくと手に温もりを感じた。目の前には綺麗な貴女がいた。

 そっと私の手を握り、雨に打たれながらも笑う貴女を見て、雨と雷が不思議と怖くなくなった。

 雨が太陽の光でキラキラと降り注ぎ、貴女が天使様に見えたんだ。


 一瞬、優しく微笑む母の姿が脳裏に映る。

 雨の日の母との思い出は悲しいだけではなく、心が温かくなる思い出もあったことに気付いた。

 父の帰りを待ちわびて、母と家の前で傘をさし待っていたり、雷の日は怖いという理由で恥ずかしくなく母に抱きつけた。凄く幸せだった。


 貴女が優しく笑うから、貴女が優しく抱きしめてくれたから、自分は……。


 雨の日が特別な日になったんだ。






 この想いが叶わぬ恋なのだと気づいたのは、貴女に手を引かれ一緒に笑顔で貴女の後を追っていた頃だ。


 侍女たちが、婚約について話している場面に出会したから。


『旦那様はお嬢様に公爵家以上の方でないと婚約は認めないとおっしゃっていたわ。全てにおいてお嬢様を守れる人じゃないと駄目だって』



 自分には爵位など関係ないと思っていたが、あの話を聞いた時どれほど何故父が爵位を持っていないのかと何度嘆いたことか。




 どれだけ時が経とうと、自分の立場は変わらなかった。ただ、貴女の1番側にいられる事が自分の誇りだった。

 貴女と毎日同じ時を過ごせる事が幸せ。


 たとえ弟のように思われていたとしても、貴女が自分に笑いかけてくれるのであればそれで良かった。


 アッシュ様がいても自分の帰る場所は貴女の側で、貴女の帰る場所も私の側だった。

 アッシュ様よりも優位に立てた、なんて勘違いをしてしまったのか。



『お前じゃ釣り合わないよ』



 前からわかっていた事じゃないか。覚悟していた事なのに。

 アッシュ様に、言われた言葉がずっと頭を駆け巡っていた。


 改めて自分じゃ駄目なんだと実感した。


 せめて、お嬢様が幸せで居られるように私が側に居たい。


 貴女の為に医者になりたいと思った。





 お嬢様が、学園に通う事になった。

 凄く心配だった。良くも悪くも学園は様々な人がいる。お嬢様が傷つかない事を近くで見守る事しか出来ない。


 ローズ・ダイナと夕食をした日。お嬢様が珍しく席を立たれた。


(恥ずかし事聞かないで)


 どんなに悲しい笑顔をしていても、慰めるのは自分じゃない。

 真っ先に動くアッシュ様を見ないフリをして自分の心を鎮める。


 アッシュ様がお嬢様に告白してから、お嬢様の表情が気になる。

 側にいたい。欲求が増していく。


 アッシュ様を見て、笑わないで。

 アッシュ様を見て、頬を赤らめないで。

 アッシュ様を見て、好きにならないで。


 アッシュ様と貴女が手を繋ぎ、自分の前を歩く。

 前は気にならなかったのに今は物凄く気になる。


 お慕いしてるだけで良かったはずだった。

 覚悟していたはずだったのに。


 たまに握るお嬢様の手を離したくないと思ってしまっている。






「ディオ。リアーナの能力の事、公言するなよ」


 ジョナ・ダイナの部屋に行きたいと言ったお嬢様にアッシュ様と付いて来た。部屋の前で待っているとアッシュ様が話しかけて来た。


「もちろんです。ファディス様に頼まれていますから。私はお嬢様にとっての最善を尽くすだけです」


「お前はファディスの命令じゃないと動けないのか」


「違います」


「お前の目付き気に入らないんだよ。リアーナの隣に居るのが当たり前だって言ってるみたいで」


(私はアッシュ様の目付きが気に入らないです)


 なんて表立って言えないから黙ったまま目線を逸さなかった。


「俺が側に居られない時はデォオに任すが、何かあった時は全力でやれよ」


「……当然です」


 今、当たり前の様にお嬢様の隣に居るこの人が、途轍もなく腹立たしい。

 お嬢様が大変な時に側に居れないもどかしさが、とても……苦しい。








 授業が始まる日の朝にあんな事があり、お嬢様はリアーナ・ノーズワット公爵令嬢に相応しく堂々したお姿だった。


 人の群れなど慣れていないだろうに、どれだけ気を張っていたのだろうか。

 朝食の後にアッシュ様がお嬢様を労っていたと思うとモヤモヤする。


 自分でもお嬢様に何かしたかったのに、気の利いたことなんて思い浮かばなくて。

 あの時、お嬢様が喜んでいたからこの場所を選んだ。


 噴水を見て喜んでいる、お嬢様はさっきまで何を考えていただろうか。


 目をキラキラさせて隣で笑っているお嬢様を愛おしく思う。お嬢様から、与えられてばかりだった気持ちが溢れ出した。


「貴女がどんな方と一緒になっても後悔しない様に過ごしてきたのに……。この想いは私の心の中に持っていて良いですよね」


 衝動的にそっと後ろから抱き締めた。

 もっと近くに感じたくて、肩に顔を埋める。 


「もう少しこのままで。……リアーナ……」


 自分が信じられない。名前なんて声に出すつもりなんてなかったのに。

 お嬢様に聞こえなかったとしても、私はなんて事をしたんだ。

 自分の耳に聞こえた自分の声が滑稽に思えた。


 慌ててお嬢様の手を引き、ベンチの上に置いてあった鞄と教科書を手に取り生徒会室へと向かう。

 心臓が大きな音を立てて動いている。


 生徒会室の前で止まり、振り返る。


「お嬢様。さっきは申し訳ありませんでした」


忘れて下さいとは言えなかった。

これは私の我がままだ。

少しでもお嬢様の記憶に残っていて欲しいと。



私は一生この想いを胸に抱き進んでいく。







読んで頂きありがとうございました。

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