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楽しんで頂けると嬉しいです。
「……リアーナ」
閉じた瞼に陰が映る。そっと目を開けると、心配そうなアッシュの顔があった。
アッシュは何も言わずに隣に座る。何故かアッシュの顔を見れなくて、小さく咲いている花を見る。
「表立って守ってやりたいのに、お前は守らせてはくれないよな」
さっきまで疲れてたのに、アッシュが側にいると安心できる。
アッシュの視線を感じるけど恥ずかしくて見る勇気は無い。
「いろんな奴に優しくて、変なところで意地張って、心配かけない様に頑張って、いつも笑顔で。不安だって思ってるくせに無理に聞き出さないと言ってくれないし。……なんか変な奴には相談するのにな」
優しく頭を撫でられる。
(気持ちが良い)
いつもされてるはずなのに今日はなぜか違う気がして自分の感情に戸惑ってしまう。
流石に振り向こうとするけど、アッシュの頭を撫でる力が強くなって振り向けない。
「泣くまで見守るから。泣いたら、俺が全てぶっ潰してやるから。それまで、好きにして良い。取り敢えず、お前の知らない所で守っとく」
ポンポンと頭を優しく叩かれてアッシュに目線を向ける。アッシュは立ち上がり笑顔で私を見た。
「そろそろ行くか」
私が頷くとアッシュは手を取り庭から出て行く。
どこに行くのかと疑問に思っていると、アッシュが目線を合わせながら言う。
「グライアド先生に呼ばれてるから学園に行くよ」
アッシュに連れられ学園に向けて歩いて行く。
学園にあるグライアド先生の教員部屋に入ると和かに迎えてくれた。
「リアーナ待ってたよ。アッシュありがとう。ファディスが呼んでたから後でまた来ると良い」
「わかった。リアーナ、また後で来るから」
頷くとアッシュは手を振り笑顔で出て行った。
「さぁ、座って」
グライアド先生は正面のイスを引き私は座った。
「リアーナ、今日は優雅に過ごした様だね。君の噂話で持ちきりなんだけど」
朝の事だろうかと首を傾げる。
「リアーナ・ノーズワットは可憐で優雅なお嬢様だってね。声が出なくても音が聞こえなくても、凛としていて綺麗だって。全く、君は何処ぞの子息たちを虜にしてどうするの?令嬢たちも憧れを抱いたって。余程、素晴らしい姿だったんだね」
いつもの優しいグライアドとは違い、少しイラだった物言いに困惑する。
(ただ、堂々としてただけなの)
紙と私の表情を見たグライアド先生は、一瞬困った表情をしてすまなそうに笑った。
「ごめん。リアーナに怒ってないよ。私の気持ちの問題だから」
綺麗なグライアドの瞳が揺れる。
小さくため息を吐いて、気持ちを切り替えた様にいつものグライアド先生に戻った。
「さっ、呼んだのは違う話だから。これ、リアーナの鞄と教科書」
グライアド先生が座っている隣のテーブルに鞄と教科書が置いてある。教科書は何冊もあり重そう。
「君には力強い人たちが付いているから、彼らに頼めば喜んで持つと思うよ」
アッシュとディオを思い浮かべているのか、クスクスと笑っている。
「後は学園の事だけど。学力的には申し分はない。ただ、魔力の授業は少し休んでいて欲しい。これから、魔法クラスで技術大会が行われるんだ。何名かは見学するはずだからその人たちと一緒にいてね。今の君を出すには危険すぎる。聖なる光が消えそうなんだから」
グライアド先生は、私の能力の事を知らない様で、本当に心配してくれてる。
「解らないことがあればすぐに聞くんだよ。リアーナなら、いつでも大歓迎だよ。……これを持ってて欲しいな」
1つの宝石を私の前に出し、テーブルの上に置いた。
(綺麗)
「私の力を込めた石だから、もし何かあったら相手に投げれば雷で少しは動きを止めることが出来る」
宝石に力を溜め込むのには普通の3倍の魔法量が必要で長い時間がかかる。
グライアド先生はどれだけの時間をかけて、この宝石に力を溜めてくれたのか。こんな自分の為にしてくれて嬉しかった。
手に取った雷の力が込められた宝石は温かく感じた。
(大切にする)
「大切にしないで何かあったら使って」
(うん)
満足した表情で、私がポケットに入れるのを見ていた。
グライアド先生が不意に扉へ目線を向けた。私も釣られて扉へ目線を移す。
「失礼します。お嬢様。アッシュ様に言われてお迎えにあがりましたが、グライアド先生もう大丈夫ですか?」
ディオが姿を現した。
「えぇ。大丈夫です。では、授業が始まる10分前までにここに来て下さい」
(はい)
「これで全部ですか?では、行きますよ。グライアド先生失礼します」
頷くとディオは鞄と教科書を右手に持ち左手で私の手を掴んで、グライアド先生の部屋を後にする。
部屋を出るとディオは一旦止まる。
「ファディス様が昼食は一緒にと生徒会室で待ってます」
私は頷いた。でも、ディオはそこから止まったまま動こうとしない。何か意を決した表情で口を開いた。
「お嬢様。少しお時間頂けますか?」
ディオは真剣な瞳で見るから、とっさに答えられなかった。
私の反応が遅かったからか、ディオにしては不安な表情していて、珍しいものを見た気がする。
(うん。大丈夫だよ)
ディオは学園の中央にある大きな噴水の前に私を連れてきた。ディオはベンチに鞄と教科書を置いで噴水の近くまで行く。前見たときは2階の廊下からだったから、近くで見るとすごく大きく感じる。
「もう少しで、始まるので待っていて下さい」
しばらく2人で噴水の方を見ていた。
噴水が強弱をつけて噴き出したり、キラキラと七色の光に照らされて綺麗で、目を奪われる。
前見たときも綺麗だったけど、今見ているのはその時よりも華やかで美しかった。
「貴女がどんな方と一緒になっても後悔しない様に過ごしてきたのに……。この想いは私の心の中に持っていて良いですよね」
後ろから抱きしめられる。
隣にいたディオがいつの間にか後ろから抱きしめていた。ディオは私の肩に額を乗せて、髪が私の首にあたりくすぐったい。
ディオの体温が感じられて恥ずかしいなる。
「もう少しこのままで。……リアーナ……」
急にディオは私から離れ手を繋ぎ、ベンチに置いた鞄と教科書を持ち廊下を進んでいく。
ディオの耳が赤くなってるのに気付いて、私まで赤くなっていた様な気がする。
ディオはあれから、1度も私の方を見てはくれなかった。
生徒会室の前でディオは止まり、振り返る。
「お嬢様。さっきは申し訳ありませんでした」
そう言うと、生徒会の扉を開け中に入って行く。
私はディオの一言が何故か寂しく感じた。
生徒会に入ると会いたいと願っていたお兄様がいた。
「リアーナ。元気かい?夜は眠れている?」
お兄様は書類を持ち何処かに行くみたいで急いでいた。いつもみたいにお兄様は抱きしめてはくれない。
「リアーナの顔を見られて嬉しいよ。朝は大変だったようだね。僕が側に居てあげられなくてごめん。昼食を用意させたからゆっくり食べるといい。少し今から出てくるね」
お兄様はそのまま扉の向こうに消えて行った。
どう表現したらいいのか解らないが、胸の奥がモヤモヤした。
いろんな感情に振り回されている自分に呆れてしまう。
「リアーナどうかしたか」
首を振り、今はお兄様が用意して下さった昼食に目を向ける。私の好きな物ばかりが置かれていた。
ディオは飲み物を入れていて、アッシュにはお皿に取ってもらいお昼を過ごした。
授業開始15分前に生徒会から直接グライアド先生の部屋に着いた。
一緒について来てくれたアッシュとディオは私が中に入るのを見守って自分の教室へと向かった。
時間になりグライアド先生と一緒に教室に入ると、さらっと紹介された。私の席は1番後ろの窓側の席でディオの隣だった。ローズの席とは離れたが、目があったローズは手を振ってくれた。私も手を振り返した。
教室では朝の奇妙な視線は感じなかった。ディオの静かな睨みが効いたのか、朝の行動がそうしたのか私にはわからなかった。
取り敢えず、何もなく初めての授業は終わりを告げた。
ただ、1人。クレアの視線だけを異様に感じていた。
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