16 ジョナside
楽しんで頂けると嬉しいです。
私、殺されます。目の前にいるこの人に殺されます。
「なぜリアーナを襲ったのか聞きたい」
目の前にいるのは、私の最推しだったアッシュだ。
仁王立ちで正座の私を上から睨んでいる。
地下牢に連れて行かれた時も、リアーナが吸収の能力について聞きに来た時も、アッシュにすごく睨まれた。
その時も恐ろしい思っていたのに、その時よりも殺気を出している人はマジ誰なんですか。
ゲームの中のキラキラしたアッシュ様はどこに行ったのか。
「そ、それは、リアーナが居なくなればローズが好かれるのかなって思って……。だからと言って今はリアーナに危害を加えるような真似はしません」
本当に無害ですと、アピールするけどアッシュの鋭い眼差しは穏やかになる事はなかった。
「納得できない。俺は許せない。……なんでリアーナはこんな奴に相談なんかしたんだ」
「あははっ」
乾いた笑いしか出てこない。転生者同士なんです。なんて言っても信じてもらえないのは確実。下手したら私が死にます。
「1つお前に言いたい事がある」
ワントーン下がった声に背筋を伸ばしアッシュの言葉を待つ。
あぁ、アッシュが優しい言葉をかけるのは主人公だからなんですよね。
私みたいなモブにはこんな冷たいなんてわかりきった事ですよ。現実が痛い。
「リアーナが吸収の能力を持っている事を誰にも喋るな。いいな」
アッシュに殺気だった目で睨まれている。
喋ったらどうなるか分かってるんだろうなって、言ってるようで恐怖で体が動かない。
「……了解しました」
やっと絞り出した私の返事に、満足したのか部屋から出て行った。
「い、生きててよかった」
深いため息が自然に出てしまった。
この世に生を亨けた私は、前世の記憶をもって生まれた。
ここが日本ではない事は理解していたが、乙女ゲームの世界だと気付いたのはローズに出会ったからだ。
大人びた態度と紙に異国の文字を書いていた私は、家族から変な子供として認識されていた。
実際は前世の記憶がある為、子供になりきれなかった事と、日本語で覚えてる記憶を紙に書いていた。
今思うと、そりゃ変な子供だっただろう。
6歳の時、親戚の集まりで2つ下のローズに初めて出会った。ローズは病弱でなかなか外に出れなかったらしい。
それはもう天使かって言うぐらい可愛かったのを今でも覚えている。
ローズに出会った時に、ふっと思い出したのだ。もしかすると、ここは乙女ゲームの世界じゃないかと。
それから怒涛の如くローズに付き纏っていた、と言うと聞こえは悪いが本当にローズと一緒にいたのだ。まぁ、従者としてだけど。
ローズは一人っ子の為、私を姉として扱ってくれた。ローズの両親も私を娘として歓迎してくれた。
時は過ぎ、いつになってもディオは現れないし、アッシュとの子供の頃イベントも発生しない。
家庭教師になるはずだったグライアドも見当たらない。
妖精も見えないからレオにも会ってない様だった。
私はこれはおかしいと思い始めた。
こんな可愛らしいローズが蔑ろにられるのは意味があるはず。そう、思っていたけど原因は分らず終い。
わかった時には私は学園に入学した後だった。
ファディスが妹を溺愛していると噂が立ったからだ。
ゲーム内のファディスはリアーナを嫌っていた。理由はゲーム内で詳細はぼかされていたが、リアーナの態度が急に変わり好きになれないって言っていた。あんな横暴なリアーナに溺愛してるなんておかしい。
それに、グライアドはファディスとリアーナの家庭教師だった事が判明した。
やっぱりこれじゃ可愛いローズが幸せになれない。そう思った。
私は魔法は使えないので、普通クラスになりファディスと関わるのは難しくなり、グライアドとも関係性はない。どうすればいいか遠巻きに観察しながら模索した1年を過ごした。結局はどうにもらならかった。
2年生になり、アッシュとロゼットが入学して学校も華々しくなった。3人が並んで話してる様子なんて至福すぎて遠くで見ていた。恐れ多くて、近づけるはずもなく遠巻きに見て燻ったまま2年生を過ごした。
そして3年生。念願のローズが入学した。悪役令嬢のリアーナは病で入学出来ないと知り、攻略対象者にローズを推すなら今だと意を決して近づいた。
いかにローズが、可愛くおしとやかで清楚な女性なのかを力説した。しかし、結果は全然ローズに興味を持っては貰えなかった。
そして、私は運命の出会いをする。
庭園で何か聞こえた。見に行くとそこにはリアーナがいたのだ。リアーナの顔を見ると何故か急に怒りがこみ上げてきた。
ローズがゲーム通りにいかないのはリアーナの所為なんだと。
いつの間にかナイフを手にしていたのかわからないが、私はそのナイフをリアーナに向けていた。
そこから私の記憶は無い。気づけば地下牢に入っていた。
冷静に思えば、なぜそんな事をしたのかわからない。
ただわかる事は、ローズに迷惑をかけてしまったという事だけ。私はロゼットとアッシュにローズは関係ないと何度も言っていた。
私に転機は訪れた。地下牢に入って1日が経ちどうしたらいいかわからなかった。そして、リアーナが地下牢に来たと聞いた時は気が触れたのかと思っていた。
日本語で書かれた紙を見て私を試しているんじゃないかと疑いを持っていたが、そんな事はなくてリアーナは転生者だった。
それはそれは楽しい時間だった。ローズがいかに可愛いか力説し、リアーナに賛同してもらえる喜び。
この世界に私しかわからないと思っていた苦悩。理解してくれる人がいるのは、こんなにも幸せなのかと。
別に今の私に不満はない。でも、多分心細かった。学園でも、なかなか友達ができず攻略対象者を観察する毎日。
楽しかったけど、話す人がいなかった。
リアーナが帰った後はすぐに地下牢から出してもらえて謹慎1ヶ月で済んだ。
リアーナのおかげだと思うと感謝しても仕切れなかった。
目の前に不安そうなリアーナ。後ろにはアッシュとディオ。
私の恐怖は最高潮です。
アッシュの睨みに不安を覚え、居なくなってもなお扉の向こうで睨んでるんじゃないかとビクつく。
リアーナに心配されるが今はそれどころじゃなかった。
テーブルの上に一冊の本をリアーナは置いた。私がチラッと言った、おとぎ話の本だった。
おとぎ話の本を開き一緒に見ている間も不安そうに読み進めている。
読んでる間、リアーナが明るい気持ちになる様に、大袈裟に笑ったり頷いたり笑顔で話した。
リアーナの周りには頼りになる人達ばかりなのに、リアーナは不安に囚われて気付かないんだ。
「この世界に魔獣はいないし、心配しなくて大丈夫だよ。もし何かあったとしても、リアーナの周りには頼りになる人たちばっかりだから。私は魔法使えないからあれだけど、リアーナが不安に思ったら話聞いてあげる。だから、そんな顔しないでよ」
リアーナの顔つきが穏やかになって、少しは伝わったかなって思った。
リアーナに気分を切り替える為に、学園の話をした。
1枚の紙をリアーナに渡す。大まかなこの世界の流れを描いた紙。
会える時に渡そうと思って、昨日書いたのが今日役に立ってよかった。
抱きついて来るリアーナが可愛くて可愛くて仕方ない。
近くにあるリアーナの顔ををまじまじ見ると、ローズとはまた違った美しさだ。お礼を言われると本当に照れる。
「あの時は、悪役令嬢にこんな事されるなんて思っても見なかった。物凄く嬉しいんだけど。リアーナにも幸せになって欲しい」
リアーナには聞こえないが、声に出して言いたかった。
本当にこんな事になるなんて想像つかなかったから。
しばらくすると抱き合ったリアーナの姿を静かな表情で見ていたアッシュがそこに居た。
「……あ。時間ですか?」
「ジョナ。お楽しみのところ悪かったね。だけど時間だからね。行くよリアーナ」
リアーナから距離を取り、頷く事しか出来なかった。
例の如く、アッシュは直ぐ様リアーナを連れ去っていく。まぁ、リアーナの顔が嬉しそうだからいいか。
最後にちょっと伝えたい事がある。
アッシュは怖くて会話にならないから、私の部屋から出て行こうとするディオに声をかける。
「ディオ様、リアーナの本をお忘れですよ」
「あぁ。ありがとうございます」
取り敢えず、おとぎ話の本は抜いてディオに渡す。
そして一言。
「ディオ様、リアーナから目を離していけませんよ」
「……どういう事ですか」
これにはリアーナの死亡フラグが関係している。
もし、本当に補正されているのであればリアーナは死亡する可能性がある。
「疑問に思うかもしれませんが、お願いします。リアーナを1人にしてはいけないんです。離れるにしてもすぐ動ける距離に居て下さい」
何もなければそれで良い。何もなければ私が変に思われるだけで済むが、もし何か起これば絶対に私は後悔する。
ディオは始めは不思議な顔でをしていたが、必死で訴える私の気持ちが届いたのか頷いた。
ローズも、リアーナも2人とも幸せになって欲しい。
それが、私の切実な願いだ。
読んで頂きありがとうございました!
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