10 アッシュside
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ベッドに寝っ転がりリアーナを想う。
夕食時、リアーナの表情がおかしい事に気づいた。立ち上がったリアーナの手は力一杯握られていて、でも笑顔でディオと話し食堂から出て行く。
(1人にするな)
本能がそう警告を鳴らす。
俺の気の所為だっらそれで良いじゃないか。リアーナの後を追った。
エレベーターに乗り込むリアーナは泣いていた。
リアーナの涙を見て俺は冷静ではいられなかった。感情のまま自分の部屋に連れ込み、自分の想いをぶつけてしまった。
あんな悲しい顔をさせたかったわけじゃない。
ただ、知って欲しかった。俺がリアーナが好きだって。
「あー。……失敗したかな」
別れる時なんて、リアーナが困ると思っていながら我慢できず触れてしまった。
「……でも、1人で泣かせたくない」
自分がリアーナの特別になれたら、辛い時頼ってくれんのかな。
俺はお前が側にいてくれて人生が変わった。
あれは俺が6歳の時、母に連れられノーズワット家の屋敷に初めて行った時にリアーナに会ったんだ。
俺は屋敷に来る前に父親に剣の稽古でこっ酷く怒鳴られた後の事で、屋敷に着くなり母親の手を振り切り目の前に見えた庭園に逃げ隠れてた。
1人になった途端に思わず泣いてしまった。
「1人で泣いたら寂しいでしょ。だからね。私が側にいてあげるね」
ニッコリと笑って俺の頭を撫でた。金髪にふわふわな綺麗な髪を肩まで伸ばした絵本から飛び出した天使だと思ったんだ。
でも、その子は人間で羽根も輪っかもなかった。
それから、ファディスとも仲良くなり何かある事にリアーナのところに行った。
ファディスと剣の稽古をしたり、リアーナと庭園で人形遊びに付き合ったりした。時にはグライアドの授業を受けたり、ノーズワット家にいる時は自分が自分になれる場所だった。
あれは9歳の時、剣術の技術も上がり師匠に褒められて少し調子に乗った。腹立つ兄貴たちにバカにされ勝てるじゃないかって勘違いして反抗し返り討ちにあって、父親からは自分自身を否定されて家を思わず飛び出した。
どこか行く当てなんかない。ただリアーナに会いたくてノーズワットの屋敷に何時間もかけて着いた。
リアーナが出迎えてくれた時、リアーナが優しく笑って慰めてくれると思っていた。でも、リアーナは俺の頬を叩いたんだ。涙をいっぱい溜めて怒ってくれた。
「いなくなったって聞いて、心配したんだよ。……アッシュ、1人で泣かないで」
リアーナに言われるまで自分が泣いてた事に気付かなかった。それから2人で大泣きしたな。
あれからは泣いてないが、泣きたいと思った時や気分が落ち込んだ時にリアーナに会いに行っていた。側にいるだけで心が晴れるような気がしたんだ。
10歳になり婚約の話が出た時に真っ先にリアーナの名を出した。その頃から、リアーナに恋心を抱いていた。自分の名を呼んで笑顔で近寄って来るリアーナはとても可愛いかった。
リアーナとの婚約もまとまりそうになった時ある事件が起きた。
人生で1番最悪の日。
リアーナが誘拐され助かったという知らせ受けてすぐリアーナに会いに行った。
リアーナは声と音をなくしていた。
目の前で母親を殺されたショックだろうと。
「リアーナ」
リアーナは静かに笑う。笑うだけであの愛らしい声で俺の名が呼ばれる事はなかった。
それからリアーナは何かを諦めたような笑顔をしていた。
リアーナとの婚約もノーズワット公爵の一存により白紙に戻った。でも、諦めきれなくてリアーナに会いに行く頻度が多くなった。側に居れればそれで良かった。
しばらくするとノーズワット公爵が屋敷に帰らなくなったり、ターラさんとディオがノーズワット家に来たりリアーナの周りの環境は変わっていった。
「リアーナ」
俺は自分の想いを込めてリアーナに逢った時は抱きしめている。リアーナは全然気付かずに笑って受け入れていた。
自分が1番リアーナを思ってるそう思っていた。
「アッシュ様、必要以上にお嬢様に近づくのは良くないです」
「誰かに言われたのか」
「いえ」
「俺は良いんだよ」
ディオの目はムカついた。お前もリアーナに何かを想っているのか。
「お前じゃ釣り合わないよ」
無言で俺の横を通り過ぎて行く態度にイライラした。ディオに渡せない。
ファディスとグライアドは学園に行き、俺も通う歳になった。会える時間は全てリアーナに逢いに行った。そしてディオも、通う事になりリアーナは1人になった。
長期休業に入りリアーナに逢えると喜んでいた時家から連絡が入った。
俺に煩わしい事ばかり起こるんだ。学園の事だってどんだけ大変だったか。何の為に残りをファディスに押し付けたと思ってるんだ。
早くリアーナに会いたいのに。
家に帰ると親父の第一声が信じられなかった。
「この中から婚約者を決めろ」
テーブルの上にいろんな令嬢の写真と略歴などの書類が置かれている。
「婚約者なんか」
「お前を後継者にしたいと思っている。だから早く婚約者を」
「ふざけんな。俺は後継者になんかならないし、婚約者も必要ない」
テーブルの上の書類をぐちゃぐちゃにした。
「アッシュ。いい加減に」
「俺は、……俺は1人しかいらない」
何で今さら後継者になんてふざけてるし、俺の気持ちも兄貴たちの気持ちも考えてくれてない。
いつもそうだ。自分勝手なんだ。
(1日無駄にした)
急いでノーズワット家の屋敷に急ぐ。
リアーナの顔を見てやっと息が出来た気がした。
抱きしめた腕を離したくなかった。
それからリアーナが突然倒れた。
起きたリアーナはベランダで一段と諦めた笑い顔になって、思わず抱きしめようとすると拒絶された。逃げる様にして部屋に戻るリアーナを引き止めたくて出した右手は空を切った。
困らせてはいけないって思ってた。
学園で起こった事の全てが引き金だった。
どんなに大事にしていても、どんなに大切だって想っていてもお前は俺を通り過ぎて行く。
だったら、捕まえに行くしかない。
俺が自分の手でお前を守りたい。
もう我慢なんかしない。もう遠慮なんかしない。
もう1人で泣かせない。
「……リアーナ」
俺が幸せにしたい。
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