5話 課外実習開始
短めです。
「黒上君、大丈夫ですか?」
「……はい」
俺は吐きそうなんだけど吐くわけではないといった体調で四時間揺られたバスを降りようとしたところに、心配した声色でセリカ先生が声を掛けてきた。
一刻も早くバスから降りて空気を吸いたい俺は、セリカ先生の方には一切向かずに前にいる人に早く降りろと念を送る。
そして、何とか吐かずに外まで出て時間が経って楽になり、クラスメイトがこのバスの存在を見て物珍しそうに見ていたり、興奮している姿を思い出した。
それなら俺みたいなのばっかりだろと思って周りを見回すと、みんなぴんぴんしていた。
俺はバスには二十分ぐらいのを何度か乗っていて、その時も若干気持ち悪くなることがあったので、正直嫌な予感はしていた。
それと同時に、結構なクラスメイトがダウンするだろうなと思っていた。
だけど、調子が悪くなったのが俺だけっぽいのが、理不尽というか……いやなんか、理不尽に感じる。
「では皆さん、グループごとに固まってください」
俺はセリカ先生がこっちを心配そう見てくる視線を感じながら、リーゼルさんがいる方へと向かう。
「おい、大丈夫か?」
「はい」
リーゼルさんが俺のことを気にかけるような言葉を送ってきた。
自分の中ではだいぶ良くなってきたつもりなんだけど、まだ見てわかるぐらい顔色が悪いのかなと思いながらも、リーゼルさんに大丈夫だと答える。
「ここからは、グループで一週間活動してもらいます。一週間分の資金を配るので、グループリーダーは前に出てきてください」
気分を晴らす意味も込めて、ここで一週間過ごすのかーなんてボヤっと街並みを見ていると、セリカ先生が各グループリーダーに前に出るように指示を出し、封筒を手渡ししていく。
「困ったことがあったら、迷わず聞いてきてくださいね。それでは、解散」
自分たちのグループはギルドで依頼を受ける前に、ちょうど昼食時なのでさっき貰った軍資金を使ってレストランで食事を取ることになった。
「なんか……、ここの料理微妙じゃないですか?」
今発言したのは、今回のグループメンバーの一人ジンさんだ。
「いや、まあ……。だけど、しょうがないだろ。そんなにお金を無駄遣いできないし、ここら辺のこと知らないんだからうまい店なんてわかるわけないし」
うちのグループのリーダであるウォルフさんが何とも言えないような顔をして、ジンさんの方を向く。
「でも確かに、うまくもなければまずくもないって感じだよな」
リーゼルさんはフォークで円を描くようにくるくると回しながら言う。
「……リーゼル、それ行儀悪いぞ」
ウォルフさんの声色は少しだけ低く感じるものだった。
指摘されたリーゼルさんは、素直にフォークをくるくる回すのをやめたが少しだけ不満げに見えた。
「セーネちゃんは、黙々と食べてるけどおいしいのか?」
「……別に、食べられればいいから」
そんなやりとりの横で、もぐもぐと無言で食べているのは最後のグループメンバーのセーネさんだ。
セーネさんは相も変わらず感情が何も読み取れない表情していた。
最初は自分以外の全員もこの淡泊な返しに戸惑っていたが、グループとして交遊していくうちになれたようだ。
まあ俺は慣れてないけど、そういうものだとは納得した。
「そうか」
リーゼルさんはなんか納得した表情をした後、こっちを向いた。
「黒上はどうだ」
「……まあまあですね」
他の人からの反応が分かる通り、明らかに美味しいわけではないのでただ単純に感じたことを素直に伝える。
「そうだよな!やっぱり冴えないやつが選ぶ店は冴えないってことかな」
「……次の店、リーゼル、お前が選べよな」
ウォルフさんは怒るでもなく淡々と言う。
「いいぜ、ウォルフとは違うところを見せてやるぜ!」
リーゼルさんは淡々というウォルフさんに対して生き生きとした様子で言った。
俺はそんなリーゼルさんのことを騒がしいなと思ったが、これで店探しを頑張ってくれればおいしい料理が食べられるかもしれないと考えるとまあ別にいいかと思い流す。
というか店の中でこんな会話をしててもいいのかな、なんてふと思った。
でも何も言われてないしまあいいか結論付けて、腹を満たすためにこの微妙な料理を胃へと流し込む作業を再開した。
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