2話 リーゼルとウォルフ
前回より長めです。
俺は二十分ぐらい立たされた退屈な朝礼が終わって教室に戻っている途中、昨日話しかけてきた調子のよさそうな人と鋭い目つきの人が会話をしているのに目が付いた。
「ラッキーだよな、まじで。義務教育っていうのができて。こんなでっかい学校に通えるから」
「……いや、それは俺たちとは関係ないだろ。もう十六なんだから」
昨日話しかけてきた人がお気楽そうに後頭部に腕を組みながら話している横で、鋭い目つきをした人が、いや何言ってんだお前、といった感じの目をしていた。
「まー、そうだけどさ。そういうのができたおかげで国から援助金くれるんだろ」
「違うだろ。別に義務教育があるから援助が出るわけじゃないぞ」
「わかってるよ、そんくらい。そうじゃなくて、何というか……、そういう方向性にいってるって言いたいんだよ」
ここ数年で、義務教育という九歳から十五歳以下の者たちは学校に通わなければならないと国が義務付けられた。
何故そんなことが義務付けられたのかというと、もともと十年前から学校を通うこと自体はお金がかからなくなったらしいが、働き手が減るということが理由で学校に通わない子供たちが多かったからだ。
まあ義務化されたといっても、全員の子供に通学を強制することなんてできないだろうから、学校に来ていない子供というのは存在するらしいけど。
そして、今年から魔法の才能あると診断された子供たちは、俺が今いるような魔法を専門として教える魔法学園に通えるようになった。
その代わり、魔法の適性検査を受けた子供は適性がなかったとしても必ず学校に通わさせられるらしい。
で、そのついでなのかは知らないけど、同時に十六歳以上でもかなりの魔法適性があると判断されたものはほぼ無料で通えるようにされたため、俺たちはここ魔法学園レミナードに通えるようになった。
だから、さっき昨日声を掛けてきた人が言っていた義務教育によって、俺たちがここにいることとは無関係ではないといえる。
「そういうことか。……ちょっと話戻るけど、ラッキーかって言われると微妙じゃないか。だって、俺たちはちょうど義務教育受けられなかったって考えるとむしろ不幸じゃないか」
「いやでもさ、村のみんなを見てると、やっぱラッキーなんじゃないかなーって思うよ。一応俺たちも学校には通ってたけどこんなすごいところじゃなかったわけだし」
「まあ、確かにそれはそうだな。こんなところ、貴族とか商人みたいな金持ちしかこんなところに通えなかったからな」
鋭い目つきをした人は頷く。
「でも不幸もある。それは、勉強が面倒くさくて大変ってことだ」
「……お前、ここがなんのための場所かわかってるか?」
「そんなん、値段からは考えられないほどうまい学食を食べたり、可愛い女の子と付き合ったりとかだろ」
「いや、勉強するためだろ!」
「勿論それも大事だけど、ここに通えるのはたった三年しかないんだからな。楽しまなきゃ」
「そんなこと言ってる奴がここに三年間いれるか怪しいと思うがな。試しに三年間いれるかどうかの確認としてお前の成績を教えてくれよ」
「実技はクラス内ではトップ三に入っていたぞ」
「で、筆記の方はどうなんだ」
「まあ、全体的に二十点くらい上がれば平均点には届くぐらいかな」
「は~、そんなことだと思ったよ」
鋭い目をした人は友人のあまりのお気楽さのためか、ため息をついた。
「いや、大丈夫だって。これから頑張るからさ」
昨日話しかけてきた人は胸を張りながら自信満々に言う。
俺は二人の姿を見て、これが友人同士の会話というやつかと思った。
俺にはそんな相手はいないなと思っていると、
「お前、昨日の始業式で隣だったやつだよな」
始業式と同じようにいきなり話しかけられた。
始業式の時は、眠いから早く会話を終わらせたいという一心で気にもしなかったけど、俺は基本的にレイシアとしか関わらないのでどうすればいいのか分からない。
「お前、戸惑ってるだろ。ごめんな、こういうやつなんだ」
「なんだよその言い方……。まあいいや、そういえば名前言ってなかったな。俺の名前はリーゼル。そして、俺の隣にいるのがウォルフだ。で、そっちは?」
「ええっと、私の名前は黒上と言います。これからよろしくお願いします」
初対面の人にどう接していいかわからないので、丁寧な言葉で返した。
「おう、よろしく。でもそんなよそよそしくする必要ないぜ。俺ら同い年だし、クラスメイトだろ」
「あはは、すみませんこれは癖でして」
「いや、いいよ。でも珍しいな、このクラスで癖が敬語なんて……。もしかして、貴族様か大商人様の方ですか」
ウォルフさんはいきなり敬語を使い出し、へりくだり始めた。年齢を考えると貴族である可能性はあると思うが、大商人はないだろう。多分、大商人の息子と言いたいのだろうが。
「違いますよ。そんな風にしなくて大丈夫です」
「ぷぷ、おなじクラスにそんなんいるわけないだろ。しかも、いきなりへこへこしだしてダッセー」
今、リーゼルさんがなぜ同じクラスに貴族や富裕層がいないと断言できたのかと言うと、自分たちのクラスがCクラスで、貴族や富裕層がいるクラスはAクラスとBクラスだからだろう。
「……しょうがないだろ。もしかしたらがあるかもしれないじゃないか。あと、ダサいとか言うな」
ウォルフさんは少しだけ顔が赤くなっているように見えた。
「まあでも、敬語を使うって言うのは確かに珍しいよな。名前も珍しいし別の国から来たのか」
「いえ、違いますよ。ただ、両親は別の国の出身ですから」
「なるほど、そういうことか」
ウォルフさんは何か納得したようだった。
その納得するウォルフさんの様子にリーゼルさんがまた大笑いして、ウォルフさんが顔を真っ赤にするなんてことがありながら、三人で一緒に教室に戻った。
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