17話 黒上とミルフィーの戦い方
禁止エリア区画に入って飛行魔法を使うこと十分、サラマンダーが確認された場所、というかサラマンダーが視認できるところまできた。
「なんか思ってた以上に多いんですが……」
あまりのサラマンダーの数に頬を引きずる。
多くても十匹ぐらいだろうと思っていたのに、見渡す限り五十匹ぐらいは優に超えそうなんだけど。
「確かに思っていた以上に多いですね」
生徒会長も同じ感想を抱いたんだと思ってどんな表情をしているか気になり様子を見てみると、いつも通りだった。
この数でも生徒会長にとってはなんてことないのだろうか?
「それでどうするんですか?」
「……私がまずあのサラマンダーの群れに突っ込みます。そして、黒上君が打ち漏らしたサラマンダーの相手をしてください。必ずしも一匹だけとは限りませんが黒上君なら大丈夫ですよね?」
「えっ……、うーん……」
生徒会長がうち漏らしたやつ全部相手しなきゃいけなくなるって、どんくらいの数になるんだ?
二、三匹だけでもかなり厄介そうなのに、それ以上になるとめんどくさ――無理かもしれないし。
「……私は口が堅い方だと自負していますが、言われたとおりにやってもらうか、別の案を出してもらわないと黒上君がバッカス盗賊団を壊滅させた正体不明の仮面をつけた人物と、友人に口が滑ってしますかも知れません」
……何が口が滑ってしまうかもしれません、だよ。
こっちは単純に難しいかもしれないから、賛成しづらいだけなのに。
でも、断れるわけもないし……。
「できる限りは頑張らせていただきます」
「黒上君ならそう言ってくれると思っていました!」
「……ありがとうございます。じゃあ、生徒会長が言った通りにサラマンダー討伐と行きましょうか」
明らかに皮肉で言っているのは分かっているので無視した。
「……つまらないですよ、黒上君」
生徒会長は唇をとがらせる。
そんな姿も絵になるのが、無性に腹が立つ。
「そうですか」
「……かわいくないですよ、本当に」
まだ付き合いは短いけど、生徒会長とこういうやり取りで意地を張ろうとしてもろくなことにならなそうなので、無視を決め込む。
「……はぁー、もう少し詳しく作戦を練りましょうか」
生徒会長は俺の反応が面白くないのか、ため息をつき、作戦を練ることにしたようだ。
ため息つきたいのはこっちの方なんだよなと思いつつも、口には出さなかった。
直径五十センチくらいの数十本の氷柱が十匹のサラマンダーたち目掛けて向かっていくという光景が俺の目の前で起こった。
そして、氷柱に貫かれたサラマンダー達は、炎を纏った体を貫かれ凍り付く。
……やばすぎだろ。氷柱が炎を纏ったサラマンダーに刺さること自体おかしいけど、さらに凍り付くとか異常すぎる。
これが、生徒会長が受ける依頼か……。一人でこの依頼を受けなくて、まじでよかったな……。
これからは一人だけで依頼を受けるという考えを改めなきゃならないのかななんて考えながらも、散り散りに逃げ出すサラマンダーを三匹見つけた。
「まあ、そりゃ逃げるよな」
俺は必至に固まって逃げるサラマンダー達に憐れみを覚えながらも、追いかけることにした。
俺はまず、一匹のサラマンダーの目の前に設置型の魔法を展開する。
魔法が展開された場所にそのサラマンダーが足を踏み入れると、突如地面から先のとがった柱が出現しサラマンダーの体を突き刺した。
体を貫かれたサラマンダーは腹にどでかい穴をあけながら血を吐き倒れ込む。
残り二匹も同じ調子でいこうと考えていたが、魔法を使ったことによって俺の居場所を感知したのか一直線にこちらに詰め寄ってきた。
居場所がばれていないうちにもう一匹くらいかたづけておきたかったなと思いつつ、剣を生成し迎え撃つ。
とりあえず、あたりに複数の設置型の魔法を展開する。
二匹のサラマンダーは設置型の魔法を避けるようにこちらに向かってくることから魔力感知能力が鋭いのかも知れない。
牽制として風魔法を複数展開する。
サラマンダーは当たったらひとたまりもなさそうな鋭いカッターのような風を図体に見合わない軽快な動きで避けられ、俺からほんの数メートルの距離まで詰め寄られる。
四、五メートルという距離まで近づいてきた二匹のサラマンダーは鋭い爪を駆使して、こちらに殴りかかってきた。俺はその攻撃に対して、防御魔法を張り防いだ。
それでも、二匹のサラマンダーは防がれたことを気にせず殴りかかってくる。
「こえぇー」
絵面的にはかなり恐怖を誘う物だったので少しびびったけど、意外と威力自体はそうでもなく、余裕があるので先ほど使ったのと同じ風魔法をまた複数展開する。
風魔法に対して二匹のサラマンダーが避けようとして隙を見せたところに、剣に魔力を纏わせ近くにいた方のサラマンダーの足を切り落とした。
足を切り落としただけでなく、さっきと違い距離が近いからか風魔法を二匹のサラマンダーが避けられず被弾した。被弾した部分は血を吹き出し肉の部分が見えている。
「グウォーーー!」
そろそろ終幕かななんて考えていると、足を切られたサラマンダーは耳が痛くなるくらいどでかい咆哮をあげる。……うるせえ。
足のあるサラマンダーがこっちに殴りかかってくるのと同時に、もう一方のサラマンダーが口の前に魔方陣を展開して炎のブレスを放ってきた。
先ほど展開した設置型魔法を発動させると水がどばーっと出てきて、その水と炎のブレスが相殺し合う。
防御魔法には魔法に耐性のあるものと物理に耐性があるものがあり、物理耐性に特化した防御魔法を張ったため、少しひやりとしたがサラマンダーのブレスに備えて魔法にも耐性のある防御魔法を張りなおす。
殴りかかってきたサラマンダーに対しては、物理耐性も今張っている防御魔法にあるが先ほどよりも貧弱なので剣を使ってある程度いなすことにした。
事前に掛けていた身体強化の魔法の効力によって、俺の倍以上もあるサラマンダーの力にも負けない。
もう片方のサラマンダーは炎のブレスを放ってくるが、防御魔法で防ぎきる。
二匹のサラマンダーは有効打がないのか、またしても同じコンビネーションの攻撃を仕掛けてきた。
その動きは予想の範囲内だったため、防御魔法を張ったまま殴りかかって来る方のサラマンダーに対して風魔法を放つ。
先ほどとは比べものにならないほど大きな風の刃が現れ、サラマンダーの体を真っ二つに切り裂いた。
続けて俺の持っている剣に爆破魔法を込め、足を切った方のサラマンダーへと投げつけた。
投げつけた剣はサラマンダーの眉間に刺さり、バーンという音を立てて頭が破裂した。
……自分でやったこととはいえ、頭がぶっ飛ぶ光景は割かしグロいな。
違う方法にすればよかったな……。
俺はそんな後悔をした後、他に五匹ほど倒したら生徒会長から連絡が来て合流した。