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13話 帰り道


 今日は特に何か変わったこともなく学校が終わって帰宅している途中に、俺は昨日の生徒会室の出来事について思い出していた。


「本当に昨日は精神的にしんどかったな。……まあでも、生徒会長に正体ばれてないから最悪ではないけど」


 俺は誰にも聞こえないであろう小声で、ただ単に今日は何もなかっただけでばれていないと自分に納得させるようにうんうんと頭を縦に振る。


 ちょっと現実逃避をしながら道の角を曲がると、進行方向を少し進んだところに全身真っ黒な人物がいた。

 ……これ、見たからには消す、みたいなのないよな。

 そんな不穏さを感じる怪しい格好している人物が目の前にいて、私は何も知りません、分かりません、みたいな感じで、視線を空や周りの建物に向けながら歩く。

 ただ、そんな行為は意味をなさなかったのか、不審者っぽい人物はこちらに魔方陣を展開して氷の塊を放ってきた。


「な!?」


 見るからに怪しいやつだなと思ったけど、普通に考えて周りに人はいないけど本当にこんな町中で襲ってくることなんてことあるか!?

 俺はそんな愚痴を心の中で叫びながらも、氷の塊を避ける。不審者は続けて、今度は無数の氷の粒を放ってきた。

 反射的に、無詠唱で炎魔法を唱えた。氷の粒と炎がぶつかり合い、氷の粒はすべて溶けた。

 とっさに本来Cクラスの一年生レベルでは使えないような無詠唱の魔法を使ってしまったことを少しだけ後悔している間に、今度は黒い服装の人物は剣を構えこちらに駆けてきた。


 瞬間移動したのかというレベルの速さで俺の前に表れて、剣を振り下ろしてきた。

 まじか!?と思いながら、防御魔法を唱える。

 剣と防御魔法がぶつかり、キーンという思わず耳をふさぎたくなってしまうような不協和音が鳴り響く。

 そして不審者は防御魔法があるにもかかわらず、そんなの関係ないと言わんばかりに何度も剣を振り下ろしてきた。


 防御魔法に無駄に全力で使っちゃった。他の魔法を使う余裕もないし、防御魔法を張り直す隙もない。これじゃあ、ただ防戦一方になるだけでまずい。

 そんな風に迷っているうちに、相手の苛烈な剣戟によって防御魔法に限界が出てきた。

 これ以上自分の手の内をさらしたくなかったが、そんなことを言っている場合ではないと思い剣を生成する。そして、防御魔法を解除して不審者に斬りかかった。


 不審者の剣と自分が先ほど作った剣が交わり合った。

 互いに相手の体勢を突き崩せず、幾度も剣がぶつかり合う。剣がぶつかり合うたびに自分の身に冷気が襲い、剣が少しずつ重くなっていく。違和感を覚えた俺は握っている剣を見てみると凍り始めていた。


 俺は剣が凍っている姿を見て、一定以上に属性魔法が熟達すると意識するだけでその属性魔法に合わせた現象を引き起こすことができると学校の先生が言っていたことを思い出す。

 ……つまり、相手は氷魔法をある一定のレベルまで熟練してあり、常時体に冷気が纏わすことができるということか。

 しかも、戦闘に影響させられるとなると、一流の魔術師といえるレベルだったりするんじゃ……?


 なんでそんな奴がこんな所にいるんだと自分の不幸を呪いつつ、このままではこちらが不利になっていく一方なので防御魔法を再度張り直して相手の剣を受け止めた。

 そして、とりあえずこの状況を変えるため後ろに下がりながらさっき放ったものとは段違いの威力の炎魔法を放ち、使い物にならなくなった剣を相手に投げつける。


 少しぐらい効いてないかなと思いながら相手を見ると、氷の結晶を盾にして防ぎきっていた。

 やっぱり、こいつ強すぎる!?

 ひとしずくの汗が頬から垂れるのを感じながら、次の攻防戦も考えて剣を生成しようとすると――、


「そろそろここら辺にしときましょう。これ以上は周囲に被害が出てしまいそうですし」


 聞き覚えある声で不審者は停戦を言い渡し、フードを取った。

 フードを取った不審者から昨日昼頃に見た顔が現れ、俺は汗がだらだらとこぼれ落ちるのを感じる。


「あなたに救われた生徒が、助けてくれてありがとうと言っていましたよ」


 生徒会長のミルフィーは、満面の笑みを浮かべて言った。

 俺は頭が真っ白になった。何も考えがまとまらなかったが、とにかくごまかそうという気持ちだけが働いた。


「ええっと、何のことですか?」


「バッカス盗賊団から、レミナードの生徒達を助けてくれましたよね」


 その言葉に対してもしらばっくれようと思ったが、脳をフル回転させて考えてみると被害者の自分が知らないふりをするのはおかしいと気づき――、


「いや、自分は助けてもらっただけであって助けた覚えはないですよ」


「……しかし、あなたほどの実力があれば少なくともバッカスの手下相手なら助けてもらうような事態にはならないと思うのですが……?」


 何が助けてもらうような事態にはならないのですが……だよ!

あんまりこの生徒会長のことよく知らないけど、めちゃくちゃ性格が悪いことは分かったわ。


 はあ、とにかくもう積みか……。

 だって、ここでもし仮面の女ではないと言い逃れられたとしても、もう自分自身が明らかに他の一年生達よりも抜きん出ていることがばれてしまっているから。

 わざわざ正体を隠したのは、ただの一般生徒として無難に過ごしたという思いから来たものであるため、平均を余裕で超える実力を持っているということをばれている時点でもう隠す意味がない。


 でも、一つだけ分からないことがあるんだよな。

 確かにこの状況は俺にとっては最悪だけど、自分がいつも本気を出してないと言うことをわざわざ証明したとして相手はなんの利益がある?

 生徒会長と言う役職はかなり忙しいはずだ。にもかかわらず、わざわざこんなことをしてくる理由が分からない。

 それにもし恩人にお礼を言いたいことが理由だとすると、こんな闇討ちみたいなことはしてこないはずだし。


「何が目的ですか?」


 正直言って全く目的など知りたくないが、これを聞かないことには話が進まなそうなので仕方なく聞く。


「単刀直入に言います。生徒会に入ってくださいませんか」


「嫌です」


 考えるよりも先に口が動いた。もちろん、考えても答えは変わらないのだが。


「うーん、それでは仕方がありませんね。では、このことについては諦めます」


 え、諦めちゃうの。ここまでしたのに。


「意外でしたか?」


「ええっと、はい」


「別に、黒上君のことがほしくないと言うわけではないのですよ。ただここで誘ったところで生徒会に入ってくれそうにないから諦めると言うだけです。ですから、気が変わったらいつでも受け付けていますからね」


 生徒会長はいつものニコニコ顔をする。俺はその顔を見て背筋が凍った。


 どんなに脅されようともうなずく気はなかったからだ。

 だって、仮面の女の正体が俺だとばらされなかったとしても、生徒会に入ってしまったら正体を隠してもらう意味がないからだ。

 確かに、俺の思考回路を考えればここでうなずく意味がないというのはわかるかもしれないけど、昨日知り合ったばかりの人間の考えていることを当てるというのは普通じゃない。

 目の前にいるやつが、そんなやばいやつなんだと痛感させられた。


「大丈夫ですよ。そんなにわかりませんから」


 そんなにってなんだよ!明らかに分かっている奴の言葉じゃないか!


「ふふ、このまま黒上君と楽しく会話をしていたいところですが、もう日が落ちてきましたし本題を伝えます」


 楽しかったのはお前だけだろとは思ったけど、横道に逸れて帰るのが遅くなると嫌なので黙って次の言葉を待つことにした。


「私のサポートをしてほしいと言うことです」


 うわ~、面倒くさそう。

 この人に意味があるか疑問だが、そんな感情を表に出さない。


「具体的にどういうことをすればいいんですか」


「魔物の討伐ですね。私は高位魔術師に認定されています。いろいろと待遇がいいのですが、その代わりに魔物の討伐などが義務づけられます。ですが、私にも生徒会や学業もあるため、未熟な私ではアップアップなのです。ですから、黒上君には魔物の討伐を代わりにやってもらいたいのです。他にも、無理がない範疇でいろいろとお願いを聞いてもらいたいと思っています」


 なんかすげーめんどくさそうなんだけど。……断りたいな。

 

「もしここで黒上君が断ってしまったら、友人、いえ先生と会話をしているときについ黒上君はとても頼もしい人だと口が滑ってしますかも知れません」


 うん、そうだよな。そんな気がしてた。

 お願いとは何だったのかとは思いつつも、選択肢は一つしかないので仕方なく――、


「わかりました」


「良かった。黒上君が優しくて」


「自分はほんの数秒前まではそんなことはないと思ってましたけど、なんか今は自分って意外と懐広いのかもしれないとは思いましたね」


「そうなんですか?自分の長所を一つ見つけられたなんて、とてもいいことですね!」


 クッソ。皮肉を言ってやったのに、それでも生徒会長がニコニコ顔だからめちゃくちゃ腹が立つ。

 ……はあ、不毛だな。


「……ちなみに、今まではどうしてたんですか?」


「すべて一人でこなしていました。ただ、この忙しい中で手伝ってくれる方がいると助かります。それに、これからさらに忙しくなってきそうですし」


 聞かなきゃ良かった。これ聞いて手伝わなかったたら人としてどうなのかなって感じじゃん。

 いやまあ、聞こうが聞かまいが結果は変わらないんだけど、精神的な逃げ道がなくなったなぁーって感じがしてしまう。 


「ああ……、それから一緒に仕事をするパートナーですから、やはり親しみを持つことが大切ですよね。ですから、無理に敬語使わなくてもいいですよ。ああそうですね、私のことミルフィーって呼んでください」


「いえ、結構です」


 上級生、それもみんなの憧れの的みたいな人を、名前呼びするとかため口をきくとか面倒ごとが起きる未来しか見えないから、絶対いやだわ。

 あと生徒会長に「あなたはため口にじゃないですよね」って言ってやろうかな少し考えたけど、ないとは思うけれど本当にため口で話しかけてくると嫌なので開こうとしていた唇をチャックする。


「そうですか、残念です……。私からはもう何もないのですが、黒上君は何か質問したいことはありますか?」


「……とくにないですね。あの、もう帰っていいですか?」


「少し待ってください。生徒会室に集まると目立ってしまうと思うので、私のお願いや集合場所を伝えるために連絡先を交換しましょう」


「うん、まあ、別にそんなことしなくても良くないですか?」


「では生徒会室に毎回来てくれますか?」


「……わかりました。交換します」


 目の前の人物と物理的な接点とか持ちたくないけど、生徒会室に行って、生徒会長に合わなきゃならなくなったら絶対噂とかになりそうだし。

 ……なんでこんな目に合わなきゃならないんだ!


 俺は世の中の理不尽さを感じながら、帰路に就いた。 


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